三倍体植物たちのレゾンデートル(存在理由) | Souvenirs de la saison

三倍体植物たちのレゾンデートル(存在理由)

メジャーなのに奇妙な植物、三倍体

 

野山を散歩をすると、自然に親しめて楽しいものです。

なにしろ花マニアなものですから、

目にする植物を見て、悠久の地球の歴史に想いを馳せたりします。

この花はどんな進化を辿って今ここにいるのだろう?

どうしてこの立地を選んだんだろう?

なんて考えてそのロマンに酔ったりしています。

 

しかし、意外にも

進化の袋小路に入ってしまったのでは?

と思える一群がとても多いのに気づきます。

それが「三倍体の植物」たちです。

 

ふつうはお父さん由来とお母さん由来の染色体を1セットずつ受け継ぐので、

その個体は「二倍体」です。

ところが三倍体は何かの理由でそれが3セット作られてしまうのです。

そうすると二倍体の時とはまるで別種のような草姿になってしまいます。

よく見るヒガンバナも三倍体。

これは「コヒガンバナ」という二倍体の植物から誕生したとされます。

オニユリもそうで、二倍体は朝鮮半島・対馬にしかないコオニユリです。

二ホンスイセンも中国から来たフサザキスイセンの三倍体化したものと言われています。

ホウチャクソウも三倍体で、二倍体のホウチャクソウはまったく違う草姿なのに名前すら無く、

ただ「二倍体のホウチャクソウ」と呼ぶしかありません。

 

分球により大群落を作るヒガンバナ

 

 

三倍体は進化の終着点か?

三倍体がなぜ進化の袋小路かと言うと、

彼らはタネを残すことができません。

それが三倍体の科学的な宿命らしいのです。

もちろん子孫は残せます。

ヒガンバナや二ホンスイセンは球根の分球で、

オニユリは葉の付け根につく「ムカゴ」が地面に落ちるとそこから発芽します。

ホウチャクソウは地下のランナーで殖えます。

しかしそれではクローンですから、親とまったく同じ遺伝子。

それでは環境の変化に打たれ弱いし、新たな可能性が生まれ得ないということが言えます。

これは進化論に対する挑戦とさえ思えませんか?

 

 


一般的なホウチャクソウ(三倍体)

しべは花の中に収まっている。

 

とても珍しいニ倍体ホウチャクソウ

花から突き出るしべが宝鐸(ほうちゃく)の舌を思わせることからその名がついた。

つまり、三倍体化したホウチャクソウが全国区化した時期は

どんなに遡っても有史以降ということになる。

これはとんでもないスピードと言える。

 

 

三倍体植物の存在理由

しかし自然の摂理ともあろうものが、そんな自滅の道をわざわざ選ぶなんてことがあるでしょうか?

そこで、「これも植物が考えた進化戦略なのでは?」と仮定しました。

 

三倍体は、二倍体よりも体が格段に大きくなります。

それは簡単な算数の話で、三倍体の細胞は二倍体の1.5倍の容量が必要なのです。

しかし実際にはどれも2倍の大きさになっていそうです。

そして圧倒的に強健です。

受粉してタネを作ると言うのは莫大なエネルギーコストが必要ですが、

それをクローンという最小限のコストで子孫を作れる方法で済ませています。

 

三倍体植物たちはその大きさを利用して他の草たちからアタマ一つ抜け出て日光をゲット、

そこから得たエネルギーを自己増殖に使い、その繰り返しによって版図を広げてきたのだろうと思います。

二倍体のままでは、ある地域限定で細々と生きながらえなくてはならなかったのが、

三倍体になることによって爆発的に広域に広がることができたと推測できます。

 

例えば、コオニユリは生活の範囲が湿地に限られていましたが、

オニユリになることで乾燥地へも適応し、メジャーな存在になりました。

 

落ちたムカゴからどんどん殖えるオニユリ

 

 

しかし、彼らの戦略の最終目標はそこではないでしょう。

自生の範囲を広げ、個体数を圧倒的に増やしたあと、

彼らは次の進化にかけているのかもしれません。

遺伝子のバグで二倍体に戻ったり、あるいは四倍体化する可能性だってあります。

三倍体植物は、二倍体植物の遺伝子の乗り物であり、

その優れた乗り物を使って時空間を大きくワープさせることができるのです。

 

例えば、西洋タンポポは三倍体です。

その強靭さを利用して日本に上陸しました。

彼らはタネは作れないものの、花粉なら作れます。

花粉は虫を介して関東タンポポなどの日本タンポポの雌しべと結合し、雑種を作るのです。

 

カントウタンポポ

 

西洋タンポポ ガクが開ききる。

 

 

そして、三倍体化は、その種を完全に確立するのにも利用していると考えました。

ニ倍体では、分化した者同士が交雑しやすく、種の確立が困難になる場合があります。

ヒガンバナはショウキズイセンと、

ホウチャクソウはチゴユリと、

それぞれ交雑するので、ひとつの種として確立しにくいのです。

これは多様性を獲得していこうとする生命全体の進化法則から外れてしまうのです。

どちらかが三倍体化することにより、この危ういDNAの距離の近さを回避できるのです。

 

種なし野菜・果実も三倍体化を利用して開発される。

 

 

 

そもそも進化とは何か?

私は生物は「進化」でなく、「填化」してきた、そう考えています。

空、海、極北、熱帯、洞窟、地下、夜、厳冬、

隙間がちよっとでもあればそこに生命を送り込む、充填させる、

そうして生命は全体として全滅の危険性を回避し、その永遠性を担保しているのでしょう。

生物の様々な倍数体化はその手段として極めて有効だったのではないでしょうか。

 

二ホンスイセンは、特に大群落を形成しやすい。

 

三倍体植物たちの強健さを見れば、

彼らは決してあだ花であるはずは無い。

それだけは言えると思うのです。

持って生まれた役割とは何なのか?

花に問い、おのれに問う、

そんな里山散歩を楽しんでいます。