京王多摩川駅を降りて右手に出る。ロータリーの奥に小さな小さな商店街がある。昭和の面影に引き寄せられて目を遣れば赤い暖簾に白字で「たい焼き」の文字。
「喫茶みよし」。一九六九(昭和四四)年の開店からすでに半世紀を過ぎた。ガラスの引き戸、オレンジのシェードのランプ、食堂テーブルに丸椅子、メニュー札。店内のしつらえは開店当時からほとんど変わらない。店主の内田不二子さん(八七)が焼くたい焼きの道具も味だって変わらない。
平日の昼間。焼き場の火は落とされて、ほかに客もいない。奥の部屋から流れてくるワイドショーの声。時が止まったような空間でたい焼きをほおばる。アタマからいくか、尻尾からいくか。それが問題だ。
みよしのたい焼きは小ぶりの薄皮。パリッと固めであんこの塩気がちょうどいい。お茶をすすりながらガラス戸の外を眺める。一匹めはアタマから食べる。持ち帰りでもう一匹。こんどは尻尾から食べてみよう。
(『そよかぜ』2021年3月号/ひとやすみ)