ツバキ科 | Souvenirs de la saison

ツバキ科

ツバキ科は人類を森に誘いこんだ。
 

 

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名樹散椿/速水御舟
Hayami Gyoshû - Catalogue, パブリック・ドメイン, リンクによる

 
 
この植物たちは、葉の表面が透明のクチクラ層に覆われて輝くことから、
クスノキ科やブナ科の一部とともに、照葉樹と呼ばれている。
アジアの亜熱帯の高山帯から温帯の低地にかけて、これら照葉樹の森は続いている。
草原を歩いてきた人類は、この昼なお暗い森の中に分け入った。
森は深く、鳥や小さなケモノ、キノコや地性ランが妖精のように唄い舞っていた。
冬でも枯れることの無い木々は、強い季節風をよくしのぎ、天敵の目を眩ませて、彼らを庇護した。
人類は、決して高くは無いがその確かな生産性を約束する森に、安住の地を見てとった。
やがて森の民となった一群はその森の回廊を伝って、東アジアを横断し、一部は日本へも流れついた。
 
 
サザンカ 山茶花
 
絞りのツバキの花
サザンカの花はハラハラと散り、椿の花はポトリと落ちる。
 
 
人はツバキ科からも直接様々な恵みを受けている。
ツバキから生活のための油を絞ってその恩恵を受けた。
そして、茶と巡り会ったのは大きい出来事だ。
茶はやがて人類最大の嗜好品となり、
茶栽培によって素朴と言うより他は無かった照葉樹林は、
喧騒に溢れた市場経済に組み込まれることになったのである。
 
 
茶の花
 
 
ツバキ科が無かったら人類はどうしていただろう。
何より3時はコーヒーの時間となっていたろう。
イギリスでさえアフタヌーンティーが定着する前は
コーヒーハウスでのひとときが一般的だったので、意外と問題無いかもしれない。
やはり茶が無いと困るのはアジア人であり、特に千利休はどうしていただろう?
ましてや茶花に最適な椿の花さえ無いとしたら、気の毒なことこの上無い。