「八月の鯨」
(原題:The Whales of August)
1987年8月19日公開。
小さな島のサマー・ハウスで夏を送る老姉妹の日常生活を描く。
受賞歴:
87年カンヌ国際映画祭特別賞(リリアン・ギッシュ)。
脚本:デイヴィッド・ベリー
監督:リンゼイ・アンダーソン
キャスト:
- サラ・ウェッバー:リリアン・ギッシュ
- リビー・ストロング:ベティ・デイヴィス
- ミスター・マラノフ:ヴィンセント・プライス
- ティシャ:アン・サザーン
- 大工のジョシュア:ハリー・ケリー・ジュニア
- ベックウィズ氏:フランク・グライムズ
あらすじ:
サラ(リリアン・ギッシュ)とリビー(ベティ・デイヴィス)の姉妹は60年来、夏ごとにメイン川の小さな島にあるサラの別荘にやって来る。
そこの入江には8月になると鯨が来る。
少女の頃、彼女たちはよく鯨を見に駆けていったものだった。
しかし、それも遠い昔のことになった。
リビーは、第1次世界大戦でサラの若い夫が死んだ時、彼女の面倒をみた。
しかしリビーは病のため目が不自由になり、今度はサラが2人の人生の責任を持つようになる。
リビーはわがままになり、言葉にとげを持つようになっていた。
他人に依存しなければ生きてゆけない自分に腹を立てていた。
彼女たちの家には、幼馴染みのティシャ(アン・サザーン)や修理工のヨシュア(ハリー・ケイリー・ジュニア)、近くに住むロシア移民のマラノフ氏(ヴィンセント・プライス)らが訪ねてくるがリビーは無関心を装う。
ある日、サラはマラノフ氏を夕食に招待した。
リビーとのいさかいで、料理はちょっと失敗だったが、お互いの昔話に2人は時がたつのを忘れた。
だがマラノフ氏は、リビーのとげのある言葉に傷ついて腰をあげる。
サラは姉のことを詫び、「貴方は1人かも知れないけれど、自由でうらやましいわ」と言うと、貴方はロマンチストだと笑って、マラノフ氏は帰っていった。
リビーは何よりもサラが去って一人ぼっちになることを恐れていたのだ。
やがて彼女はヨシュアが勧めていた、大きな窓を別荘の居間の壁に取り付けることを認めることで自分の思いをサラに届けようとした。
そして再び鯨を見ることを夢見ながらの彼女たちの暮らしは続いていった…。
コメント:
往年の米国名女優であるリリアン・ギッシュとベティ・デイヴィスの共演作品。
撮影当時、リリアン・ギッシュは93歳、ベティ・デイヴィスは79歳であった。
舞台となっているのは、米国の最北東に位置するメイン川に存在する小さな島。
そこで暮らしている老姉妹の物語を名優二人が演じて、大評判になった作品である。
二大女優が晩年になって共演した奇跡のような映画。
長き人生の夕映えのような美しさを湛えた映像に何とも言えない詩情が漂っている。
離島のそれも岬の突端のような場所にポツンと建つ一軒屋で暮らす老姉妹というのも、ほとんどファンタジーの世界である。
そこでポツリポツリと語られる会話からふたりのこれまでの来し方が浮かび上がる。
映画は少女時代の彼女たちが鯨ではしゃぐシーンで始まる。
セピア調の色合いで紹介されることで遠い昔の回想シーンであることがわかる。
それから長い刻を経た今、姉セーラと妹リビーの関係はギクシャクとしたものになっている。
その間に挟まった二度の戦争が彼女たちから持ち前の明るさを奪ってしまったと言えないこともない。
姉妹はともに連れ合いを亡くしていて、いまや目の不自由なリビーをセーラが面倒をみているという状況。
妹のわがままに振り回される姉のセーラがなんとも可哀想に見える。
だが、妹の苛立ちもよくわかる。
妹リビーは厄介にならざるを得ない自分に苛立ち、それが人に辛くあたる性格へと歪ませているのだ。
歳を取れば丸くなるというのも嘘で、むしろ頑なに凝り固まってしまうことの方が多いような気がする。
だからか、この不機嫌な老人という設定のリビーに妙なリアリティを感じる。
彼女以外はみな人の良さそうな年寄りばかりなのだが。
シニア映画も数多いけれど登場するのが皆年寄りばかりというのも珍しい。
これでは若者らとの対比を描くことができない。
でもその代わりに年寄りたちの密な関係をじっくりと描くことができている。
彼らを訪れる者たちは皆、リビーの態度に顔を曇らせているけれど、セーラの結婚記念日にリビーが見た夢がきっかけになったのか、この家に大きな飾り窓をつけることに同意する。
自分には関係のない窓ではあるけど、姉のことを思った決断だったのだろう。
その窓から鯨を見ることができるかもしれない。
ふたりにとって鯨は平和の象徴、あるいは若かりし頃への憧憬なのかもしれない。
米国の老人たちを象徴しているような味わい深い作品になっている。
リリアン・ギッシュ(Lillian Gish、1893年10月14日 - 1993年2月27日)は、アメリカ合衆国の女優、映画監督である。
サイレント映画時代を代表する映画スターであり、映画女優としてのキャリアは75年間に及ぶ。
D・W・グリフィス監督作品で清純可憐な役柄を演じたことで知られ、「アメリカ映画のファーストレディ(The first Lady of American cinema)」と呼ばれた。
1999年には、AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)が選出した「最も偉大な女優50選」で第17位に選出された。
ベティ・デイヴィス(Bette Davis, 1908年4月5日 - 1989年10月6日)は、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ローウェル出身の女優である。本名:ルース・エリザベス・デイヴィス(Ruth Elizabeth Davis)。
当時79歳だった。
キャサリン・ヘプバーンと並ぶ、ハリウッド映画史上屈指の演技派女優で、尊敬をこめて「フィルムのファースト・レディ」と呼ばれた。
AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)は、1977年に女性として初の生涯功労賞を授与し、そしてまた1999年に「最も偉大な女優50人」の第2位に選出している。
老人になった女優がそのままの容姿で自然な演技をする映画だ。
こういう作品がしっかり評価される米国の映画界は尊敬に値する。
日本とはちがうようだ。
ハリウッドが、世界の映画界を牽引し続けるだけのことはある。
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