「このたび、昭和二十七年の開店以来約七十年にわたり調布の地で営業してきました松月堂を諸般の事情により閉店いたすことになりました」
大学を出てから三年ばかり調布でサラリーマン生活を送った時期がある。昼休みに、まだいまよりも食事処が多かった調布銀座で昼飯を済ませ、店の前の長椅子に腰かけて豆大福をほおばった記憶がよみがえる。調布銀座の一角にいつも静かに、朗らかに、柔らかく、品よく、だれにでも戸を開いている。それが松月堂という店だった。
こういう店はいつまでもあるものだと思っていたから、閉店の知らせに驚いた。自分自身の足が遠のいていることは棚に上げて、あれこれと口をつく。もっと日常使いが増えるように、若い世代にウケる商品開発にかけてみたらどうか。どうにか本店だけでも続けていけないか。人はいつも大切なもの失ってから、その存在の大きさに気づく。
松月堂の調布パルコ店は五月十四日、調布銀座本店と茶房菜々やは五月三十一日をもって閉店する。昭和の記憶を閉じ込めたタイムカプセル。最後にもういちど記憶に焼きつけておきたい。(続く)
(『そよかぜ』2021年4月号/このまち わがまち)