大倭寇後の武術史私論 5・マーシャル・アーツ・ギャングスタ | サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ

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気持ちよく生きるためのライフスタイルとしての南派拳法(カンフー)蔡李佛拳とエスクリマ(フィリピン武術)ラプンティ・アルニス・デ・アバニコを横浜、湘南、都内で練習しています。オンライン・レッスン一か月@10000で行っております。
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 さて、王倫による山東蟷螂拳の反乱は鎮圧されましたが、逃散した革命闘士たちは再び地下に潜伏します。

 これらの潜伏は、陸においては魔教の、海側においては洪門の地下ルートが大いに活用されたものなのではないかと思われます。

 これは明朝VS反乱勢力という構造をすでに離れ、体制VS生活を守るための反抗勢力という形がすでに自己目的化していたのではないかと思うのです。

 いわば、マフィア化、地下帝国化です。

 そしてこれは任侠の道であり、彼ら武術家が武侠と呼ばれる所以なのではないでしょうか。

 侠とは「法に照らし合わせると正しくはないが、倫理に照らすと正しいところがある」という意味です。

 つまり、悪法によるお尋ね者の倫理と言ってよいでしょう。

 中国武術というのはこのような精神によって支えられてきました。

 明帝国が滅びて再び騎馬民族が侵略を果たす過程で、以前にも書いた鄭成功による一大海戦の時代が訪れます。

 そこはのちにまた改めて書きなおしたい重要な時代ですが、今回はちょっと飛ばして清朝末にまで一気に時代を進めてみましょう。

 騎馬民族の支配による明朝の時代、再び漢民族は被支配階級となっています。ここで以前から潜伏をしていた各種の地下組織との親和性が立ち上がってきます。

 この時代が中国武術の最盛期の一つと呼ばれており、それらの門派の背後に必ず宗教団体や地下組織が存在しているのはそのためでしょう。

 騎馬民族はジェダイ寺院を破壊したように、武僧の勢力を恐れて少林寺を焼き討ちにします。

 その尖兵となった一人に、白眉道人がいます。こういう人です。

 

 武侠世界ではスター悪役として有名な人で、何本もの映画やドラマに出ています。キムタクとCMで共演したり、キル・ビルでもギャング拳法の師匠として出ていました。

 この人、元は反清活動をしていた少林寺で修行をしていたのですが、のちに騎馬民族側に寝返って、自分の編み出した拳法で少林僧たちを単身次々と打倒してゆき、清軍を手引きして少林寺の焼き討ちを果たしたといわれている人物です。

 この時、白眉道人は少林拳ではなく内家拳に傾倒していたと言い、それを取り入れていたために清に味方したという見方もできます。

 内家拳の代表である太極拳こそが清朝の代表的な武術なのですから。

 しかし、これはあくまで伝説のお話。

 白眉拳師の編み出した白眉拳の中では、白眉道人と言う道教の呼称をせずに、白眉禅師と呼んであくまで少林拳の流れを主張していたりもします。 

 彼ら側の提出した資料によると、白眉拳は門内での腕試しから現れた拳術で、代々僧にしか伝えられていなかったと言います。

  また、別の説では白眉師はもう少しだけ後の時代の人で、少林寺が焼き討ちにされたあと、そこから落ち延びた五人のジェダイ・マスター、ではなくて五人のカンフー・マスターが福建において反清複明の福建少林寺を建立したときに、そこで修行を積んだ人だという話もあります。

 これだとすると時代的には、のちに内家拳に傾倒してそちらに鞍替えしたという説もあり得てくる気がします。

 とまれ、武侠のうちで悪役の印象がついているという非常に珍しいキャラクターです。

 この印象的な人物が使った白眉拳、実は私も少しだけかじっていました。

 驚勁、あるいは驚弾勁と呼ばれる勁を活用する、並行立ち型の典型的な福建拳法です。

 この福建が革命結社や地下組織の本拠地だとすると、倭寇武術や洪門武術との関連性が問われるところです。

 この白眉拳、現代に伝えられているものは、四世伝人の 張礼泉先生によって伝えられてきた派です。

 この張先生、客家です。

 いとこ同じ客家拳法の龍形拳の師父がおられます。

 この二つの拳法には用勁の部分で非常に共通性があり、私も学んだ時には併習しました。

 そして、これらと同じで兄弟の拳法だとされているのが南派蟷螂拳です。

 白眉拳と南蟷螂の間には、少林の腕比べの拳法であったこと、ともに短勁であることなどの共通点がありますが、それらは同時に山東蟷螂拳の伝承にもあることです。

 ために私は、王倫白蓮教徒の乱からの山東蟷螂拳の流れがここにつながっているのではないかと考える次第なのです。   

 と、いうようなところで次からはスーパー拳法大戦ともいえる太平天国の乱と、心意把、白鶴拳への流れについて触れてゆきたいと思います。