パンジーとビオラの違いとは? さらにはバイオレットとか。 | Souvenirs de la saison

パンジーとビオラの違いとは? さらにはバイオレットとか。

 

冬はビオラの季節です。

家の人がこのビオラを主体にしてせっせと寄せ植えを作るので、家の前はとても華やいでいます。

 

いや、でも私の少年時代は、ビオラなんて無かったような気がする・・・

たいがい「パンジー」でしたよね?

今もパンジーも売っていますが、そもそもこのふたつ、違いなんてあるんでしょうか?

なんとなしですけれど、駅前ロータリーに植わってるのがパンジー?

ガーデニング趣味の人が庭に植えているのがビオラ?

この際決着をつけるべく、ちょっと調べてみました。

 

 

 

wikiによると、

“花径5cm以上をパンジー、4cm以下をヴィオラとすることが多い。“

のだそうです。やっぱり厳密な決まりは無いみたい。

昔はどっちが咲き出しが遅いとか強健とかあったものの、今や品種改良によって差が無くなり、

“現在では見た目が豪華なのがパンジー、かわいらしいのがビオラとする、かなり主観的な分け方になっている。“

なんて書いてあって、これはもう笑える!

あの女優さんはパンジー型、ボクの推しメンはビオラ型、なんて言い方も可能かもしれません。

 

 

 

海外でもパンジーとビオラの使い分けには苦慮しているようですが、

その長い育種の歴史を見ていくと、どうしてパンジーとビオラ、ふたつの名前が併存しているのかがボンヤリと見えてきます。

 

Violatricolorarvensis.jpg

野生種のパンジー=サンシキスミレ

学名 Viola tricolor(三色のビオラの意)
カール・アクセル・マグヌス・リンドマン - http://runeberg.org/nordflor/pics/227.jpg, パブリック・ドメイン, リンクによる

 

サンシキスミレは、もともとヨーロッパに自生していたスミレです。

紫、白、黄色の3色が入る可愛い野の花です。

イギリスではこれこそが本来のパンジーでした。

このパンジーという言葉はフランスでのこの花の名前である「パンセ」を英語読みしたものです。

パンセは「考える」「思う」という意味の受動態で、うつむき加減につくこの花の蕾が、さながらロダンの彫刻のように、考え込んでいる様子に見えたからではないかと言われています。

イギリスにこの名前が輸入されると、その思う対象はもっぱら異性となりました。

古い呼び名のひとつに"love in idleness"

訳せば「呆けた愛」、人を想うあまり何も手の付かない状態のたとえでしょう。

この由来は今でも「物思い」や「私を忘れないで」というこの花の花言葉に引き継がれています。

 

 

 

一方、ビオラとはViola、ラテン語でスミレのことです。

分類学上、学名もラテン語を基準としてつけられますから、ビオラはスミレ全体の学名でもあります。

日本での園芸植物の呼び方は、習慣として呼ばれている名だったり、種苗会社が売り出す商品名が汎用されたりなど色々ですが、

イギリスのガーデニング愛好家のあいだでは、花たちは学名でやりとりされることが一般的です。

例えば、クリスマスローズはヘレボラス、もしくは縮めてヘレボーとか。

ヤグルマギクは麦畑から自然に出る時はコーンフラワーと呼ばれていますが、園芸で使うときは学名のセントーレア。

ジキタリスやデルフィニウムなど、本来愛称もありますが、みな学名で呼ぶのが普通です。

これは19世紀から延々と続く慣習で、世界の文物が集まった大英帝国の臣民がこぞって博物学に熱を上げたことの表われだと思います。

以前紹介した「イギリス野の花図鑑」という19世紀の一般人が書いた本にも、その熱心な勉強のあとが覗われます。

 

「イギリス野の花図鑑 a victorian frower album

いつも子供が摘んできた花をスケッチする。

まず学名を、そして通り名、その下に一年草か宿根かを調べて記した。

 

やがてサンシキスミレたちは園芸用に交配され、次々と新しい品種が生まれていきました。

その課程ではビオラの名を頭に冠して区別することが必要となりました。

つまり元々はパンジーは社会通念上の名、ビオラは分類学上の名前なのです。

日本ではそれこそ駅前ロータリーを黄色や白、紫のパンジーで色面分割しているうちはパンジーでよかったのでしょう。

それが家庭の花壇や鉢植えに合う、小ぶりで一輪でも色数が多く面白い表情を持つものが流行っていく中でビオラの名が拡がり、いつの間にか微妙な住み分けが成立していったのだと思います。

海外では原種に近かったりシンプルなものをパンジー、品種交配の妙をより感じるものをビオラとするようになっているようです。

園芸植物として取り込まれる前の野生のサンシキスミレが、ワイルド・パンジーと呼ばれこそすれ、ワイルド・ビオラと呼ばれないのはそのためです。

 

 

 

しかし、 ここで新たな疑問が。

バイオレットって何よ?

これは当然ビオラから派生しているであろうことは想像できます。

ビオラがラテン語だということは前述しましたが、ラテン語とは元々がイタリア半島を中心としたローマ時代のローマ人の言葉です。

彼らの土地に普通の生えていたスミレは、地中海地方や西アジアに分布するニオイスミレでした。

その強い芳香はハーブとしても利用されてきました。

ラテンの系譜を引くフランス人は、南方に咲くニオイスミレ=バイオレットと北方に自生するサンシキスミレ=パンセとを切り分けて考えていたのでしょう。

そのニオイスミレの花いろこそ濃い紫、バイオレット色です。

より人間との関わりの古いバイオレットは、今ではむしろ、人名や色名として英語圏にも伝播し、親しまれ続けて現在に至っています。

 

 

ニオイスミレ 

学名 Viola odorata(香るビオラの意)