前回までの、生理学的に観た脱力の話を補足してみます。
まず大前提です。
「脱力では筋肉は弛緩しません」
弛緩の反対は緊張ですね。
筋肉が緊張するというのは一般的に言う力が入った、という状態です。
これが脱力の反対ですね。筋肉の緊張が。
で、今回の主題の理解を深めるために、そもそも筋肉の緊張とは何か、ということを書いてみます。
筋肉は、筋細胞が束になって作られています。
この筋細胞は長いので、筋繊維とも呼ばれます。
また、筋フィラメントとも言います。
この長い筋繊維の中に、アクチンと言う部分とミオシンと呼ばれる筋原線維があります。
これらが、長い筋肉の中に南京玉すだれのような状態で点在しています。
そこに、筋肉を緊張させろ、という指令が伝達されると、アクチンが動いてミオシンと重なりあうポジションに位置します。
伸びていた南京玉すだれが、スライドして畳まれたような状態です。
これが筋収縮、筋肉が緊張して力が働いている状態です。
この動力は筋細胞中に拡散しているカルシウムを媒介とした電気で、燃料は細胞の中のミトコンドリアで作られたATPです。
一定時間以上の筋収縮では、ATPのうちのリンが燃え尽きて細胞中のリンを再吸収して変化したADPとなり、それを使って持久運動を行います(ローマン反応)。
では、この最中に、脱力をするとどうなるでしょうか。
筋肉は、収縮したままで、それ以上の収縮をしなくなります。
重力や姿勢の変化によって、アクチンがミオシンから離れて幾分筋肉が緩むことがあります。
でも、積極的に弛緩状態にはなりません。中途半端な弱めの緊張のままです。
南京玉すだれは中途半端な長さで、伸び切っていません。
これがいわゆる「脱力が出来ていない」と道場で怒られる時の状態です。
でも、脱力が出来ていない訳ではないのです。ただ、アクチンが遠くに移動していないだけです。
ではどうすればそれをして、筋繊維を延ばして弛緩させることが出来るでしょうか。
それはですね。アクチンをまた動かしてミオシンから遠くにやらないといけないのです。
そのためにはどうするかというと、筋繊維中のカルシウムを吸収しないといけません。
そのためにはATPをまた使わないといけません。
カロリーが必要な運動です。
そしてまたアクチンを動かして筋肉を伸ばします。
これで筋肉が弛緩した状態になります。
誰でも、力は抜いているのに肩こりや腰痛が起きた経験があるのではないでしょうか。
これはこの機序のためです。
力を抜いても筋肉は伸びないのです。
伸ばすためにはストレッチ運動が必要です。
つづく