一日三食のうち、一食は必ず味噌汁を食している。日本食の基本は「一汁三菜」と言われるように、幼い頃から食卓では、一汁として、味噌汁が出されていた。それは社会人になった今でも、当たり前なのである。だからといって、味噌汁に対する強いこだわりがあるわけでもなく、具材もワカメや豆腐、大根といった、ド定番の具材たちがほとんど。味噌だって、そこら辺のスーパーでも売られているものだ。
日本人の食に欠かせない〈味噌〉の歴史は古く、平安時代に初めて献立として現れた。当時、一般庶民にはとても手に入らない高級食材で、地位の高い人への給料や贈り物として扱われていた。室町時代に入ると、大豆の生産量が増え、農民たちが自家製の味噌を作るようになり、保存食として、ようやく庶民にも浸透するようになったという。
当たり前のように口にしていた味噌が、平安時代には地位の高い人にしか手の届かない高級食材だったなんて。近所のスーパーで購入した、お買い得味噌が、何だか輝いて見える。
さて、いつものように味噌汁の準備をしていると、冷蔵庫の隅っこで、元気のないオクラを発見。捨てるにはまだ早いし、とりあえず味噌汁に入れてみる。すると、どうだろう。オクラのネバネバが、汁全体にとろみをつけたかと思うと、まろやかでコクのある味噌汁に一変。めちゃめちゃ美味しいではないか。
なぜ、今まで気づかなかったのか。運命の恋人に、ようやく出会えたような喜びとは、こういうことか。心なしか、オクラも口の中でシャキッシャキッとした音を出しながら、元気を取り戻しているようだった。主役は、間違いなくオクラだ。
お碗の中で、青々とまぶしく輝き続けた主役は、静かに胃袋へと消えていった。
比屋根ひかり