9.11アメリカ同時多発テロから19年。アフガニスタンの現在の様子をテレビで見ることはほとんどなくなった。

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2001年、アメリカはアフガニスタンに対し、激しい空爆と軍事作戦を実施し、幾度となく増兵を続け、15年以上にわたる悲惨な戦争となった。後半の無人飛行機による(ドローン)爆撃と戦う人間の姿を見たときは、21世紀の戦争の非道さを感じた。両者ともに心の傷が癒えることはないだろう。

 

この戦争を描いた映画も数多く作られた。なかでも『ブレッドウィナー』というアニメーション作品が衝撃的だった。9.11以降のアフガニスタンを舞台に、父親がタリバンに連れて行かれた家族のその後を描いたストーリーだ。

 

当時、タリバンの支配下にあったアフガニスタンの首都カブールでは歪んだ男尊女卑による苦しい生活を強いられていた。女性だけの外出は禁止。市場で女性には物を売らない店主。身を隠し怯えながら道を歩く女性の姿。母娘で外に繰り出すが、女性だけで外出しているという理由で男性から殴る蹴るの暴行にあう。家に男がいない家族は、小さな娘を男の子として育てた。生きるために髪を切り、男装し、食料を買いに出る。アフガニスタンには「バチャ・ポシュ」といって、生きるために娘を一定の年齢まで男の子として育てる風習があるそうだ。

タリバン支配下の市民たちを細かく描いたこの作品は、デボラ・エリス著『生きのびるために』が原作で、実際の取材をもとに書かれている。あと味はにがい。こんなに辛いアニメは日本では『蛍の墓』くらいしか思いつかない(いや、ジブリは優しい)。だが、心に深く響いた。アニメーションだからこそ描ける世界観だろう。

 

ただ女性として生きているだけで、なぜこんなにも理不尽なのか。ただ男性として生きているだけで、なぜこんなにも威張っているのか。歪んだ価値観は人間と文明を滅ぼす。

 

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いま世界では差別によるデモや歴史を覆す政治的な圧力、テロリストによる文明の破壊が起き続けている。人間は過ちを繰り返す生き物だからこそ、負の歴史も事実は事実として残しておく必要がある。芸術はそこのところを上手いこと自由に表現してくれる。幅広い世代の心に響くアニメーションの力に期待したい。

 

sakin.