女たちの間で最近やたらと口にする“水星逆行”という言葉。

「打ち合わせですれ違いが多いと思ったら、水星逆行だからか」

「水星逆行だから携帯の電波がやたらとわるい」

「突然昔の友人に出くわした。水星逆行に入ってたわ」

 

ふだんの生活で起こるひょんな出来事は水星逆行が関係しているようだ。星の動きやら引き寄せやら、女たちは曖昧で謎めいた言葉をよく使う。宇宙の引力があなたに届いているの? 本当に波動を感じているのか? みんなそんなに繊細な感覚をもっているのか? と問いたくなるときがある。

 

天体の逆行とは地球を中心にみた西洋占星術における天体の現象。水星逆行は4か月に一度、水星が他の星と歩幅を合わせるために起こる。水星の象徴は思考・交通機関・コミュニケーション・言語・仕事・過去など。天体逆行のなかで水星が一番影響を感じやすいそうだ。水星逆行期間に起こるふだんとは違う出来事は水星逆行が理由ではないかという考えになる。星や月、古来より女性と不思議な関係をもつ天体の動きは少なからず女たちに影響をもたらしているといわれる。

 

私はやたらと水星逆行のせいにする女たちを少し小馬鹿にしていた。世界には不思議な力をもって生まれた人がいることは信じている。動物と話せる人。前世が見える人。不思議な能力は様々だ。その力を維持し、高めるためにはふだんからきっといろいろなことをしているのだろうと思う。だが、愛すべきそこらの女たちはどうだろう。感性を研ぎ澄ます修行なんてしていないだろう。チャクラの位置すら知らない女も平気で水星逆行を使う。

 

そんな小言を言っている私だがこの数か月間、波乱が続いた。偶然立ち寄ったお寺で“第一番の大吉”を引いた。ほかの何番でもない第一番の大吉ならきっとすごくいいんだろう。漠然とした期待を抱きながら過ごしていた。年始にインフルエンザにかかり、昨年から楽しみにしていたクラシックのコンサートには行けず寝正月に。続いて、新型コロナウイルスの発生初期に都内感染者が続いた某エリアに勤務している私は恐怖から自暴自棄に陥り、仕事や遊びの予定を変更して周りを巻き込む事態になり、早々に自宅勤務で引きこもり。新しいマウンテンバイクを手に入れてはすぐに、たまたま通った踏切が一瞬で閉まりタイヤは線路の溝にはまり、膝から転倒。大事には至らずとも大あざをつくる参事。立て続けにこんなことが起こるものだから、あれが頭をよぎる。

 

「そうか。あれもこれも水星逆行の時期か?」そう思うことで負の感情は飛んでいった。直接的に引力やら重力を感じているのではなく、不機嫌になりそうな自分のなかのマイナス分子を、目に見えない力を理由に受け入れていくことが女たちのいう水星逆行なんだろう。

 

「あれ、もしかして私も愛すべき水星逆行女だったのか?」

 

次月の水星逆行は6月18日から7月12日です。

 

sakin