おだまき | Souvenirs de la saison

おだまき

ウォルター・クレイン ヴィクトリアンの散歩道
19世紀後半を主に活躍したイギリスの画家、ウォルター・クレイン。
このシリーズでは、彼の代表作の絵本「フローラの饗宴」より、
毎回1ページを選んで、訳詞と解説をつけました。

 

 

 

Fair Columbines that drew the car

Of venus from the distant star:

 

遠い星からやって来た

ヴィーナスが御乗りになるその車

車を牽いているのは

完璧なほど美しいオダマキ

 

 

 

 

キリスト教の教えが絶対的だった頃のヨーロッパの中世において、古代の素晴らしい科学を密かに継承し続けた者たちがいました。

物質の変成に挑む錬金術師、薬物や心理療法でマジックを行う魔女、人の持つ特性を探りそして導く占星術家、ハーブの調合で医療を行うハーバリストたちでした。

17世紀のハーバリストにして占星術の大家、ニコラス・カルペパーは大著「カルペパーズ・コンプリート・ハーバル」においてオダマキは金星の支配下にある薬草であるということを述べています。

その利用法としては、オダマキの葉を煎じて作ったローションで喉の痛みをケアする、また、種は出産に、根は腎臓結石に使用すると書かれています。

 

 

 

Plants and herbs from Culpeper's 'The Complete Herbal...' Wellcome L0034813.jpg

「カルペパーズ・コンプリート・ハーバル」の1ページ

De http://wellcomeimages.org/indexplus/obf_images/4e/dc/45b3856e7a7acc59ff0e649b7ab4.jpg Gallery: http://wellcomeimages.org/indexplus/image/L0034813.html Wellcome Collection gallery (2018-04-01): https://wellcomecollection.org/works/eywvtzs5 CC-BY-4.0, CC BY 4.0, Enlace

 

しかし、中世ヨーロッパで最も知られる利用法は、オダマキを「ラブ・マジック」に使用することだったそうです。これはオダマキが金星の支配下であること、金星の英名はヴィーナス、愛の女神そのものであることと関係があるように思われます。

「ラブ・マジック」がどのようなものであるか、おそらくは魔女に頼んで調合してもらう何かなのでしょうが、好きな人に振り向いてもらうために必死になるのは今も昔も一緒と言うことでしょうか。

 

 

 

愛の女神の乗り物ということですから、ムチをふるう子供の御者はキューピッドということになります。

キューピッドはヴィーナスの息子で、ヴィーナスが描かれる時、キューピッドも一緒に描かれる場合がよくあります。

 

Lotto, Lorenzo - Venus and Cupid - c. 1550.jpg

ロレンツォ・ロット 「ヴィーナスとキューピッド」 1530年頃
By   - http://www.metmuseum.org/toah/images/hb/hb_1986.138.jpg, パブリック・ドメイン, Link

 

 

それにしても、やはりオダマキを形作る鳥が異様です。

(日本人の私にはキューピッドが操る鵜飼いの鵜にしか見えません。)

これはオダマキを意味するcolumbineコロンパインが、ラテン語の鳩に由来するためです。

オダマキの花を横からしみじみとよく見ると、5羽の鳩が顔を寄せ合って内緒話でもしているかのように見えてきます。

しまいには鳥にしか見えなくなって、クレインの絵がまんざら誇張でなく感じるほどです。

 ちなみに日本名のオダマキ「苧環」は、機織りに使う糸車のようなもののことだそうです。

 

 

まさしく鳩そのもの!

 

 

問題はオダマキの花は日本でもヨーロッパでも青色が主体で、絵のよう赤色はまずもって無いことです。

今では様々な園芸種もあり、多色化は進んでいますが、イギリスに自生するオダマキではこの色はありません。わずかに北米のワイルドコロンパイン、別名レッドコロンパインがこのような赤色を呈しています。

 

 

主題となった花  オダマキ

原詩で踏んだ韻  car ⇔ star