「壬生義士伝」
2003年1月18日公開。
浅田次郎の同名小説を映画化。
幕末に生きた名も無き武士を描いた時代劇。
興行収入:6億円。
第15回東京国際映画祭特別招待作品。
芸術文化振興基金助成事業作品。
受賞歴:
- 2004年・第27回日本アカデミー賞
- 最優秀作品賞
- 最優秀主演男優賞(吉村貫一郎:中井貴一)
- 最優秀助演男優賞(斎藤一:佐藤浩市)
- 優秀監督賞
- 優秀助演男優賞(大野次郎右衛門:三宅裕司)
- 優秀助演女優賞(ぬい:中谷美紀)
原作: 浅田次郎「壬生義士伝」
脚本: 中島丈博
監督: 滝田洋二郎。
キャスト:
- 吉村貫一郎:中井貴一(少年期:山内翼)
- 斎藤一:佐藤浩市
- しづ・大野みつ:夏川結衣(少女期:大平奈津美・幼女期:中山桃)
- ぬい:中谷美紀
- 佐助:山田辰夫
- 大野次郎右衛門:三宅裕司(少年期:椿直)
- 近藤勇:塩見三省
- 土方歳三:野村祐人
- 沖田総司:堺雅人
- 伊東甲子太郎:斎藤歩
- 永倉新八:比留間由哲
- 谷三十郎:神田山陽
- 篠原泰之進:堀部圭亮
- 大久保利通:津田寛治
- 近藤周平:加瀬亮
- 大野千秋:村田雄浩(青年期:伊藤淳史)
- 吉村嘉一郎:藤間宇宙
- 徳川慶喜:伊藤英明
- 園山七三郎:塚本耕司
- 写真屋:木下ほうか
- 門番・定吉:徳井優
- 鍵屋手代:螢雪次朗
- 大野藍之丞:芦屋小雁
あらすじ:
明治三十二年、東京市。
冬のある夜、大野医院に病気の孫を連れてやってきた老人・斎藤一は、新選組で一緒に戦った隊士・吉村貫一郎の写真を見つける。
盛岡の南部藩出身の貫一郎は、純朴な外見に似合わない剣術の達人であった。
その一方で名誉を重んじ死を恐れない武士の世界に身を置きながら、生き残ることを熱望し、金銭を得るために戦った男でもあった。
全ては、故郷で貧困に喘ぐ家族のためであった。
脱藩してまで新選組に入隊した彼は、金を稼ぎ、愛する家族のために生き残る必要があったのだ。
斎藤はそんな貫一郎を嫌ったが、反面、一目置くところもあった。
時が過ぎて、大政奉還。
一転して賊軍となった新選組は、官軍の制圧に遭い壊滅状態に陥った。
しかし、貫一郎だけは脱藩で裏切った義を二度と裏切れないと、たったひとりで最後まで戦い抜いた。
そして、傷ついた彼は大阪蔵屋敷の差配役となっていた幼なじみの大野次郎右衛門の情けで、官軍に引き渡されることなく、故郷を想いながら切腹したのだった。
ずっと気になっていた貫一郎の最期の様子を、思いもかけず、次郎右衛門の息子・大野千秋から聞くことが出来た斎藤。
彼は、貫一郎の娘で今は千秋の妻となった小児科医・みつの診断を終えた孫を連れ、夜の道を帰っていった。
コメント:
原作は、浅田次郎の長編時代小説「壬生義士伝」。
『週刊文春』に1998年9月3日号から2000年3月30日号まで掲載され、文藝春秋より上下巻で2000年に単行本化、2002年に文庫化された。
幕末の慶応4年1月。鳥羽・伏見の戦いの大勢は決し、幕軍は潰走を始めていた。
そんな中、大坂の盛岡藩蔵屋敷に満身創痍の一人の侍が紛れ込む。
この侍は吉村貫一郎。
新選組の隊士だと名乗る。
下級武士として生まれ、貧困にあえぐ家族を救う為に妻子を残して盛岡藩を脱藩し、新選組の隊士となった貫一郎。
彼は、朴訥な人柄でありながらも北辰一刀流免許皆伝の腕前を持ち、守銭奴と蔑まれながらも、家族を養う金を得るため危険な任務も厭わず人を斬り続ける。
しかし時代の流れには逆らえず、新選組は鳥羽伏見の戦いで敗走。
隊士達が散り散りとなる中、深手を負った貫一郎は何としても故郷への帰藩を請うべく、大坂の南部藩蔵屋敷へと向かうのだが、吉村に対し、蔵屋敷差配役であり吉村の旧友であった大野次郎右衛門は彼に切腹を命じる。
時は流れ、大正4年。
北海道出身の記者が、吉村を知る人々から聞き取り調査を行っていた。彼らによって明かされた彼の生涯とは・・・
小説はこんな流れになっている。
新選組関連の映画は数あれど、ほとんど近藤勇、土方歳三、沖田総司など有名人が主役となることが多い。
本作は、歴史上ほとんど名を知られていない一脱藩武士を取り上げているところがユニークだ。
しかも、剣術の腕前では新選組隋一と言われた斉藤一に一目置かせたほどの剣の達人ときている。
さて、タイトルの「壬生義士伝」とはどういう意味か。
壬生(みぶ)とは、京都市中京区の南西部に位置する地域の地名である。
栃木県にも同じ「壬生」という名前の町があるが、無関係だ。
新選組は、隊員数は、前身である壬生浪士組24名から発足し、新選組の最盛時には200名を超えたとされる。
壬生浪士組とは、新選組の前身の浪士による集団で、清河八郎が京へ率いた浪士組を壬生にある新徳寺に代表を集め、尊皇攘夷を目的とする策略を演説したことからその名がついた。
清河八郎とは、幕末の庄内藩出身の志士。
九州遊説をして尊王攘夷派の志士を京都に呼び寄せるが、一方で江戸幕府を守護する浪士組を結成して新選組への流れを作り、自らも虎尾の会を率いて明治維新の火付け役となった。
勤王派を最初は名乗りながら、のちに佐幕派に転じた不届き者と評価されている。
新選組の構成員の一人として、以下のように名前が記録されており、実在の人物ではあることはまず間違いない。
筆頭局長
- 芹沢鴨
局長
- 近藤勇
- 新見錦
会津新選組局長
- 斎藤一
箱館新選組局長
- 土方歳三
- 大野右仲
- 相馬主計
総長
- 山南敬助
参謀
- 伊東甲子太郎
副局長
- 土方歳三
組長・組頭・副長助勤
- 一番隊組長 沖田総司
- 二番隊組長 永倉新八
- 三番隊組長 斎藤一
- 四番隊組長 松原忠司
- 五番隊組長 武田観柳斎
- 六番隊組長 井上源三郎
- 七番隊組長 谷三十郎
- 八番隊組長 藤堂平助
- 九番隊組長 鈴木三樹三郎
- 十番隊組長 原田左之助
~1864年編成時組頭~
- 二番隊組頭 伊東甲子太郎
- 五番隊組頭 尾形俊太郎
諸士取調役兼監察方・浪士調役
[編集]
- 山崎丞
- 島田魁
- 川島勝司
- 林信太郎
- 浅野薫(藤太郎)
- 篠原泰之進
- 服部武雄
- 芦屋昇
- 吉村貫一郎
- 尾形俊太郎
- 大石鍬次郎
- 安富才助
- 岸島芳太郎
- 安藤勇次郎
- 茨木司
- 村上清
- 谷周平(近藤周平)
- 近藤隼雄
これ以外にも新選組隊員はいたようだが、掲載は割愛する。
吉村貫一郎という人物については、子母澤寛の『新選組物語』「隊士絶命記」による創作が元になっている。
子母澤の描く吉村の姿は以下の通りである。
三十七、八歳。痩せ形で背が高く、左の目の下に小さな傷跡があった。
おとなしい性格だが、学問があり、剣術も使えた。
特に書をよくした。
盛岡藩出身の微録の扶持取りで、漆掻などをして妻子五人を養っていたが、どうしても食えないので妻と相談の上、文久2年に脱藩し、単身で大坂に出た。
その後も仕送りは続けていた。翌年に新選組が京大坂で隊士の募集を行ったのを聞きつけて、応募した。
見廻組並に選ばれた時、土方より三十俵二人扶持を頂き、うれし泣きした。
新選組が伏見奉行所に引き移る際に貰った百両を妻子に届けた。
鳥羽・伏見の戦いの後、味方にはぐれ、新選組が大坂を離れている事を知った吉村は網島の盛岡藩仮屋敷に身を投じ、留守居役の大野次郎右衛門を前にして、勤王のために奉公したいと言うが、結局は妻子を養ってくれる俸禄が欲しいだけであり、妻子に忠義を尽すのだと吐露する。
大野は、君は武士の魂をもっていない、南部武士にこのような人がいるのは、わが藩末代までの恥だと言って、外に出ればすぐ縄目が掛かるからと、切腹するように仕向けたので、吉村は屋敷内で腹を切った。
その部屋の床の間には、小刀と二分金十枚ばかりの包みが置いてあり、傍らの壁には「此弍品拙者家へ……」と記してあった、という。
後に、水木しげると浅田次郎は上記子母澤の創作を下敷きにして吉村を主役とした作品を発表した。
水木は漫画『幕末の親父』、浅田は歴史小説『壬生義士伝』を執筆した。
ただし、大野次郎右衛門なる人物は架空の人物であり、実際の吉村は二百石という高禄の侍の倅だった。
年齢も大きく異なっており、脱藩年も合わず、妻子も確認できないという。
浅田次郎の小説では、重傷を負った主人公が、幼なじみの大野次郎右衛門の情けで、官軍に引き渡されることなく、故郷を想いながら切腹するという、美しい武士の最期を描いていて気持ちが良い。
映画は、浅田次郎の小説をベースにしている。
なんとしても生き抜いて、金を稼ぐことを最優先とした吉村貫一郎を中井貴一が飄々と演じている。
佐藤浩市との対立、対比の演出は観ていて面白い。
佐藤浩市、中井貴一といった面子が揃うと画面が引き締まるところはさすがである。
中井貴一にとって一世一代の入魂の一作である。
浅田次郎原作映画といえば、「ラブ・レター」でも中井貴一が熱演しているが、代表作はやはりこの作品が随一だ。
中井貴一の渾身の熱演が光る、中井貴一にとって最高の作品といってよい。
ツボを押さえた、いつまでも心に残る映画となっている。
独特の東北弁も板についている。
狂言回しの一人として登場する佐藤浩市も気合充分。
見応えのある殺陣のシーンも、セリフも素晴らしい。
特に、雨の中で中井貴一と斬り合う壮絶なシーンは凄まじい。
オープニングに出てくる斎藤一を演じる佐藤浩市の年老いた様子も良い。
佐藤浩市らしいぶっ飛んだ新選組の義士の姿もカッコいいが、老人の芝居もなかなかグッとくる。
この役者も、ついに父・三國連太郎のレベルに到達した。
浅田次郎の映画化作品の中では、「鉄道員(ぽっぽや)」に次ぐ、秀作であることは間違いない。
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