精神世界に興味を持ち出した頃出遭った書物の中で取り分け記憶に残っているのは、学研の「ブックス・エソテリカ」シリーズです。
初めて手にしたのは、シリーズ第一作の『密教の本』で、暗い赤が基調の愛染明王の表紙に、なにやらとてつもない衝撃を受けたのを今でも覚えています(書店の棚のどの位置だったかまでハッキリと)。
八作目の『修験道の本』が出る直前でしたから、もう22年も前のことです。
その後、エソテリカ・シリーズは非東洋の宗教を紹介するようになって表紙を黄色に変え、さらには呪術や気功など宗教から派生した各種の呪いや修行法をも紹介するようになり、青表紙のシリーズを刊行し出しますが、後半はネタ切れ感が強く、初期のシリーズから無理矢理引っ張ったような本が増えていくのは初期からの読者として残念でした。
しかし、このシリーズは今読んでも、どれもその出来栄えに関心させられます。
勿論、複数の方の執筆によって成った本ですから、個々の記事の出来にはバラツキが見られますし、中には私の目から見て疑問に感じられる記述も散見されますが、それらは些細なことでしょう。
このシリーズの素晴らしさの第一は、文字の全てにルビが振られていることです。
読解に困る専門用語が頻出する漢字文化圏の宗教概説書としてはこれは大変有難いことです。
独学の初学者には特に嬉しい配慮というべきでしょう。
もとより遥か昔に成立し、長い時間をかけて進化発展を重ねてきた宗教の全てを一冊に凝縮することは不可能ですが、教養人が一通りの知識を得ようという目的を十分に達せられるように、重要事項が選び抜かれて簡明に述されています。
必要に迫られて、或る宗教の概略を短期間に頭に入れたい時など、その適することに於いてこのシリーズを上回るものを私は知りません。
個人的には、最初の邂逅である『密教の本』以外に、『修験道の本』『道教の本』『陰陽道の本』『古代秘教の本』『神秘学の本』『ヒンドゥ教の本』あたりが印象に残っています。