やらなければいけないことがある。この時間までに。そろそろ行かなければならない。次の予定に間に合うために。帰らなければならない。明日のために。そんな時間の使い方に、くそくらえだ。すれ違ったままじゃないか。かけ違えたままじゃないか。なにひとつわかりあえないどころか、わかりあおうとしないほうがうまくいっていた。

 

むき出しの心で、ナイフのような言葉で語ることは許されないのか。節度を守る? 雰囲気を悪くしたくない? 次の言葉をためらい、時計に目をやって、もういい。これは説得じゃない。独白。心情の吐露。続けろ、続けろ。現状維持は悪だ。だまっている間にも細胞は壊れている。

 

問題は、酒。アルコールか。そうじゃない。昼間からこんな気持ちで話をしたことがあるか? 酒なんかくそくらえだ。熱いお茶をください。意味がないなんて信じない。この時間には意味がない。口がかってに動いて、かってにあいづちをうって、かってに冗談を言って、かってに笑って、かってに。だけど頭の中は。だけど頭の中はぐるぐるまわる。

 

明日もあさっても、きみと話がしたい。話していたい。ずっとずっと、いろんなことを話したい。おたがいに知っていることを全部話して、知らないことは想像しながら、朝も昼も夜も。いっしょにご飯を食べながら。全部話して、話し尽して、もう十分だねと満足したらしばらく旅に出よう。ぼくはぼくの旅。きみはきみの旅。そしてまたいつかどこかで再会して、いろんなことを話す。旅と再会と話。明日の予定も、終電の時間も、話をしている間は全部どこかそこらに投げ捨てて。

 

時は解決しない。残るのは、会話だ。時は解決しない。忘れてしまうだけだ。忘れてしまいたくない。なかったことにする生き方はもうたくさんだ! だれでもいいわけじゃない。だれでもいいわけじゃない。前へ進め。積み重ねろ。くずれてもくずれても、ただ無心に。時は解決しない。ただ、忘れるだけ。

 

これは愛の告白。一方通行の弾丸。なにも恐れるもののないあのころへ戻りたいなどとひとまばたきほども思うな。思えば忘れる。涙が出てくる。これも酒、酒、酒。終電なんかくそくらえ! 酒はもう二度と飲まない。忘れたくない。なにもかも。忘れたいことなんかこれっぽっちもありゃしない。時間に逆っているんじゃない。ただ自由に語り合いたいだけなんだ。

 

H・ヒルネスキー