井口新田の四つ角を西へ折れる。右手に路地を三本数えたら「加根古」の看板が見え隠れする。
「暖簾は出したり出さなかったり。ひとりだからのんびりで」と、女将が笑う。
 引き戸をカラカラ開けて、暖簾をくぐる。細長の店内は右手にカウンターが七席。カウンターの端には整頓された新聞と雑誌が置かれて、テレビからNHKのニュースが流れる。
 うな重を頼んで待つ。ひとり分のご飯を釜で炊く。うなぎはじりじり焼ける。いい匂いが這ってくる。
 お重のふたを取ると、炊き立てのご飯の上に飴色のうなぎが艶を放つ。うなぎはほわほわ、タレはキリっと、山椒はさいごにパラリ。
 待つこと山の如し、食べること風の如し。まんぞくまんぞく。ごっそさん。

(『そよかぜ』2021年6月号/ひとやすみ)