安田理・安田教育研究所所長のお話
①首都圏の小学校卒業生数は2011年30.7万人→2012年30.4万人→2013年30.4万人→2014年30.2万人、とほぼ横ばい。
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「少子高齢化」という言葉を初めて聞いてからはたしてどれくらいになるでしょうか。毎年、子供の日になると新聞の社会面に載る「こどもの割合、最低を更新」という記事。もうすっかり慣れっこになってしまいました。
上記の「首都圏」が指す言葉の意味は、東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県のことですね。この1都3県の総人口は3535万人ですから、それに占める小6の割合は1%もいっていないことになります。1%の占有率で85倍(0歳~85歳まで1年ごとの区切りが85階層あるとして)して人口の8割5分ですから、それでも世代別では少ないですよね。現在の割合だと85倍して73%。それだけ人口ピラミッド(もう全然ピラミッドではないのですが)上部が膨らんでいることがわかります。
総務省統計局の最新データ、これは1年ごとの区切りは出ていなくて5歳ごとの区切りになりますが、現在の10歳~14歳の人口が593万人です。今から15年前、つまり現在25歳~29歳のゾーンはどうなっているかというと、731万人。そのころと比べてなんと20%減っている。いやあ厳しいですね。今後は、というと、現在の5~9歳、つまり今の小3から年中組までが549万人で現在比からさらに7.5%減。その下の年少さんから0歳児までが541万人(これは減り幅は少ない) 7.5%減、というのは好景気による所得増→中学受験数増ではとうてい吸収しきれない幅ですから、多少景気が回復してもいわゆる受験産業、教育産業の「冬の時代」は続きそうです。もちろんこれは全国の数値であり、都市部には地方からの流入がありますから多少違った結果になるでしょう。ただそれは誤差の範囲ではないか、という気がしますが。
ちなみに、いわゆる「団塊の世代」という60~64歳のゾーンはどれくらいいるかご存じですか。1057万人です。今の10~14歳の倍近くいる。よく、気軽に「これからはシルバー相手のビジネスだよ。ダメダメ、子供相手はどん詰まりだ。やるんだったら高齢者を相手に、パソコンスクールとかさ、俳句・短歌の教室とか、『定年後に始めるピアノ・ヴァイオリン』とかさ」と助言してくれる人がいます。でもね。今、子供相手の仕事―塾もそうですし、託児所とかスイミングスクールとかおもちゃ屋さん、子供服ショップ―をしている人は根本的に子供が好きなんです。それがその仕事に就いている原点のはず。そっちの方がもうかるからって、子供相手の仕事をしていたのを明日からシルバー相手と変えられるものじゃない。そういうお気軽なコンサルティングをする人って、「仕事」ってものをどう考えているんだろう、と思ってしまいます。
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②受験者数の動向
7月の3大模試の受験者数は前年比で95.7%と微減。男子より女子の減り幅が大きい。
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森上先生・岩崎先生の話とも重なります。今年は震災もあり、また超円高不況もあって、経済状況は決してよくありません。そんな中、逆によく4.3%減で済んでいるな、という印象です。
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③私立中学校の新設は2校。
●八王子高校が中学部を新設。男女120名。中学入学生は全員を特進クラス(中高一貫)とする。
●西武台高校が西武台新座中学校を新設。男女80名。
上記以外に、武南高校が2013年度に中学部を開校の予定。
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八王子高校は、新教育研究協会(高校受験の二大模試の一つ)の偏差値が 普通56、特進64、進学59 です。
他の近辺の高校の偏差値を見てみます。中学受験と比較できるよう、中学入試を行っている学校をピックアップしてみました。
69 桐朋
68 明大明治
67
66 中大付属
65
64 帝京大学 国学院久我山
63 法政大学 成蹊 明大中野八王子
62 日大二 日大三(普。特進は66)
61
60
59 桜美林
58 東京電機大 桐朋女子
57
56
55
えっ、これ変?
うーん。でもそういうことになっています。ちなみに上の表にはありませんが、開成と早実は?
開成が74、早実が72です。
えっ?明中八王子が63で国学院久我山が64だったら早実が80くらいで開成が85くらいのはず?
ははは、そうですね。
少し解説をすると、高校受験の偏差値は上が詰まっちゃってしまっています。確かに数直線上に中学受験での偏差値をもとに各校の合格ラインの偏差値を示す点を取り、それを高校受験用に平行移動したらそうなるはずです。でも、新教育や進研では100点満点をとっても偏差値は72からせいぜい75くらいにしかならないので、その偏差値はとりようがない。
もちろん、開成や早実、あるいは国立を受ける人のために駿台やZ会、あるいはサピックスの模試があります。それらの模試だと、逆に進研・新教育で60未満の学校の判定は正確に出ません。土俵が違うわけですね。
ちょっと話題が横道にそれましたが、上記の表から判断すると、八王子中学の偏差値は、2・3年入試をすると日大三や桜美林あたりと同じかそれよりちょい上、に落ち着くと思われます。
八王子高校の大学合格実績は「おっ」と思わせるものがあります。国公立39名、早慶は22名で少なめですがMARCHが179名。(いずれも現浪比は不明) ただし、卒業生数700人以上の超マンモス校なので4掛けくらいしてちょうどいいかもしれません。それとこの学校の特進コースは、都立有数の進学校、八王子東の併願校としてかなりの上位層を集めています。その子たちが努力して結果を出しているだけ、という意地の悪い見方もできなくはありません。
中高一貫教育でどの程度の実績が出せるか。これは正直、未知数です。7年後を待つしかないですね。
西武台は高校受験の偏差値が49(北辰テスト50%偏差値。以下同)。他校は、というと
66 立教新座
65 栄東(アドバンス。アルファは67)
64 城北埼玉
63
62 西武文理
61 開智(A。Sは65) 淑徳与野
60 独協埼玉
59
58
57 大宮開成(特α)
56 浦和実業 春日部共栄(文理。選抜は65)
55
54
53
52
51
50
49
48 埼玉栄(総進。特進は52) 浦和実業(総進。S類は58)
47 浦和学院
表をご覧になってお分かりの通り、浦和実業・浦和学院・埼玉栄あたりが競合校になるでしょう。
大学合格実績は同校ホームページから転載ですが、21・22年度の2年間の合計で国公立が8名、早慶が4名、MARCHが27名。(いずれも現浪比不明) これからの学校、という印象です。
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④入試科目の軽量化が進む
これまで多くの学校が、2科→2科4科選択→4科必修 という形で進化(?)してきた。2科4科選択の学校では、2科受験生が減少し、4科受験生が増加、というのが一般的なパターンだった。ところが2011年度入試では逆パターンとして、2科受験生が増え4科受験生が減少、という現象が多くの学校で見られた。それに対応して、今まで4科のみで入試を行っていた学校が、2科4科選択、という、以前の形に戻すケースが散見される。これは来年度以降も続くのではないか。(生徒募集に苦しまない学校では、従来通り「入試を重くする方向」である2科4科選択→4科のみ、という変更も見られる)
■2科4科選択→4科のみに変更(従来の進化型)
明治学院…第3回入試を、2科4科選択→4科のみに2013年度入試からは第2回入試も4科のみに変更する予定。
・日大三…第1回(2/1)、第2回(2/2)ともに2科4科選択→4科のみに
・日出学園…1期(1/20)、2期(1/24)ともに2科4科選択→4科のみに
■4科のみ→2科4科選択(逆パターン)
・足立学園…一般入試を4科のみ→2科4科選択
・東京家政大付属女子…躍進コースの入試を4科のみ→2科4科選択に
・目黒星美学園…第1回(2/2)、第2回(2/3)ともに4科のみ→2科4科選択に
・捜真女学校…これまで入試を設けていなかった2/1にS試験を新設。入試科目は国算2科目の基礎学力試験。(従来からある2/2のA試験、2/4のB試験は4科のみのまま)
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まず最初に、ほとんどの方はご存じとは思いますが、念のため、「2科4科選択制の場合の合格者の決め方」について説明を。というのも、セミナーが終わった後、安田先生に上記の質問をされていたお父様がいました。ブースで尋ねたら「8割を2科でとり、残りの2割を4科目で取る」と言われたのだが、何を言っているのかわからなかった、と。
これはその説明をした中学校の先生が不親切ですね。分かっている人は上記の表現でわかりますが、分からない人はこの説明では意味不明でしょう。割合の肝心な「何を基にする量にするか」が省略されていますから。ひょっとしてお父様は、「自分の子の、試験でとった得点の8割をどうかするのか?」とも思ったのかもしれません。
正確に表現すると「合格予定者の総数の8割をまず2科目の合計点でとる。そして残りの2割の人数を、先の選抜で不合格になった人の中から今度は国算理社の合計点でとる」という方式です。
ある中学校では定員200名の試験で300名の合格者を出すとしましょう。そしてこの試験に600名の受験者があったとします。最初に国語と算数の合計点で600人の受験者を成績順に並び替えます。このとき、理社の点数は無視します。そして上から順番に、300×0.8=240位のところで線を引き、それより上位の受験生を合格にします。すると、600名の受験生がいるわけですから選に漏れた人が600-240で、360名出てくるわけですね。今度、その360名を国算理社の合計点で得点の高い順に並び替えます。そして今度は300-240=60位までを合格にする。
2科目受験生はこの2段階選抜の後の方の選抜に加われません。4科受験生は、たとえ国算の合計点で一歩及ばなくても、理社がとれていれば後の方の選抜で「合格者」の仲間入りができる。これが「4科受験生は2度チャンスがある」と言われる所以です。
安田先生のお話にある通り、これまでは「科目増(=負担増)」という一方通行でした。徐々に受験者数が増えたり難易度が上がっていくとそれまで「2科4科選択」だったのを「4科のみ」に変更する。これは受験生にとってはハードルが上がることを意味するので、忌避される要因になります。だがそれでも優秀な子が欲しい、という学校側の一種のメッセージですね。
今は昔の話ですが、僕がこの仕事を始めたときは早実や桐朋は2科だったんですよ。早実はよく「2科の最高峰」なんて言われ方をしていました。
さて最近の流れとしては、やはりこの経済状況の下、塾の通い始めが以前より遅くなって、5年の夏くらいから塾通いを始めるケースがずいぶん増えた。すると4科目はこなしきれない。そういう受験生の増加を中学校(特に中堅校)は無視できなくなった、ということなのだと思います。また、都立一貫校受験生の併願校として考えてほしい、という思惑もありそうです。僕の接したご家庭の中にもありましたが、最初は都立一貫校のみの受験を考えて受験勉強をスタートしたものの、やはり頑張っている子供の姿を見ると、進学するかどうかはまたその時考えるとして空いている2/1、2/2に私立を受けさせようか、という思いがわいてくる。ところが中学受験の理社で求められる知識は本当に細かいもので、とても歯が立たない。(都立一貫校で必要な理社は、細かな知識ではなく観察や類推・演繹の能力ですから細かな、たとえば星の位置や植物の分類や社会の年号や人名は要らない)そういう受験生に対して、国算のみでも受験できますよ、というのは訴求要素になる、ということでしょう。
何にしても受験の間口が広がること自体は喜ばしいことだと思います。ただ、2科で受験すると中学に入ってから相当苦労するので、その覚悟は要りますが。
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⑤午後入試、さらに増加
はじめて午後入試に進出する学校だけでも下記の学校がある。下記以外にも、午後入試の回数を増やす学校も多数ある。
・東京電機大…2/1PMに新設
・文教大付属…2/1PMに新設
・明治学院…2/1に進出。1回目入試をPMに行う。
・神奈川学園…2/1PMに新設
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午後入試を最初に考えた人は本当に発想がすごいですね。午後入試と言うのは高校入試にも大学入試にもありませんから、まさにオリジナル、コロンブスの卵でした。googleで「午後入試 最初に実施」で検索すると、中萬学院さんのサイトなどで日本橋女学館が1995年に行ったのが最初、と紹介されている検索結果を見ることができます。ただこれは関西圏ですでに行われていてそれを首都圏で行ったのが日本橋女学館なのか、あるいは同校が本邦初なのか、そこまではわかりませんでした。
武蔵工大(現・東京都市大付属)や青稜、八雲学園、高輪などは午後入試でかなり優秀な受験生を集めました。業界にショックが走った、というとややオーバーですが、業界人が「へえー」と思ったのは普連土の2日の午後入試でしょうか。香蘭の回で書いたことの裏返しですが、午後入試は「本校を併願校として考えてください」ということですから、お高く留まっている学校はありえない選択ですね。
新規実施校の中では明治学院の午後はインパクトありますね。特に女子にとって明治学院大学はMARCHの最後尾の法政とはそれほどの差がないですから。ただ、そろそろ午後入試も飽和状態に近づきつつあるようです。口の悪い同僚は、「募集困難校は『ナイター入試』をやるしかないね。午後7時半開始で国算のうち1科目選択で試験時間30分、とかね」なんて言っていましたが、さすがにねえ…
午後入試導入直後は2時試験開始ぐらいが多かったような記憶がありますが、これだと午前に受験した学校が面接を実施していると面接順が遅い人は午後入試の試験開始に間に合わない。だから棄権せざるを得ない、という不公平がありました。そこで今は4時ぐらいをスタートにしている学校が多いようです。しかし、4時から四科受験して、真っ暗の中帰宅して翌日また朝6時起きで入試に向かう、というのはかなり過酷です。それで消耗して本来受かるべき2日校をとり逃したりしたら本末転倒。午後入試はパスして、自宅でゆっくり休み、午前に受けた学校の入試を振り返って(問題が持ち帰れたら解き直しをして)翌日の試験に万全の体調と精神状態で臨む。いずれが受験生本人に向いているかは冷静に考えたいものです。
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⑥新たな地方校の首都圏入試も登場
昨年の札幌聖心女子学院に加え、今年度からは盛岡白百合学園が東京入試を実施(1/9、浦安市にあるオリエンタルホテル東京ベイにて実施。国算各100点、理社各75点)
*このほか宮崎日大も首都圏入試を実施予定。
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地方校の首都圏入試も増える一方ですね。1/8の土佐塾、函館ラ・サール、1/9の佐久長聖、1/10の那須海城あたりが老舗でしょうか。(那須海城は来年度入試を行わないことの発表がありました)そこに西大和学園が参入、海陽が開校、そして秀光や函館白百合、長崎日大。さらには如水館、早稲田佐賀、愛光…と、ずいぶん選択肢が増えました。東京都の西部や神奈川にお住まいがあるご家庭は、茨城・埼玉をためし受験すると言ってもアクセスを考えたら行くだけで一苦労。それなら都心の大学やホテルで入試がある地方校の方がよほどいい、と。それを狙っての実施ですね。
以前、あるお父様から、「これらの学校は東京で試験をして、何のメリットがあるんでしょうか。だって四国や長野の学校じゃ、もし首都圏の入試がすべて残念な結果になったとしてもそうは入学せんでしょう」と質問されたことがあります。ここからは僕の推測ですが、たぶん、これらの学校は入学者を集めるため、が主目的ではないのではないでしょうか。もちろん受験料収入を見込む、ということはあるでしょう。一人15,000円の受験料で2000人受験すれば… まあでも、会場を借りたり設営・実施のための費用を考えたら濡れ手で粟、ではありません。それよりもむしろ東京で入試をすることで知名度が上がることが大きいのではないでしょうか。
秀光中等教育学校が良い例で、東京入試をすることによって抜群に知名度があがりましたね。有形無形の宣伝効果を考えたら「経費=受験料」でも、場合によっては「経費>受験料」でもよし、と考えているのではないでしょうか。
午後入試のとこで述べたことの繰り返しになりますが、「受けられるものは全て受けておこう」という考えは逆に落とし穴になる場合があります。1/10からは埼玉の学校の入試が始まる。1/20からは千葉。また1/7解禁の茨城を含めると、今は本当に多くの学校を受験することができます。これは入試直後に行われた別のセミナーで聞いた話ですが、ある塾の生徒は、2/1、2/2の午前午後も含めると全部でのべ18回、試験を受けたとのこと。(これはギネスものですね) 結果は2勝16敗だったそうです。この話は「受けすぎ注意」という文脈ではなく、「よくくじけずにそれだけ受けたね」という趣旨だったのですが、それだけ受験すると、大切なまとめあげの時期の1月はほとんど勉強にならなかったはず。そんなに受けなければもう少し違った結果にならなかったんだろうだか、とつい思ってしまいました。
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塾全協のセミナー報告は今回で終わります。次回は「模試について」あるいは「過去問演習」の旬な話題、また最近、多くのお母様から質問された「塾はいつから通わせるべきか」。 そのあたりのテーマでお書きしたいと思います。