「アンネの日記」
(原題:The Diary of Anne Frank)
1959年3月18日公開。
日本でも翻訳出版されて好評を博したアンネ・フランクの『アンネの日記』の映画化。
原作:アンネ・フランク『アンネの日記』
脚本:フランセス・グッドリッチ、アルバート・ハケット
監督:ジョージ・スティーヴンス
キャスト:
アンネ:ミリー・パーキンス
オットー:ジョゼフ・シルドクラウト
マーゴット:ダイアン・ベーカー
ピーター:リチャード・ベイマー
ミープ:ドディ・ヒース
デュッセル:エド・ウィン
あらすじ:
1945年、ナチ占領下から解放されたアムステルダム。
強制収容所を出たオットー(ジョゼフ・シルドクラウト)は、想い出の屋根裏部屋に戻って来た。
そこで娘アンネ(ミリー・パーキンス)の書いた日記をみつけた。
日記は1942年7月9日から始まる。
アンネの父オットーはユダヤ人で、母はオランダ人だった。
姉マーゴット(ダイアン・ベーカー)とアンネはドイツで生まれた。
ヒットラーが政権をとるとユダヤ人の排斥が始まった。
アンネ一家は親友のバン夫妻と息子ピーター(リチャード・ベイマー)と共に、オランダへ亡命した。
隠れ家の屋根裏部屋の下は香味料工場で、オットーは家族にいろいろと注意を与えた。
姉妹はピーターと親しくなった。
両親は耐乏生活に苦労した。
戦争は連合軍側に有利になった。
その頃、家主のミープ(ドディ・ヒース)がオットーに1人同居人を入れてくれと頼みにきた。
彼はデュッセル(エド・ウィン)というユダヤ人の歯医者だった。
デュッセルは一家の人々に、ナチのユダヤ人殺害の話をした。
アンネはその話を聞き、ある晩夢を見て悲鳴をあげた。
毎年12月に行われるユダヤ人のハヌカ祭が、屋根裏でささやかに開かれた。
アンネは父に手編みのマフラーの贈物をした。
その時、階下で物音を聞いた。
泥棒が入ったらしい。
おびえたアンネはピーターに抱きついた。
デュッセルはピーターが音を立てたと彼を責めた。
泥棒が捕まった時、その物音から自分たちの所在がばれるのを恐れたからだ。
新年を迎え、アンネも女性らしくなった。
ある日、階下の倉庫で働いているカールという男が、屋根裏部屋のことで階下のクラレルを脅迫した。
アンネとピーターは愛し合うようになった。
アメリカ軍がイタリアに上陸すると、ピーターは自由オランダ義勇軍に参加するといった。
ある日、ミープが盗まれたタイプライターのことで、アンネたちの所在がゲシュタポに知られたことを告げにきた。
8月のある日、遂に来るべきものが来た。
サイレンを鳴らした警察の車が階下に止った。
今はすべてを覚悟したアンネは、ピーターに別れの、そして最後の接吻をした。
人間の善意は永遠に失われないことを信じて、アンネは死の収容所に向かうのだった。
コメント:
ジョージ・スティーヴンス監督は、戦時中アメリカ陸軍の映画班に所属していた。
その中で、ダッハウ強制収容所では解放直後から現場の記録撮影に従事した。
世界で一番早くユダヤ人のホロコーストの現実を目の当たりにした。
その悲劇のアイコンとして、アンネ・フランクの日記が各国でベストセラーになり、ブロードウェイでも
劇化された。
ハリウッドのメジャー映画会社の創始者にはユダヤ人が多い。
20世紀フォックスのウィリアム・フォックスもその一人。
スティーブンス監督がフォックス資本で「アンネの日記」を撮るのも因縁めいている。
映画は1945年の戦後まもなく、アンネの父オットー・フランクがアムステルダムの隠れ家を訪れ、協力者のクラーレルとミープに再会し、アンネが綴った日記を手に取る。
回想シーンからアンネが登場。
早々にアムステルダムの隠れ家にフランク家4人、ダーン家3人が入る。
さらに歯科医のデュッセルが加わり、計8人。
2階が事務所、1階が工場というレイアウトで、平日の5時になると行員が帰る。
それまでは音を出すわけにはいかない。
密告が暗躍するナチス支配下の世界だ。
このサスペンスの作りが上手い。
階下に泥棒が入るシーンがあり、その時は必死で8人が固まる。
この窮屈な生活が2年にも及ぶ。
アンネは日記をしたためることで、精神のバランスを取る。
映画も硬軟のバランスで、長丁場をひっぱっていく。
ユダヤ教の宗教儀式ハヌカの心温まるシーンは、追い詰められる8人の一時の解放でもあった。
また、思春期のアンネがダーン家のペーターに想いを寄せるようになるのだが、観客は運命を知っているわけで、キスの意味もひとしおとなる。
第二次大戦の悲劇なので、当然モノクロームが似合うが、シャープな陰影で、動きの少ない室内劇をカバーしている。特に、ラストの警備隊が侵入する寸前、屋根裏部屋の8人の恐怖のたたずまいは凄い。
音が乱暴に侵入する中、8人は凍りつく。
シネマ・スコープのサイズに完璧な8人の構図に舌を巻いた。
ヒットラーという狂人がドイツを大量殺人国家に変貌させ、欧州全体を恐怖の世界に陥れた。
その罪は地球より重いのではなかろうか。
政治の怖さを感じさせる映画でもある。
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