中学受験つれづれ-プロ家庭教師の独り言- -6ページ目

中学受験つれづれ-プロ家庭教師の独り言-

中学受験に携わって25年になりました。日々、生徒と触れ合う中で感じることを発信していきたいと思います。

今回は会場模試についてお話をしたいと思います。
といってもさまざまなところで語りつくされている話題なのでさして目新しいことを言うわけではありませんが。


さて、一般的に会場模試といえば、首都圏では「四谷大塚合不合判定テスト」「日能研の中学入試センター模試」「首都圏模試センターの統一合判模試」の3種類を指します。昨年、サピックスが四谷大塚の合不合を離脱して話題になりました。それ以前は合不合が信頼性では一歩抜きんでていましたが、サピックス生の不参加で少々、揺らいだ感があります。でも皆さんの一番気になる志望校の合格判定は、詳しくは後で述べますが、信頼性を棄損するほどのことではないと考えています。


このサピックスの合不合判定テストからの離脱は親会社同士の代理戦争の側面が色濃い、と言われています。これはつまりこういうことです。


数年前、サピックスと代ゼミが提携した。四谷大塚はご存じ東進ハイスクールを営む「ナガセ」の下部にある。代ゼミはその東進が伸びる段階でずいぶん講師を引き抜かれたり、ナガセの「仮想敵国」として嫌な思いをした。今回サピックスが合不合を離脱したのは、そのときの「意趣返し」であろう…


だがしかし、おそらく、サピックスの現場の先生や教務の方は、「合不合不参加」という親会社(?)の方針には疑問を持たれたのではないでしょうか。


上位生はいいのですが、サピックスで真ん中以下のお子さんは、サピックスの試験では合否判定がきちんと出ません。たとえばサピックスの偏差値が30台前半で跡見の合格判定が80%ってどういうことでしょうか。算数なんて150点満点で10点しか取れていないんですよ。計算が二問だけ。その生徒が跡見に80%受かるかどうかなんて判定の仕様がないじゃないですか。よくもまあ…、と半ばあきれてしまいます。これって、跡見に対しても相当失礼だと思うんですけど…


現に数年前までは、サピックスの下のクラスのお子さんは「サピックスオープンよりも合不合の結果を重視してください」と塾の面談で言われていました。

サピックスのA~Dくらいのクラスのご家庭には「一度ぜひ合不合か首都圏模試をお受けになってみたら」とお勧めしていますが、そんなお子さんが開成や桜蔭を第一志望としている受験生に焦点を当てた試験を解いても意味がない、というか、辛いだけですよね。


 * * *


さて。
例によって枕が長くなりました。

会場模試の効用はざっくり言うと3つあると思います。
それは
①本番のシュミレーションとして「慣れる」こと
②弱点の把握
③成績を知ること。そして志望校に対する合格判定


①「本番のシュミレーション。場馴れ」
これについては、今の子供たちは試験慣れしているので一昔前よりも予行演習としての意義は薄れてきたかもしれません。ただ、最近の傾向として各会場模試が積極的に私立中学校を会場として確保するようになりましたが、これは大きいですね。自宅からの交通機関と所要時間のチェックも含め格好のトライアルになります。また、自分が何か月後かに学ぶかもしれない教室の「本物の座席」に座って見る風景は、これ以上ないモチベーションアップになるでしょう。


いわゆる大手塾ではなく比較的小規模の塾に通うお子さんは、やはり「試験度胸」の点で劣る傾向がありますから、そういうお子さんにとっては貴重な機会と言えるでしょう。こじんまりした塾の教室で15人くらいの塾友と受けるのは、ずいぶん雰囲気が異なります。中にはいわゆる「肉食系」の子と遭遇したりして「びっくりして集中できなかった」と言っていた生徒がいましたが、それもまた経験。


そういう「慣れ」はやはり大手の会場模試でないと体験できません。


②弱点の把握
どんな受験生にも弱い分野、強い単元があります。残り100日を切ろうとしているこれからの時期は効率よく弱点を補強していかなければなりません。そういう意味では、模擬試験の答案は「宝の山」です。×になっている問題の解法を確認し、できれば類題演習をし、次に同じような問題に出会ったときは確実にゲットできるようにすること。本番の試験の時に「あー、この問題、いついつの模試の時に出たのに、見直ししなかったからやっぱり今も解けないや」と思うのは本当に悔いが残りますよね。


ただ、一人で(あるいは本人とご家庭で)解き直しや見直しをするときに、どのレベルの問題までを理解すべきなのか、が問題になってきます。自分の志望校のレベルをはるかに超える難度の問題を必死に理解しようとしても効率が悪い。そんなことに時間をかけるくらいなら、志望校の入試で出るレベルの問題を1題でも多く解いた方がいい、というのは至極まっとうな感覚です。


家庭教師の先生がついていれば、その先生の助言に従えば無理・無駄のない取捨選択ができます。

では残念ながらそういう助言者がそばにいない場合はどうするか。


これは非常にざっくりした対処法になりますが、今の模試(塾内テストも含め)はほとんどの場合、設問ごとの「正解率」が分かるようになっています。で、この正解率を利用します。


以下の数字は、偏差値と順位との対応表から引いてきた正解率と偏差値の対応の目安です。といってもこの場合は、「標準偏差」といってサンプルの「散らばりの平均」が10点の分布の場合です。各テストの標準偏差はつねに10ではなく、試験や科目によって6だったり12だったりしますから、「いつでもどこでも必ず使える公式」的なものではありません。ただ、大まかな目安にはなると思います。


正解率2.3%…偏差値70レベル


以下
6.7%…偏差値65
15.8%…偏差値60
30.8%…偏差値55
50.0%…偏差値50
69.1%…偏差値45
84.1%…偏差値40


お分かりになりますか?


たとえば、理科の大問[3]の(1)の全体正答率が70%だったとしましょう。するとこの問題のレベルは偏差値45弱だということです。また(3)が12%だったとすると、この設問はだいたい偏差値62ぐらいだ、と見当がつくわけです。


ですから偏差値55の学校を狙っている受験生は、全体正答率が30%より高い設問は、絶対に得点できるようにしておくべき問題だ、ということになるわけですね。逆に言うと、全体正答率15%以下の問題は、志望校のレベルを大きく超えた難度の問題だから、今はひとまず脇に置いておいてよい、という判断が可能になります。


今からでも遅くありません。今まで受けた各種のテスト、上記の正答率を目安に
A.絶対解けるようにしておくべき問題
B.できれば解けるようにしておきたい問題
C.ひとまず棚上げしてよい問題
に分類し、Aで解けない問題はない、という状態を目指してください。


 * * *


今回はいったんここでアップさせていただきます。

このテーマで一番大切な、というか一番語りたかった「志望校判定」について。これはできるだけ早く、今から数日以内に載せたいと思います。もう少々お待ちください。

安田理・安田教育研究所所長のお話


①首都圏の小学校卒業生数は2011年30.7万人→2012年30.4万人→2013年30.4万人→2014年30.2万人、とほぼ横ばい。

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「少子高齢化」という言葉を初めて聞いてからはたしてどれくらいになるでしょうか。毎年、子供の日になると新聞の社会面に載る「こどもの割合、最低を更新」という記事。もうすっかり慣れっこになってしまいました。


上記の「首都圏」が指す言葉の意味は、東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県のことですね。この1都3県の総人口は3535万人ですから、それに占める小6の割合は1%もいっていないことになります。1%の占有率で85倍(0歳~85歳まで1年ごとの区切りが85階層あるとして)して人口の8割5分ですから、それでも世代別では少ないですよね。現在の割合だと85倍して73%。それだけ人口ピラミッド(もう全然ピラミッドではないのですが)上部が膨らんでいることがわかります。


総務省統計局の最新データ、これは1年ごとの区切りは出ていなくて5歳ごとの区切りになりますが、現在の10歳~14歳の人口が593万人です。今から15年前、つまり現在25歳~29歳のゾーンはどうなっているかというと、731万人。そのころと比べてなんと20%減っている。いやあ厳しいですね。今後は、というと、現在の5~9歳、つまり今の小3から年中組までが549万人で現在比からさらに7.5%減。その下の年少さんから0歳児までが541万人(これは減り幅は少ない) 7.5%減、というのは好景気による所得増→中学受験数増ではとうてい吸収しきれない幅ですから、多少景気が回復してもいわゆる受験産業、教育産業の「冬の時代」は続きそうです。もちろんこれは全国の数値であり、都市部には地方からの流入がありますから多少違った結果になるでしょう。ただそれは誤差の範囲ではないか、という気がしますが。


ちなみに、いわゆる「団塊の世代」という60~64歳のゾーンはどれくらいいるかご存じですか。1057万人です。今の10~14歳の倍近くいる。よく、気軽に「これからはシルバー相手のビジネスだよ。ダメダメ、子供相手はどん詰まりだ。やるんだったら高齢者を相手に、パソコンスクールとかさ、俳句・短歌の教室とか、『定年後に始めるピアノ・ヴァイオリン』とかさ」と助言してくれる人がいます。でもね。今、子供相手の仕事―塾もそうですし、託児所とかスイミングスクールとかおもちゃ屋さん、子供服ショップ―をしている人は根本的に子供が好きなんです。それがその仕事に就いている原点のはず。そっちの方がもうかるからって、子供相手の仕事をしていたのを明日からシルバー相手と変えられるものじゃない。そういうお気軽なコンサルティングをする人って、「仕事」ってものをどう考えているんだろう、と思ってしまいます。


 * * *


②受験者数の動向
7月の3大模試の受験者数は前年比で95.7%と微減。男子より女子の減り幅が大きい。

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森上先生・岩崎先生の話とも重なります。今年は震災もあり、また超円高不況もあって、経済状況は決してよくありません。そんな中、逆によく4.3%減で済んでいるな、という印象です。


 * * *


③私立中学校の新設は2校。

●八王子高校が中学部を新設。男女120名。中学入学生は全員を特進クラス(中高一貫)とする。
●西武台高校が西武台新座中学校を新設。男女80名。

上記以外に、武南高校が2013年度に中学部を開校の予定。

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八王子高校は、新教育研究協会(高校受験の二大模試の一つ)の偏差値が 普通56、特進64、進学59 です。

他の近辺の高校の偏差値を見てみます。中学受験と比較できるよう、中学入試を行っている学校をピックアップしてみました。


69 桐朋
68 明大明治
67
66 中大付属
65 
64 帝京大学 国学院久我山
63 法政大学 成蹊 明大中野八王子
62 日大二 日大三(普。特進は66)
61
60
59 桜美林
58 東京電機大 桐朋女子
57
56
55


えっ、これ変?
うーん。でもそういうことになっています。ちなみに上の表にはありませんが、開成と早実は?
開成が74、早実が72です。


えっ?明中八王子が63で国学院久我山が64だったら早実が80くらいで開成が85くらいのはず? 
ははは、そうですね。


少し解説をすると、高校受験の偏差値は上が詰まっちゃってしまっています。確かに数直線上に中学受験での偏差値をもとに各校の合格ラインの偏差値を示す点を取り、それを高校受験用に平行移動したらそうなるはずです。でも、新教育や進研では100点満点をとっても偏差値は72からせいぜい75くらいにしかならないので、その偏差値はとりようがない。


もちろん、開成や早実、あるいは国立を受ける人のために駿台やZ会、あるいはサピックスの模試があります。それらの模試だと、逆に進研・新教育で60未満の学校の判定は正確に出ません。土俵が違うわけですね。


ちょっと話題が横道にそれましたが、上記の表から判断すると、八王子中学の偏差値は、2・3年入試をすると日大三や桜美林あたりと同じかそれよりちょい上、に落ち着くと思われます。


八王子高校の大学合格実績は「おっ」と思わせるものがあります。国公立39名、早慶は22名で少なめですがMARCHが179名。(いずれも現浪比は不明) ただし、卒業生数700人以上の超マンモス校なので4掛けくらいしてちょうどいいかもしれません。それとこの学校の特進コースは、都立有数の進学校、八王子東の併願校としてかなりの上位層を集めています。その子たちが努力して結果を出しているだけ、という意地の悪い見方もできなくはありません。


中高一貫教育でどの程度の実績が出せるか。これは正直、未知数です。7年後を待つしかないですね。


西武台は高校受験の偏差値が49(北辰テスト50%偏差値。以下同)。他校は、というと

66 立教新座
65 栄東(アドバンス。アルファは67)
64 城北埼玉
63
62 西武文理
61 開智(A。Sは65) 淑徳与野
60 独協埼玉
59 
58
57 大宮開成(特α)
56 浦和実業 春日部共栄(文理。選抜は65)
55
54
53
52
51
50
49
48 埼玉栄(総進。特進は52) 浦和実業(総進。S類は58)
47 浦和学院


表をご覧になってお分かりの通り、浦和実業・浦和学院・埼玉栄あたりが競合校になるでしょう。

大学合格実績は同校ホームページから転載ですが、21・22年度の2年間の合計で国公立が8名、早慶が4名、MARCHが27名。(いずれも現浪比不明) これからの学校、という印象です。


 * * *


④入試科目の軽量化が進む
これまで多くの学校が、2科→2科4科選択→4科必修 という形で進化(?)してきた。2科4科選択の学校では、2科受験生が減少し、4科受験生が増加、というのが一般的なパターンだった。ところが2011年度入試では逆パターンとして、2科受験生が増え4科受験生が減少、という現象が多くの学校で見られた。それに対応して、今まで4科のみで入試を行っていた学校が、2科4科選択、という、以前の形に戻すケースが散見される。これは来年度以降も続くのではないか。(生徒募集に苦しまない学校では、従来通り「入試を重くする方向」である2科4科選択→4科のみ、という変更も見られる)

■2科4科選択→4科のみに変更(従来の進化型)
明治学院…第3回入試を、2科4科選択→4科のみに2013年度入試からは第2回入試も4科のみに変更する予定。
・日大三…第1回(2/1)、第2回(2/2)ともに2科4科選択→4科のみに
・日出学園…1期(1/20)、2期(1/24)ともに2科4科選択→4科のみに


■4科のみ→2科4科選択(逆パターン)
・足立学園…一般入試を4科のみ→2科4科選択
・東京家政大付属女子…躍進コースの入試を4科のみ→2科4科選択に
・目黒星美学園…第1回(2/2)、第2回(2/3)ともに4科のみ→2科4科選択に
・捜真女学校…これまで入試を設けていなかった2/1にS試験を新設。入試科目は国算2科目の基礎学力試験。(従来からある2/2のA試験、2/4のB試験は4科のみのまま)

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まず最初に、ほとんどの方はご存じとは思いますが、念のため、「2科4科選択制の場合の合格者の決め方」について説明を。というのも、セミナーが終わった後、安田先生に上記の質問をされていたお父様がいました。ブースで尋ねたら「8割を2科でとり、残りの2割を4科目で取る」と言われたのだが、何を言っているのかわからなかった、と。


これはその説明をした中学校の先生が不親切ですね。分かっている人は上記の表現でわかりますが、分からない人はこの説明では意味不明でしょう。割合の肝心な「何を基にする量にするか」が省略されていますから。ひょっとしてお父様は、「自分の子の、試験でとった得点の8割をどうかするのか?」とも思ったのかもしれません。


正確に表現すると「合格予定者の総数の8割をまず2科目の合計点でとる。そして残りの2割の人数を、先の選抜で不合格になった人の中から今度は国算理社の合計点でとる」という方式です。


ある中学校では定員200名の試験で300名の合格者を出すとしましょう。そしてこの試験に600名の受験者があったとします。最初に国語と算数の合計点で600人の受験者を成績順に並び替えます。このとき、理社の点数は無視します。そして上から順番に、300×0.8=240位のところで線を引き、それより上位の受験生を合格にします。すると、600名の受験生がいるわけですから選に漏れた人が600-240で、360名出てくるわけですね。今度、その360名を国算理社の合計点で得点の高い順に並び替えます。そして今度は300-240=60位までを合格にする。


2科目受験生はこの2段階選抜の後の方の選抜に加われません。4科受験生は、たとえ国算の合計点で一歩及ばなくても、理社がとれていれば後の方の選抜で「合格者」の仲間入りができる。これが「4科受験生は2度チャンスがある」と言われる所以です。


安田先生のお話にある通り、これまでは「科目増(=負担増)」という一方通行でした。徐々に受験者数が増えたり難易度が上がっていくとそれまで「2科4科選択」だったのを「4科のみ」に変更する。これは受験生にとってはハードルが上がることを意味するので、忌避される要因になります。だがそれでも優秀な子が欲しい、という学校側の一種のメッセージですね。


今は昔の話ですが、僕がこの仕事を始めたときは早実や桐朋は2科だったんですよ。早実はよく「2科の最高峰」なんて言われ方をしていました。


さて最近の流れとしては、やはりこの経済状況の下、塾の通い始めが以前より遅くなって、5年の夏くらいから塾通いを始めるケースがずいぶん増えた。すると4科目はこなしきれない。そういう受験生の増加を中学校(特に中堅校)は無視できなくなった、ということなのだと思います。また、都立一貫校受験生の併願校として考えてほしい、という思惑もありそうです。僕の接したご家庭の中にもありましたが、最初は都立一貫校のみの受験を考えて受験勉強をスタートしたものの、やはり頑張っている子供の姿を見ると、進学するかどうかはまたその時考えるとして空いている2/1、2/2に私立を受けさせようか、という思いがわいてくる。ところが中学受験の理社で求められる知識は本当に細かいもので、とても歯が立たない。(都立一貫校で必要な理社は、細かな知識ではなく観察や類推・演繹の能力ですから細かな、たとえば星の位置や植物の分類や社会の年号や人名は要らない)そういう受験生に対して、国算のみでも受験できますよ、というのは訴求要素になる、ということでしょう。


何にしても受験の間口が広がること自体は喜ばしいことだと思います。ただ、2科で受験すると中学に入ってから相当苦労するので、その覚悟は要りますが。


 * * *


⑤午後入試、さらに増加
はじめて午後入試に進出する学校だけでも下記の学校がある。下記以外にも、午後入試の回数を増やす学校も多数ある。
・東京電機大…2/1PMに新設
・文教大付属…2/1PMに新設
・明治学院…2/1に進出。1回目入試をPMに行う。
・神奈川学園…2/1PMに新設

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午後入試を最初に考えた人は本当に発想がすごいですね。午後入試と言うのは高校入試にも大学入試にもありませんから、まさにオリジナル、コロンブスの卵でした。googleで「午後入試 最初に実施」で検索すると、中萬学院さんのサイトなどで日本橋女学館が1995年に行ったのが最初、と紹介されている検索結果を見ることができます。ただこれは関西圏ですでに行われていてそれを首都圏で行ったのが日本橋女学館なのか、あるいは同校が本邦初なのか、そこまではわかりませんでした。


武蔵工大(現・東京都市大付属)や青稜、八雲学園、高輪などは午後入試でかなり優秀な受験生を集めました。業界にショックが走った、というとややオーバーですが、業界人が「へえー」と思ったのは普連土の2日の午後入試でしょうか。香蘭の回で書いたことの裏返しですが、午後入試は「本校を併願校として考えてください」ということですから、お高く留まっている学校はありえない選択ですね。


新規実施校の中では明治学院の午後はインパクトありますね。特に女子にとって明治学院大学はMARCHの最後尾の法政とはそれほどの差がないですから。ただ、そろそろ午後入試も飽和状態に近づきつつあるようです。口の悪い同僚は、「募集困難校は『ナイター入試』をやるしかないね。午後7時半開始で国算のうち1科目選択で試験時間30分、とかね」なんて言っていましたが、さすがにねえ…


午後入試導入直後は2時試験開始ぐらいが多かったような記憶がありますが、これだと午前に受験した学校が面接を実施していると面接順が遅い人は午後入試の試験開始に間に合わない。だから棄権せざるを得ない、という不公平がありました。そこで今は4時ぐらいをスタートにしている学校が多いようです。しかし、4時から四科受験して、真っ暗の中帰宅して翌日また朝6時起きで入試に向かう、というのはかなり過酷です。それで消耗して本来受かるべき2日校をとり逃したりしたら本末転倒。午後入試はパスして、自宅でゆっくり休み、午前に受けた学校の入試を振り返って(問題が持ち帰れたら解き直しをして)翌日の試験に万全の体調と精神状態で臨む。いずれが受験生本人に向いているかは冷静に考えたいものです。


 * * *


⑥新たな地方校の首都圏入試も登場
昨年の札幌聖心女子学院に加え、今年度からは盛岡白百合学園が東京入試を実施(1/9、浦安市にあるオリエンタルホテル東京ベイにて実施。国算各100点、理社各75点)
*このほか宮崎日大も首都圏入試を実施予定。

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地方校の首都圏入試も増える一方ですね。1/8の土佐塾、函館ラ・サール、1/9の佐久長聖、1/10の那須海城あたりが老舗でしょうか。(那須海城は来年度入試を行わないことの発表がありました)そこに西大和学園が参入、海陽が開校、そして秀光や函館白百合、長崎日大。さらには如水館、早稲田佐賀、愛光…と、ずいぶん選択肢が増えました。東京都の西部や神奈川にお住まいがあるご家庭は、茨城・埼玉をためし受験すると言ってもアクセスを考えたら行くだけで一苦労。それなら都心の大学やホテルで入試がある地方校の方がよほどいい、と。それを狙っての実施ですね。


以前、あるお父様から、「これらの学校は東京で試験をして、何のメリットがあるんでしょうか。だって四国や長野の学校じゃ、もし首都圏の入試がすべて残念な結果になったとしてもそうは入学せんでしょう」と質問されたことがあります。ここからは僕の推測ですが、たぶん、これらの学校は入学者を集めるため、が主目的ではないのではないでしょうか。もちろん受験料収入を見込む、ということはあるでしょう。一人15,000円の受験料で2000人受験すれば… まあでも、会場を借りたり設営・実施のための費用を考えたら濡れ手で粟、ではありません。それよりもむしろ東京で入試をすることで知名度が上がることが大きいのではないでしょうか。


秀光中等教育学校が良い例で、東京入試をすることによって抜群に知名度があがりましたね。有形無形の宣伝効果を考えたら「経費=受験料」でも、場合によっては「経費>受験料」でもよし、と考えているのではないでしょうか。


午後入試のとこで述べたことの繰り返しになりますが、「受けられるものは全て受けておこう」という考えは逆に落とし穴になる場合があります。1/10からは埼玉の学校の入試が始まる。1/20からは千葉。また1/7解禁の茨城を含めると、今は本当に多くの学校を受験することができます。これは入試直後に行われた別のセミナーで聞いた話ですが、ある塾の生徒は、2/1、2/2の午前午後も含めると全部でのべ18回、試験を受けたとのこと。(これはギネスものですね) 結果は2勝16敗だったそうです。この話は「受けすぎ注意」という文脈ではなく、「よくくじけずにそれだけ受けたね」という趣旨だったのですが、それだけ受験すると、大切なまとめあげの時期の1月はほとんど勉強にならなかったはず。そんなに受けなければもう少し違った結果にならなかったんだろうだか、とつい思ってしまいました。


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塾全協のセミナー報告は今回で終わります。次回は「模試について」あるいは「過去問演習」の旬な話題、また最近、多くのお母様から質問された「塾はいつから通わせるべきか」。 そのあたりのテーマでお書きしたいと思います。

1.森上教育研究所所長 森上展安先生、四谷大塚入試情報センター 岩崎先生 合同ディスカッション


③特待生入試をうまく活用しよう


「一都三県で320校の私立中学が1237回の入試を行っている。1校平均約4回である。その中で、特待生入試がのべ150回。ぜひ自宅の近辺で特待生入試を行っている学校をもう一度チェックをしてほしい。経済的恩恵もさることながら、6年間、その学校でトップクラスにいられることは大きいと思う。子供は褒められた方が絶対伸びる。トップクラスでいれば、授業中、ある問題を示されたときにその子しか答えられない、という場面が何度もある。周囲は「すごい!」という目で見てくれる。それが6年間続くのである。これは大きな財産になる」

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“鶏口となるも牛後となるなかれ”というやつですね。しかしこれは微妙な問題で、どの子にもあてはまる絶対普遍的な考え方ではないでしょう。まずその生徒の性格によります。鶏口牛後と逆の諺(慣用句)は「お山の大将」や「井の中の蛙大海を知らず」ですね。大した力もないのに周囲からすごいすごい、と言われ、自分がすごいと勘違いしてしまう、というある意味不幸なケースです。そもそも何事も自分より上の他者に交じっていれば自然に伸びるものですが、自分より力のない他者に交じっていて自分も伸びていくのは大変なことです。これは勉強に限らず、スポーツや趣味の世界でも一緒でしょう。


こういうと、気持ちの持ちよう、というか精神論にいってしまいそうですが、単に訓話的な意味だけにとどりません。勉強というのは未知の知識を他者から与えられ、学ぶ方はそれを受容する、という協同行為ですから、学ぶ側の頑張り方のみならず、与える側がどこまで教えるレベルを設定するか、という問題とも離れられません。


僕が教えた生徒にも、「この子はもっとレベルの高い集団でもまれた方がいいのにな」と思ったケースが少なからずあります。たるんでるとか、油断しているとかではなく純粋にレベル的な話ですね。学校の先生は一般的に、クラスの一部、上位数名とか1・2名に照準を絞った授業というのはできないものです。真ん中や真ん中よりちょっと上ぐらいを想定して授業を進めるものですから、「これ以上教えても大半の子はちんぷんかんぷんだな。ま、ここまででいっか」的な妥協をしがちです。


付属校ならそれもいいと思いますが、大学入試という戦いを控えている進学校はどうでしょう。日々の授業で厳しい問題をやらなければ、どんどん他校の生徒において行かれることになります。


以前担当したある生徒の話ですが、彼女は残念なことに中学入試の時にインフルエンザにかかってしまい都内の2/1~2/4を四連敗、2/5の第五志望に進みました。偏差値的には彼女の秋の会場模試の平均値からマイナス7・8くらいのレベルの学校だったと思います。大学入試でリベンジに燃える彼女は高2の秋に大手の予備校に通い始めました。その予備校に通い始めた直後に道でばったり会ったのですが、「自分の学校のレベルがいかに低いかわかって愕然とした」と言っていました。物理・化学などは、予備校の授業を受けられる段階にさえ到達していない。彼女からはその後、必死に頑張ったのでしょう、現役で旧七帝大の理学部に入った旨書かれた年賀状をいただきました。それから何年かして彼女のお母さんと話す機会があったのですが、高校では完全に特別扱い、というか、はっきり「お前に合わせて授業するわけには行かないから、大学入試の勉強はすまないが自分で頑張ってやってくれ」と言われたそうです。ただ、とてもいい先生方で、個別に質問があればいくらでも相手をするから、とも言ってくださったそうで、お母さんからは学校に対する恨み言は一切なかったですが、「そんな中で頑張って初志貫徹したのは、わが子ながら頭が下がる思い」とおっしゃっていました。


細かな個別の事情を無視してあえてざっくり言えば、大学進学を考えており、付属校でない進学校に通う場合は、やはり少しでもレベルの高い学校に行く方がいいのでは、という気がします。あくまでも個々の事情を無視して言えば、ですが。


岩崎先生の発言は特待入試との絡みでお話しされているので、どんな場合でも下のレベルの学校に行ってトップを張りなさい、とおっしゃっているのではないと思います。読み解けばこういうことになるでしょうか。


「第一志望・第二志望に行ければそれでよし。だが残念がら上位志望校がだめだったとき、不満を抱えながら『××中学(第一志望)のカーボンコピー』の中堅校に行くくらいなら、思い切ったパラダイムシフトをして下位志望校に進み、特待生になって学校全体を引っ張っていく方がその子にとって幸せなのではないか」


 *  *  *


④共学人気に陰りなし


「共学は相変わらず生徒を集めている印象。40代のご両親が共学出身の方の割合が増えてきて、学校というのは男女が共に机を並べて学ぶところだ、というのが当たり前のイメージとして定着している。ある片方の性しかいない世界というのはやはり不自然なのではないか、と。心身、特に精神の発達が女子の方が早いので、共学は中学段階では女子が男子を引っ張り、高校になると逆に男子が女子を引っ張る。そのように段階を踏んでエンジンが交替するのでそこが面白い。一方で、女子校(男子校)には女子校(男子校)の良さもある。異性がいないので授業中に言いたいことが言える」
「また、女子校では、共学なら男子がやるような体育祭や文化祭の実行委員長のような仕事も女子がやるわけだが、これがリーダーシップを育てるいい機会になる。一般社会でも女性の管理職が増える中で女子社員をどう統べるかが女性上司のキモになるが、それを中高時代に学ぶこともできる」
「理系に進みたい女子は、女子校より共学に行った方が男子に引っ張られて力がつきやすい。ただ、一般的には同じ偏差値で言うと女子校より共学の方が算数の問題はキツいので、女子はそのあたりの算数の問題との相性を慎重に見るべきだ」
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確かに、広尾・かえつ有明・青稜・宝仙理数インター・東京都市大等々力など、元気な学校はみな共学ですね。僕自身は、小学校(正確に言えば幼稚園)から大学まで共学だったので、男子しかいない学校生活というのは想像がつきません。ただ、うちの奥さんは中学高校が女子校だったのですが、彼女に言わせると「気軽でいい」。異性のいない世界というのは、変なエネルギーや神経を使わずにとても居心地がよかったそうで生まれ変わっても女子校がいい、と言うくらいです。


また岩崎先生がおっしゃる通り、共学の算数・理科は女子校に比べるとかなり難度が高いので理系が苦手な女子はしんどいでしょう。青稜や独協埼玉の算数は我々でも手が止まるような問題が出されていることもある。いや、最終的にはもちろん解けるのですが、解く方はたとえば御三家の問題なら腰を落として問題に取り組みますが、このレベルの学校の場合は「見た瞬間に解けるだろう」とタカをくくっています。油断というか、ローギアのまま問題に入っていくから途中で「げっ、結構難しい」と慌てることになる。そこでもう一回気合を入れなおして解いて答えを出す、という展開になります。解法パターンを覚えこんで数字を当てはめて処理する、というわけには行かないので、理系がほんとにダメな女子は苦労が多いでしょう。


 *  *  *


⑤中学受験の決め手は「運」である。


「もう時間も残り少ないので、結論というか、中学受験において何が決め手になるかを申し上げますね」という前ふりの後なので、思わず身を乗り出したところ


「それは『運』です」


これはズルッと来ました(笑)


ただ、これも読み解く必要があるというか、真意を斟酌するとこういうことでしょう。

「結果が出た後でいつまでも不満や後悔をかかえて通学するのは不幸である。最善を尽くして受験を終えたのち、入学する学校が『縁』のある学校なのだ。そう割り切ってその学校に居場所を見つけようではないか」


これはでも、心配をしなくても子供たちの方が弾力性があるというか、適応するのが早いですね。住めば都ならぬ「通えば都」。入試直後は悔し涙を流しても、いざ入学して友達でもできればもう元気に通うものです。むしろお母さんの方がいつまでも引きずる傾向にあるようですね。不合格だった第一志望の制服を街で見かけるたびに涙にくれる、という話を聞くことも珍しくありません。


「縁」とは本来、宗教用語のようですがここではもう少し軽い意味でしょう。西欧やイスラム圏では「神がお決めになられたこと」と転嫁(言葉は悪いですが)して心にピリオドが打てるのですが、こと我が国はほぼ無宗教に近いのでそのような割り切りができません。「あそこでもう少し××していたら」「受験パターンを××にしていれば」といつまでも過去を振り返って後悔をしたり、親である自分を責めたりすることになりかねません。また、通っている学校を「入るはずだった」志望校と比べて「なってない」「やっぱり駄目だ」と見下げていては不幸です。そこで、ベストを尽くして駄目だったら頭を切り替えて、早く次のステージを目指して頑張りましょう、ということだと思います。


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またまた長くなってしまいました。安田先生のセミナーの内容は、第三弾でアップすることにします。それまで少しだけお待ちください。