前回の続きです。
すみません,数日後にアップなんて,また空手形を振りだしてしまいました。実は塾の春期講習会で,直前になって担当コマが1コマ増えた影響で予習に追われてしまい…。失礼いたしました。
日能研の次に行ったのは四谷大塚。
ご存じ中学受験業界の老舗です。
のっけから笑い話ですが,そもそもこの「四谷大塚」,不思議なネーミングですよね。
僕がまだ塾講師として駆け出しだったころ,先輩から「中野の四谷大塚に寄ってから出勤するから主任に言っておいて」と電話を受けて,はて,先輩は中野に行くのか,四谷に行くのか,大塚に行くのか,それとも三か所寄っていくのか…と悩んで,いいや,一番多いのを伝えてておけばいいだろう,と思い,主任に「F先生,生徒の家を三か所尋ねてから出勤するそうです」と言って後からその先輩に叱られたことがあります。
もともとこの四谷大塚は日曜テストの主催塾でした。いや「塾」と言えるのか…。受講生に予習シリーズを販売し,生徒はそのシリーズを自学自習で勉強し,その勉強を基に日曜日にテストを受け,その蓄積が受験勉強となっていく,という「テスト会」というスタイルです。僕がこの業界に入ったときはまだ受講生に「正会員」「準会員」という格付けがあり,さらに校舎によっても序列があった記憶があります。中野校舎が一番でお茶の水が二番だったかな。
そうは言っても,なかなか小学生が一人でシリーズを勉強してその内容がきちんと身に付くかというとなかなかうまくいくものでもないですよね。そこで派生したのが,四谷のテスト会を受ける子たちを集めて予習シリーズを用いて授業をしてあげる塾です。つまり,今でこそYTネットワークという形で系列化が整っていますが,当時は「準拠塾」と言っても四谷大塚とは無縁,「勝手連」じゃないですけど勝手に四谷大塚のカリキュラムに基づいて勝手に教材を使用して教えていたわけですね。でもそれでも結構持ちつ持たれつ…の関係だったようです。だって前年度の週例テストの過去問集が売っているなんて,リナックスのオープンソースじゃないですけど,全部公けにするからよきに計らってください,というようなものですものね。
そのころは町の塾にも凄腕の先生がたくさんいて,口コミだけでも遠くから生徒を集めている「伝説の教室」みたいな塾もありました。塾長先生がシリーズ使って一人で全科目見て,塾のOBの大学生をチューターみたいな形で手伝わせて…みたいな言わば寺子屋風の塾です。それでボコボコ御三家に入れてしまう。柏に杉田塾という塾があります。今は先代の先生の息子さんが継がれたと聞いていますが,その先代の先生の頃は常磐線沿線では「杉田塾」と言えば「ああ,あの柏の…」と知る人ぞ知る,という存在でした。いまでも40代後半以上の東京の東側や千葉・茨城が主戦場の塾講師や家庭教師からは「杉田塾」と言うと「ああ,すごい塾だったよね」という反応が返ってくることは珍しくありません。
そんな杉田塾のような塾が数多あったものですが,こういう個人塾はやはりある種の職人芸のようなものなのでしょう。次代を担う人にノウハウを伝えようとしてもうまく伝わらないことも多く,塾長先生の引退とともに廃業したり代替わりをきっかけに衰退したり…。また,四谷大塚本体が平日の授業を開いたのも大きな転機になったのだと思います。(1995年ころだったような…すみません,かなりあいまいな記憶です)本体が平日の塾を始めてしまうのですから,地元の準拠塾より多少通塾時間がかかってもそちらに通わせた方が良い,とご父母が考えたのは無理からぬことですよね。
勿論,今でもいい町の塾というのはあります。ただどうしても小規模塾は,いわゆる六大塾(サピックス・日能研・四谷大塚・早稲田アカデミー・栄光ゼミナール・市進学院)をスピンアウトした子を受け止めるという役回りになってしまっています。それはそれで大切な存在意義ですし,現場の先生たちには大手塾を食ってやろう,という意気は盛んなのですが,どうしても合格実績と言う意味での成果は厳しくなってしまいがちですね。またこのような個人塾は,「囲い込み」ではありませんが,ほぼ毎日授業があるので,通わせる方はすべてを賭けるしかなくなってしまいます。ダブルスクールで様子を見る,ということができないんですね。そうなると,やはり一度しかない中学受験ですから「寄らば大樹の蔭」,大手塾に通わせた方が安全だろう…という「リスクをとらない」塾選びになりがちです。
すみません。また話が逸れました。話を元に戻しましょう。
四谷大塚の入試報告会のコンテンツは「今春入試の全体動向」+「各科目ごとの今春入試の総括」。
目新しさはなかったものの,内容は僕が聞いた3塾の中で最もしっかりしていた印象でした。玄人受けする,という表現がふさわしいかもしれません。資料もしっかりしており,また算数の先生のお話しもツボを射ている感が一番強かったですね。
この四谷大塚という塾は,先に述べたように,出自が「自学自習のテスト会」ですから,教える側にも「勉強は基本的には自分でやるべきもの」という考えが集合的観念としてあるような気がします。「人から言われてやるようじゃ,トップ校には受からないでしょ」とでも言ったら良いのでしょうか,理想像を示して「ここまで頑張って上がってらっしゃい」と上で待っているイメージです。僕の知っているご家庭でも,面談のときに成績が伸びないことを相談したら「勉強のやり方よりなにより,そもそも勉強の絶対量が足らないのではないですか」と切り返され,鼻白んだ,という話を聞きました。もう少し商売上手な塾ならおそらく違う返答が返ってくるでしょう。その意味では商売っ気がないというか××正直というか。
それはそれで良いのです。まさに正論・筋論,それに文句を言う気はサラサラありません。しかし,今の子供たちはとにかく受け身です。25年前,僕の駆け出しのころと比べても明らかにその度合いは増しています。手取り足取りしてあげないとやらない。いや「できない」のか。
登山で言えば四谷大塚の教育は,遠くにきらめく孤高の峰を仰がせ「あれが君の目指す峰だ。誰の力も借りずに,君自身の力であの峰を征服したまえ。それが本当の,あるべき登山の姿だ」と説く。しかし,今はそのような「本当の」登山より,大所帯のパーティーを組み,1次キャンプ,2次キャンプと漸進し,最後選りすぐりのアタック隊を組んで踏破を目指す。そんなお金も手間もかけた手法の方が成功率が高い。それと同じだ,といったら比喩のこじつけが過ぎるでしょうか。
昔「塾屋」で言われていた冗談があります。「新聞は朝日新聞。銀行は第一勧銀(=いまのみずほですね)百貨店は三越。本屋は三省堂。そして塾は四谷大塚」 意味わかります?それぞれの業界の本流,という意味です。
ぜひ日能研同様,老舗で本流の四谷大塚にも頑張ってほしいと思います。
次回はサピックスの報告会報告。できるだけ早くアップします。ちょっとお待ちを。