先日私のXに日本人アルニスダーのポストが流れてきました。
曰く、アルニスの実力はスイングで分かると言う内容で、自分もきれいに振れるよう心掛けているというお話でした。
なるほど。
実にモダン・アルニスらしい考えです。
確かに、アルニスの基本にあるフェンスの思想からすると、この考えは完全に正しい。
ただ、現実的には私の知っている先生方は……そうでもないかな。
私が教わった家伝系の伝統エスクリマや、ゲリラ戦系のエスクリマは、あまり見栄えがしない感じがします。
そんなに綺麗な振りはしていないのではないかな。
ここに、東南アジアの西洋化の歴史が垣間見えるような気がしました。
アルニスではなく、マレー武術のシラットでも、時にものすごくプリミティブな動きを見ることがあります。
もう、ギョッとするような猫パンチ。
ちょっとでもボクシングや空手などの現代格闘技を観ていたら絶対に出来ないような、ふにゃふにゃした動作が極自然に出ていたりするのです。
これは、私たち西洋文明が骨の髄まで染み込んでしまった現代先進国の人間には真似できない。
おそらく、マスコミュニケーションが発達していなかった時代にはこういう人たちが沢山いたのでしょう。
しかし、情報化が進んでみんなが「こういう物だ」と思う典型が広まってしまって、みんなが無意識に同じ動きをするようになってしまいました。
これがオルテガ・イ・ガセット先生の言う、産業革命による大衆化ですね。
無意識のうちにどこかで見たような「人と同じ動き」をする習慣がついていて、自分で考えて自分のやり方で動くと言うことを見失ってしまっている。
モダン・アーニスは現代武道で、そういった大衆化を目的に普及活動が行われています。
そもそも開祖がアメリカに移住してそちらで発展させたもので、アメリカ人向けのアメリカ武術であると言っても半ばはいいかもしれません。
私が学んでいる伝統流派をやっていると、こういった歴史の流れを感じることができます。
一般的に中核としてやる型は、サヤウと呼ばれています。
これは、一対一用の物、対多数戦の練習用の物、多数対多数の物と、コンセプトごとの典型的な動きを反復して学ぶ物です。
わりかし荒っぽくて、癖が強くて、現代アルニスの視点からすると明らかに異質な動きをしています。
このカテゴリーとは別に、ポルムと呼ばれる型群があります。
これは英語で言うFORM。まさに「形」ですね。
これらは、非常に素朴で、端正で、一、二、と数えながら出来るような、ある意味で「つまらない」、現代空手道のような物です。
実際に、空手の影響を受けたと言う話も聞いたことがあります。
こちらはフィリピンぽいヴァイブス、東南アジアの香りがだいぶ薄い。
どの国の誰がやっても、均一化された同じことが出来そうです。
さらにこのほかに、アニョと呼ばれる物があります。
これは完全にパフォーマンス競技用の創作型で、品評会に出る子たちが自作して、飛んだり跳ねたり宙返りをしたりして見栄えを競っています。
もう、単なるエクストリーム・マーシャル・アーツの世界に向かっています。これは私には関係ない世界の物です。
大衆化の後は競技化、見世物化。武術と言うのは昔から洋の東西を問わずそういう物なのでしょう。
これは時代の変遷を考えると当然なのですが、その中で昔の物も残しているところがありがたいなと思います。