9/11の日曜日、新宿NSビルで行われたNPO法人塾全協主催の合同相談会内で行われたセミナーを傍聴してまいりました。遅くなりましたが、その内容のご報告をしたいと思います。各段落の中で「 」がついている部分はセミナー時にパネリストの先生がおっしゃった内容、そのあとに続く「 」がついていない部分は僕の所感です。そのようにお読みいただけたらと思います。
1.森上教育研究所所長 森上展安先生、四谷大塚入試情報センター 岩崎先生 合同ディスカッション
①2極化の進行
「リーマンショック直前の2008年の受験者数を100としたときに、2011年入試では受験者総数は11%減で指数は89となっている。では、具体的にどのゾーンで減っているのか。四谷大塚の合格偏差値によってA~Hの6ランクに分けて各ランクごとの指数をみると
A=101
B=95
C=105
D=90
E=77
F=69
G=64
H=83
と、概ね学校のランクが高くなるほど減少幅は少ない」
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第二次中学受験ブーム、などと言われていた2008年のころに比べると全体で10%強の減。しかし、現場の人間の感覚で言えば、よく10%で済んでいるな、というのが正直な感想です。つまり、もっと減っている感が強いですね。恐らくは塾の基幹講座となるいわゆる平日の講習はサピックスを除くと15~20%の減、オプション講座は20~30%前後の減、といったところが多いのではないでしょうか。また「塾での勉強を補完する」役割の家庭教師の需要もかなり減っていると思います。ある家庭教師派遣会社では毎年前年比1割減で3年で3割近くダウンしている、とのことでした。いいのはサピックスと個別指導塾だけのようですね。
この厳しい経済状況の中、逆に10%減で済んでいる理由は、厳しい世の中であればあるほどきちんとした学力をつけていわゆるいい大学に進ませたい、という親の願望の表れ、という説があります。それ以外の理由を見つけるのはむずかしいので、どうやらそういうことなのでしょう。
さて、学校のランクごとの減少幅は確かにそうであろう、という印象です。Aが101.全体が10%減っている中でトップ校は逆に増やしているんですね。「受験者減」「易しい入試」というフレーズが喧伝されて、多少無理筋でも狙わせる、というご家庭が増えたのでしょうか。
Hが83で指数が高いのはある種の「統計のいたずら」でしょう。上記のランク分けが具体的にどのゾーンが偏差値いくつ、というのは示されませんでしたが、仮にA=70以上、B=65~70、C=60~65、D=55~60、E=50~55、F=45~50、G40~45、H=40未満 と偏差値で5刻みにした場合(各範囲の左が「以上」で右が「未満」)、Hに属する学校はかなり少数になるので、ある特異な動きをした学校があった場合、そのゾーン全体を左右しがちですね。
偏差値40以下となると学校の勉強もついていけていない層である。その子たちは、公立中学校へ進学したらばより高校受験で苦労する。都立入試がかつてないほど厳しい状況下、一つ間違えたら普通科に進学することさえ難しいかもしれない。そこで逆に中学入試段階できちんとした学校に入れておきたい、と家庭が考えた
という理屈も成り立つかもしれません。もちろん、そういう家庭も何割かは存在すると思います。思いますが、それだけが原因で偏差値30台の学校の減り幅が少ないとは思えません。やはり誤差の範囲、ということになるのではないでしょうか。
男女別でいうと、特に女子の中堅以下が本当に受かりやすい入試になっていますね。ここ1・2年、従来の入試ではほとんど無理、というお子さんが見事合格の栄冠を射とめるケースの多くが女子中堅校です。そういう意味では、女子中堅校(&それ以下)については、本当に「努力が結果に結びつきやすい入試」になっている、と言えそうです。
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②人気校はより人気が高まり、不人気校はより敬遠される
「2極化の意味は、『(偏差値の)上下で二極化』ということもあるが、『人気校はより人気が出、不人気校はより出願者が減り気味という、それぞれ正負のスパイラルに陥っている』という意味もある。これは、低学年から塾通いをスタートさせる家庭が増え、従来より通塾期間が長くなった結果、家庭もより厳しく吟味するようになった結果ではないか。またサンデー毎日が大学合格者数特集をすると従来の売り上げの3倍くらいになるという。それからしても、ご家庭の関心が出口(=大学合格実績)にあることは自明である」
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岩崎先生は「行列の心理」を引かれて説明されていました。「行列ができているとなんだかよく分からないけどとりあえず並んでみよう、と思いますでしょ。あれと通ずる部分があると思いますよ」。これはセミナー後半の安田先生も同じようなご説明をされていました。「よく分からないけど、みなが受験するということはいい学校なんだろう。だったらうちもそこに出願しておくか」みたいなもの、と。
もちろん、第一志望や第二志望はそんな薄弱な理由で学校選びをしているとは思いません。ですが、第五、第六志望くらいになるとそのような心理が働くことは否定できないのではないかと思います。僕もご家庭とお話ししていて、ご両親が「よく分からないんですけど、皆が受けるのでウチも…」と言われたことは何度かあります。それに対してあまりにお子さんの雰囲気と校風がミスマッチの場合は老婆心ながら申し上げることもありますが、ほとんどの場合は「そうですか」とだけお答えしているようにしています。
大学進学実績については、このブログでもできるだけ言及するようにしています。もちろん「大学合格実績って言ったって、皆塾や予備校に通っているわけで、その学校だけの力で入れたわけじゃない」という批判があることは承知しています。特に上位校ほど塾・予備校の力は大きいですよね。東大合格実績も本当は「□□高校×鉄緑会」「△△高校×駿台」という、「所属高校×通っている塾・予備校」という組み合わせで見ていかなければいけないのかもしれません。開成・筑駒にしても桜蔭にしても、日々の授業の中で東大対策なんて全くやっていません。それどころか大学入試に決して出ないような内容を延々やっている授業さえある。(しかしそういうリベラル・アーツ的な授業が、知識に深みをもたらしたり類推・演繹する思考法を育てることで逆に東大合格に役立っている、という説もあります)
僕の口の悪い友人などは、「いい学校っていうのは、中途半端な指導力でやれ補習だやれ課題だ、と受験勉強の邪魔などせず、放課後さっさと終わって宿題も軽くて、通っている生徒が予備校通いに支障をきたさないようにする学校のことを言うんだよ」と言って憚りません。
しかしそんなことを言ったらすべての尺度が尺度として成り立たなくなりますよね。盲信するのは考え物ですが、人が何かを選ぶときはある程度の蓋然性のある尺度を頼るのは当たり前ですから、大学合格実績をそれなりに気にするご家庭の心理は許容されるべきでしょう。
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③キーワードは「面倒見」
「広尾学園や都市大付属のように、毎年かなりの割合で受験者を増やしている学校には共通項がある。それは『面倒見の良さ』である。たとえば毎朝、復習テストを行い、下校時間までにそれを採点して返却する。そして基準点以下の子は残して徹底的に補習をする。朝も早くから自習室を開放し、夜は夜で8時9時まで残し、言わば学校ですべてが完結するようにしている。その手の学校は家には寝に帰るだけで、『家庭学習』というものをそもそも想定していない」
「とりわけ偏差値50以下の生徒は、そもそも勉強を自分自身からできる態勢になっていない子、と言える。そんな生徒が中学校に行って『さあ、あなたももう中学生なんだから一人で勉強をするのよ』とリリースしても一人でできっこない。だからそういう面倒見主義の学校が親に受けるのである」
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“面倒見の良さ”というのは中学入試だけではなく、いまや社会全体の志向のような気もします。
今多くの大学で成果を上げているのが「徹底的に学生の面倒を見る態勢」のようですね。いつか新聞の記事を読んで驚いたのですが、次のような大学の取り組みが紹介されていました。
〈朝、大学が一人暮らしの学生にモーニングコールをする。健康管理もしてあげる(喉は痛くありませんか、とかごはんはきちんと食べられていますか、みたいな項目が並んでいる「健康管理カード」記入をさせる)。生徒をファーストネームで呼ぶ。日記を書かせてそれに教授がコメントを書いて返す(つまり交換日記ですね)。キャリアガイダンスと称して、教授が引率して企業を見に行く。同じ趣味や嗜好の学生同士を引き合わせてあげる。将来、25歳、30歳の自分像を作り上げるカウンセリングをする…〉
すべて相手は大学生ですよ。
びっくりしました。もちろん、上記の成果を上げている大学は国公立や難関私大ではありません。いわゆる募集困難大学と呼ばれる、地方の定員充足率が7割以下とか、5割さえいかない、とかそういった大学です。いやしかし、20歳近くあるいは20歳を超えた大学生相手にそこまでしないとならないとは…
さらに驚くのは、そういう全学的な取り組みが成果を上げていて、企業からも喜ばれる(あの大学を出た社員は質がいい)、そして受験生&入学者もV字回復した、とのこと。これを読んで、僕は(その学生さんたちは、企業に入社してから大丈夫なのかしら)と思ってしまったのですが。いったいそこまで手厚くされて、どの段階で大人になるんでしょうね…
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予想以上に長くなってしまったので、いったんこの段階でアップすることにします。この後、あまり日をあけず、「森上先生&四谷大塚入試情報センター合同ディスカッション(後半)」「安田理先生の講演報告」を上げるつもりです。