ディズニーの実写映画「ムーラン」が劇場公開中止になりました。
これは「隋唐演義」に出てくる登場人物、花木蘭をフィーチャーした映画で、大画面でディズニーの武侠映画という珍しい趣向もあって好事家の目を引いていました。
しかし、その一大スペクタクルを取るために少数民族の弾圧をしていたことが発覚し、おなじみ中国政府の人権無視問題が取り上げられました。
なにせ「三権分立などは西洋資本主義社会の話だ」と明言したお国柄です。そりゃあそういうこともありますでしょう。
そもそもが、力を合わせて異民族と戦う、といういかにも共産主義的な内容でもあることまでこれによって気付かれだしてしまいました。
その風向きの中、COVIDによるアメリカでの劇場封鎖によってこの作品はディズニーのチャンネルでの配信コンテンツとなりました。
アメリカでは緊急事態となってから真っ先に劇場が封鎖され、大都市部では今に至るまで再開されていません。
そのため、多くのハリウッド映画が公開延期となっています。
さらに言うと、映画制作も中止となっているものが多いと言います。
そもそも、開拓がもっとも遅れた地域で、チャイニーズ・マフィアの地下帝国だったような何もない場所だったカリフォルニア州。
何もないんだから映画の撮影にはちょうどいいな、ということで西部劇映画の撮影所が出来たところからハリウッドの歴史が始まったといいます。
以来、世界中で一つの国の一つの街で作られた作品ばかりが常時安定供給されているというのは、考えてみたらとても奇妙な人類の歴史です。
日本の各都市にあるシネコンも、基本的にはハリウッド映画を流すための施設です。
クラシック音楽全盛期のウィーンよりも凄い。
そのハリウッドが機能停止していて、日本でもアニメ映画ばかりが流されることになりました。
この間のNYタイムズによると「鬼滅の刃」が世界で最も興行収入を上げている映画になったそうです。
そりゃそうです。それだけいま、世界中で映画なんてものは流されていないのです。
そういった中で、ディズニーアニメ映画の「ソウルフル・ワールド」も劇場公開中止が発表されました。
ディズニー映画というのは、この数年基本的にトライバル映画となっています。
ムーランは現在最もハリウッドの収益が依存している中国に大量にあるシネコンを対象に制作されています。
ザ・ロックことピープルズ・チャンピオンことドゥエイン・ジョンソンがハリウッド俳優として成功したおりには、彼のファン層の中核である南洋系の人々をターゲットにした「モアナと伝説の海」が制作されました。
現在、アメリカでもっとも多い非白人種であるラテン系を対象としたのはメキシコを舞台にした「リメンバー・ミー」です。
今回公開中止となった「ソウルフル・ワールド」は、その名の通り、ソウル・ミュージックのシンガーを目指す黒人男性を主人公としたブラック・ミュージック映画として期待されていました。
現在、スター・ウォーズの権利もディズニーが買ったことで分かる通り、ハリウッドの最大の映画会社はディズニーとなっています。
そのディズニーが、劇場公開を中止して自分の会社の配信チャンネルでの公開に方向転換をしています。
もう何年も前から、配信コンテンツは、劇場映画より製作費もクオリティも高いというのが定説となっています。
昨年のアカデミー賞受賞作品「アイリッシュマン」もネット配信ドラマであって、劇場公開映画ではありません。
つまり、このパラダイム・シフトの後押しによって、ニュー・ノーマルでの世界では劇場公開文化が無くなる可能性が高いと言われています。
劇場文化の最後の砦として頑張っていたのがノーラン監督の「テネット」だったのですが、これは無理を押して公開した結果大成功となりました。
ノーラン監督は撮影現場にスタッフがスマホを持ち込むことも許さないくらいのIT嫌いで、映画では何かを消したり画面を調整したりするためにCGを使うことはあっても、CGで何かを作って画面に落とし込むと言うことはしない映像作家です。
なので、テネットでも大掛かりなアクションシーンは全て本当にやったそうです。
だからこそ、彼は大画面での公開にこだわって絶対にネット配信にはしなかったのだと言います。
今後、本当にハリウッドの劇場公開文化は消えてゆくのか否か、どちらに転んでもおかしくない状況となっています。
VRなどが発展すれば、劇場の画面以上の大きさが体感できる訳で、ノーラン監督もそちらの方がいいと言うかもしれません。
そうなったら、映画館というのはかつての大衆演劇上や活弁のように、古き時代の文化となってゆくことでしょう。
そんな中「ソウルフル・ワールド」に次いでディズニーが作っていた映画が発表されました。
こちらとなります。
https://www.youtube.com/watch?v=9cDQNqQMdj8
はい、サムネイルでいきなり「あの笠」を被っていますね。
フィリピンの伝統派エスクリマドールがかぶっている伝統衣装です。
そして動画を観ると、虫除けの焼きがはいったバストンを使っています。
マジでこの映画、エスクリマドール映画なのです。
しかし、ヒロインが乗り物にしている生き物の名前はトゥクトゥク、タイの乗り物のなまえです 。
フィリピンでの同様の乗り物は「ジプニー」と呼びます。
そして、ラーヤというのもタイの名前です。言語としてはサンスクリット語なので、仏教伝来圏のアジアだったら他の国でも使われそうな名前ですね。
察するにこれは、メコン川流域文化のアジアをイメージした世界でのお話なのでしょう。
個人的には、このトゥクトゥクの動きや砂の広がる背景などは、スター・ウォーズにインスパイアされたように思われます。
あのシリーズでも、東南アジア的な武術であるテラス・カジというものが登場していますね。
フィリピンはアジアで唯一のキリスト教国であり、実際の伝統的な風景は南米やスペインのような感じが多い。
この映画で語られているエキゾチックな風景は、おそらくアメリカ人が見たなんとなくの東南アジアの物なのでしょう。
カンボジア、ラオス、インドネシアなどの人々もターゲットに入っている物だと思われます。
言い換えれば、私の学問の範疇の海賊武術のハロハロ文化の世界のお話だと予測することも出来ます。
練習道具であるはずのバストンで戦ってる辺り、かなり浅いところにとどまっている可能性も予測されるのですが。
おそらくはこの映画もネット配信になる可能性が高いとは思いますが、できれば劇場で、ディズニー・プリンセスによるエスクリマ映画が観れたらいいだろうなあという気がします。