「香水で仕上げをしない女に未来はない」

 

フランスのファッションデザイナー、「シャネル(CHANEL)」の創立者、ココ・シャネルが口癖の様に使っていた言葉。数年前に、雑誌でこの言葉を目にした。モノクロ写真に映る一人の女性は、生命力に満ち溢れた力強い眼差しを持っていた。当時、十代半ばの私には、ずいぶんと眩しくて、それは今もずっと変わらない。

 

ココ・シャネルはファッション界の革命家として、現代ファッションの「当たり前」を作り上げた女性だ。映画『ティファニーで朝食を』の冒頭で、オードリー・ヘプバーンが、シャネルのリトルブラックドレスを見に纏いながら登場する姿に、魅了された女性は数知れない。これをきっかけに、喪服イメージだった黒一色ドレスを、一躍華やかな存在へと開拓させたのだ。

 

街を歩けば、シャネルのバッグ、シャネルのリップ。至る所に、「シャネルの〇〇」が目に飛び込んでくる。香水もそのひとつ。「世界中の女性たちのために、香りを贈りたい」と、1921年に発表されたシャネルN°5は、彼女が追求し続けた「女性らしい抽象的な香り」の香水として、フレグランス界に新たな疾風を巻き起こした。

 

話は戻って、ココ・シャネルと香水(匂い)には、強い繋がりを感じてしまう。それは、彼女がフランス生まれという点も影響しているのかもしれない。フランス人にとって、香りを纏うことは、ファッションの一部であり、自分の表現やスタイルを象徴する重要な存在なのだ。フランス生まれの女の子たちは、15歳になると女性になった証として、祖母や母親から、美しいボトルの香水が贈られる。「いつかあなたに合う素敵な香水が見つかるまでは、これを使いなさい」という、メッセージが込められたすてきな贈り物。

 

香りが、自分の個性であり表現だとしている人たちがいて、時代をつくってきた女性がいる。10代のころにはじめて買った香水は、20代になった今の私には、少し幼く感じて、新しいものを購入した。歳を重ねるごとに、身に纏う匂いが変わっていく。そうやって、変わりゆく自分を受け入れるのも悪くない。

 

比屋根ひかり