あいつは足音もなく忍び寄る。突然現れては、甘い言葉で私をそそのかす。仕事や日常生活で「やらなければいけないこと」「やりたいこと」があるにもかかわらず、薄弱な私の意思は、たやすくあいつを受け入れる。抗う術は、カフェインと目薬とツボ押し。ただ、強力な眠気、いや、「睡魔」の前では、人間の抵抗なんて無に等しい。船を漕いでは、夢という遠洋へいざなわれる。

 

睡眠時間は7時間。平日は夜0時に寝て、朝7時ごろに起きる生活。休みの日も、起床就寝の時間は前後1時間のズレに収めている。職業上徹夜があって生活リズムが破綻していた一時期を除けば、睡眠の時間帯は学生のころから社会人までほとんど変わっていない。個人差はあれど、6~8時間が睡眠時間の理想と言われている昨今、ストイックすぎず、怠惰すぎず、ほどよい塩梅の生活リズムだと自負している。

 

とはいえ、睡眠時間を確保していても、昼過ぎには睡魔が襲ってくることもしばしば。お昼ご飯を食べたあとは、満腹中枢が刺激されてどうしても眠くなってしまうから仕方がない。そう思っていたのだが、14時ごろは「アフタヌーンディップ」と呼ばれ、お昼ご飯を食べようが抜こうが、生理的に人間が眠くなる時間だそうだ。自分のせいではないだから、なおのこと仕方がない。なんて開き直り。

 

授業中やミーティング中、観劇中にうとうとしているひと。単調なこと、興味のないことは脳への刺激が低下して、眠気をさそう。睡魔にとって「退屈」はなによりも好条件だ。コーヒーを飲もうが、清涼感のある目薬をさそうが、万能なツボを押そうが、「つまらない」状況には変わりがないから、なかなか睡魔を撃退できない。

 

ただ、自分にとって楽しいこと、興味のあること、なにかに集中しているときは眠気を感じづらい。時間が経つ感覚も忘れて、気がついたら朝、ということもある。一般的に、眠気をさそう代表格の読書だって、好きな人には睡眠薬ではなく脳の活性剤になりうる。目もギラギラで、脳もギラギラ。夢中はもうすでに夢の中なわけで、睡魔さえ入り込む隙はない。健康的な睡眠をとったうえで、睡魔すら寄せつけない夢中になるものに夢中になっていたいものだ。

 

くらもとよしみ