外苑再開発のイコモス案が斜め上過ぎてステキ
どうなっちゃうんでしょうね、神宮外苑の再開発。
反対のノロシはあちこちからあがり、今や燃え盛る炎となっています。
サザンオールスターズの新曲「Relay〜杜の詩」もそのひとつ、
桑田さんが明言していますが、外苑再開発を心配する内容となっているとのことです。
一方、ユニクロもこの曲をイメージソングとして採用を続けています。
外苑再開発の事業主体のうちのひとつ、それは三井不動産。
三井不動産と言えば「ららぽーと」じゃないですか。
当然ららぽーとにはユニクロも出店してます。
とーっても気まずい感じになってしまうのかな、と思いきや、さすがグローバル企業、意にも介さないでCM絶賛放映中です。
イチョウ並木 リンクによる
さて、里山を愛する者として、「木を伐採する」というのは、あんまり怒りのポイントとはなりにくいのです。
森は更新してナンボ、という感覚があるからでしょう。
屋久島や白神山地を除けば、日本に原生林などはそうそうあるものではありません。
日本人は常々、人が欲しいと思った木を植え続け、伐り続けてきました。
明治神宮の場合はどのような目的で森を作ったのでしょう?
明治天皇が崩御したのち明治神宮を造営するに当たって、
日本全国から一木ずつ献木されたものを植えて構成していったたそうです。
ですので再開発反対派としては、100年経ったそれらの人々の思いがある木を伐るのか?けしからん!
となるわけです。
事業者側の調べでなどはこれらの伐採する木の樹種についてはさっぱりわかりません。
落葉か常緑か、高木か低木かという、やる気のない分け方しかしていないからです。
だから気付きにくいのですが、他の資料を読み込んでいくと圧倒的にシラカシ、スダジイなどが多いことがわかります。
これらは献木されたものとは思えません。
鳥がフンと共にタネを落とし、勝手に根付き、ヤマザクラやクヌギなどから取って変わっていくのがこれらの樹種なのです。
里山も長年に渡って放置しておけばこれらの木に乗っ取られていきます。
最後はこれらの陰樹・照葉樹によって暗い森を形成していくのが、日本の本来の植生なのです。
明治神宮が鎮座する内苑のほうは、森には絶対に手を入れないという明確なルールがあって、
このような森林の極相化はかなり進んでいます。
一方の外苑も、データからしてもそうなりかけていることがよくわかります。
私にはむしろ木よりも、景観の観点からこの計画が心配です。
あのイチョウ並木の西側には神宮球場のバックネットが枝をかすめるように立ちはだかることになります。
もちろんイチョウの根も相当数断ち切ることになりそうなのは素人目にも見えてきてしまいます。
日本イコモスより
これは控え目な絵で、実際には巨大なバックスクリーンも設置されるでしょう。
これではイチョウ並木から絵画館を見通した時の景観的な「残念感」は相当なものです。
事業側にも良い発案は色々あって、絵画館前の軟式野球グランドを芝生広場に戻すのも良い案のひとつです。
これでイチョウ並木から絵画館までのはっきりとした軸線が担保されます。
このしっかりした公園の軸線を取り戻そうという趣旨は100年前の造営時の意向に沿うものと思います。
都市計画などでよく使われる「ヴィスタ」という語は、景観とも訳されます。
東京にはこうしたシンメトリーなヴィスタは国会議事堂と東京駅にしかなく、
それだけに今回の計画は外苑のヴィスタの総仕上げとも言えます。
軸線から聖徳記念絵画館を望む。 リンクによる
しかしこの外野スタンドはそれと大きく背反してしまうのです。
はっきり言って台無しです。
なぜこうなってしまうのか?
もちろん三井不動産、伊藤忠、明治神宮がこれを商機と考え、高層ビルを配置しようと考えているせいもあります。
しかし、秩父宮ラグビー場、神宮球場をさらに高規格のものに建て替える前提で、
今ある敷地の中でこれらをパズルのようにあてはめてみるとわかるのですが・・・
無理なのです!
これはエコノミーの2列シートに、リーチマイケルと貴景勝を並んで座らせるようなものなのです。
狭い敷地にこの2つはどうにも入りません。
そこで、タイトルにもあるイコモス【ICOMOS】が登場するわけです。
イコモスはユネスコの一機関です。
今回この計画に「ヘリテージ・アラート」を出し、中止を呼びかけました。
何を今さら途中でクチバシを突っ込んで来るのか、とも思ったのですが、
実はイコモスはすでに2年前からこの計画に憂慮を示し続けていたのです。
つまりこの2年間、事業側は「外野が何か言っている」くらいに高をくくってこれらの声明を無視していたのかもしれません。
さらにはちょうど1年前、イコモスは代替案まで発表しているのです。
それが以下のものです。
余り知られていないし、なかなかに秀逸なので、あえてコピペさせてもらいました。
「近代日本の公共空間を代表する文化的資産である神宮外苑の保全・継承についての提言」より
ええっ、周回道路が・・・
無くなってる!
従来案では狭い敷地に無理やり施設を当て嵌めるために球場とラグビー場を入れ替えて建てる計画だったのですが、
ここでは周回道路の一部を無くすことによって、球場の跡地には球場、ラグビー場の跡地にはラグビー場を建設する案としています。
さらに周回道路の南半分とイチョウ並木は歩行者専用道路としています。
北半分は首都高速の降り口と千駄ヶ谷から四谷橋方面へ抜ける車道としてそのまま確保しています。
たしかに以前からドライバーとしても周回道路の南側及びイチョウ並木の、その車道としての優位性は高くないように感じていました。
道路をやめちゃう。
ここがコロンブスの卵です。
エコノミー2列シートの片方のひじ掛けを撤去することによって、すべて解決できるのです。
この計画によって伐採される木はたった「2本」だそうです。
区道でしょうから調整もややこしいかもしませんが、それは国立競技場で経験済みのはずです。
すべては国立競技場の建て替えに際して「風致地区」の指定を解除してしまったがために起きたゴタゴタではあります。
所詮は明治神宮という宗教法人の私有地ですが、少なくとも森に関しては「どのような森にしたいのか?」が決まらない限りはどこまでも不毛の議論になってしまいます。
100年前の帝国臣民が一木ずつ持ち寄って神宮の森を作ったように、
今は様々な声のひとつひとつを傾聴して、新たな、そしてさらに美しい100年の森を作る。
そんな再開発はきっと可能だ、そう思っています。