「あの胸にもういちど」
(原題: La Motocyclette)
1968年6月21日公開。
不倫の道を走る女性との愛を演じるドロンの色気が光る!
原作:アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ『オートバイ』
脚本:ジャック・カーディフ、ロナルド・ダンカン
監督:ジャック・カーディフ
キャスト:
レベッカ:マリアンヌ・フェイスフル
ダニエル:アラン・ドロン
レイモン:ロジャー・マットン
あらすじ:
朝、小鳥のさえずりは聞えているが、まだ完全には明け切っていない。
軽い寝息をたてている夫レイモン(ロジャー・マットン)の傍を離れると、レベッカ(M・フェイスフル)は黒皮のレーサー服に裸身をすべりこませ、部屋を出た。
裏庭の車庫から、ディオニソスと名づけた1200CCのオートバイを引きだすと、ハイデルベルクへ向けて出発した。
ハイデルベルクには、恋人ダニエル(A・ドロン)がいる。
四ヵ月前、レベッカはレイモンとの婚約旅行のスキーの宿でダニエルをみた。
ダニエルは、レベッカの父が経営する本屋に、しばしばあらわれる大学の教師だった。
その夜、レイモンはレベッカの部屋に入ってきたが、寝入ったふりをしていた彼女に、軽い口づけをしただけで立去って行った。そしてしばらくして、バルコニーから一人の男が入ってきた。
レベッカはその男に抱かれた。
彼女は、その男がダニエルであることを知っていた。
旅行から帰ってから、ダニエルは再びオートバイを駆って来た。
父親の許可を得て、レベッカを連れだすと、田舎のホテルの一室で彼女を抱いた。
その帰り、彼女はオートバイの乗り方をダニエルに教わった。
その時から、彼女はオートバイに魅せられた。
数日後、レベッカはレイモンと結婚した。
その時、ダニエルはディオニソス号を彼女に贈った。
彼女は、そのディオニソスを駆って、今、ダニエルに会いに行こうとしている。
彼女は想像する。
数分後にダニエルに抱かれている自分を。
が、その瞬間、大型のトラックがオートバイもろとも彼女をはねとばした。
一瞬、レベッカの身体は、空中にとんだ。
コメント:
恋人の元にバイクを走らせる若い女の深層心理を、実験的な映像で描き出した異色作。
さすが、監督ジャック・カーディフが撮影のエキスパートだけのことはある。
アバンギャルドで、60年代っぽく楽しめる。
話は、他の男とやりたい女の一大妄想と至ってチープだ。
浮気の題材は他にもあるが、マリアンヌ・フェイスフルの小悪魔的な存在と監督ジャック・カーディフの原色を使った映像や独特のカメラアングルも堪能できる。
マリアンヌ・フェイスフルと言えば、不倫の代名詞とも云われた当時最大のゴシップの対象だった。
当時まだ夫と別れていなかった時から、ローリングストーンズのミック・ジャガーと熱愛関係にあったのだ。
それを考えれば、ドロン扮する大学講師ダニエルを想う愛あふれる演技も全く嘘ではないわけである。
まぁ撮影中ミックが来訪していたわけで、実際は立場が逆だが・・。
マリアンヌ・フェイスフルは、ロンドン生まれのイギリス人。
幼いころに両親が離婚し、マリアンヌは修道院で育つことになる。
そして、17歳の時に美術商・ジョン・ダンバーと結婚する。
だが、ダンバーとローリング・ストーンズの当時のマネージャーアンドリュー・ルーグ・オールダムがちょうど知り合いであったがため、パーティに出席したのをきっかけに芸能界に入り、彼女のために用意された曲「涙あふれて (As Tears Go By)」で、1964年にデビューすることになる。
その後、ポップ・アイドルとしての地位を確立し、その歌声と美貌で人気を博した。
さらにジャン=リュック・ゴダールに見出され映画デビューも果たす。
その後、66年にダンバーと離婚し、本格的にストーンズのミック・ジャガーの恋人になった。
1966年から70年までミック・ジャガーと交際していたが、流産と精神不安定から自殺未遂も繰り返したという。
ドラッグに手を出すマリアンヌを見かねたミックは、麻薬をやめさせようとしたがうまくいかず、結局ふたりは1970年に破局。
彼女はデビューから数年間はエンジェル・ボイスと言われてきたが、1969年の「シスター・モルヒネ」で、綺麗な歌声から変化が見られた。
声を潰した原因はマリアンヌの流産とミックとの破局、その後のドラッグ、自殺未遂、アルコール、タバコでハスキーの声が出来上がったという。
その後、彼女は目立った活躍がなかったが、1979年にはアイルランド・レーベルからアルバム『ブロークン・イングリッシュ』をリリースし、歌手として第一線に復活。
アルバム制作に平行して、ライブ活動も精力的に行った。
そのライブ映像がこちら:
凄い迫力だ!
90年代以降は女優としての活動が見られる。
2006年に映画『マリー・アントワネット』でマリア・テレジアとして出演。2007年には61歳で映画『やわらかい手』の主役、マギーを演じた。
2020年4月6日、新型コロナウイルスに感染し、ロンドン市内の病院に入院したことが明らかになった。
4月22日に退院。
いまだに健在なようで、現在76歳。
この映画の極め付きは、なんといっても、マリアンヌ・フェイスフルが全裸に皮のライダースーツでバイクに乗るシーンだ。
日本でも、鈴木則文監督や井筒和幸監督らがこの映画でのフェイスフルに強い印象を受けたことを語っており、裸に皮のジャンプスーツを着るフェイスフルこそ峰不二子の原型だと言われている。
共演したアラン・ドロン自身は、本作を汚点としていたようだ。
配役がカッコよくなく、ヒロインに人気が集中しすぎたからかも知れない。
それはそうだ。
アラン・ドロンが好きなのは、彼自身だったのだから。