「聖衣」
(原題:The Robe)
1953年9月13日公開。
キリストの衣にまつわる逸話を映画化。
興行収入:36百万米ドル。
脚本:フィリップ・ダン、アルバート・マルツ、ジナ・カウス
監督:ヘンリー・コスター
キャスト:
マーセラス・ ギャリオ:リチャード・バートン
キャリグラ:ジェイ・ロビンスン
デミトリアス:ヴィクター・マチュア
ダイアナ姫:ジーン・シモンズ
サイモン:マイケル・レニー
あらすじ
西暦30年頃。
タイベリアス皇帝治下のローマ。
若い貴族の護民官マーセラス・ ギャリオ(リチャード・バートン)は、帝位をつぐことになっていたキャリグラ(ジェイ・ロビンスン)と競って、奴隷デミトリアス(ヴィクター・マチュア)を買い取るが、そのためキャリグラの恨みを買って、エルサレムへ左遷された。
マーセラスの好意で自由の身となったデミトリアスもエルサレム行きを共にした。
マーセラスの最初の仕事は、神の子と自称するイエス・キリストを捕まえ、はりつけにすることであったが、イエスを本当の救世主と信じるデミトリアスは、イエスを守った。
しかしイエスはジュダスの裏切りで遂に処刑された。
マーセラスは良心のとがめを感じ、酒の酔いにまぎれて同僚とサイコロ遊びに興じ、イエスがまとっていた聖衣を手に入れた。
マーセラスがその聖衣をまとおうとすると、彼は突然うちのめされたように倒れ、衣を投げすてた。
デミトリアスはその衣を拾い、主人を捨ててイエスへの帰依を誓った。
マーセラスは、それ以来心の平静を失い、役目をとかれてローマに帰り、幼馴染のダイアナ姫(ジーン・シモンズ)の愛情に心のおちつきを得た。
だがキャリグラはダイアナ姫を自分の正妻にしたいと望んでいた。
タイベリアス皇帝は、マーセラスのイエスが真の救世主であるかどうか調査を命じた。
マーセラスはガラリア地方に赴き、そこでイエスの教えを説くピーターと呼ばれる漁夫サイモン(マイケル・レニー)と語らい、デミトリアスとも再会した。
マーセラスはすっかりイエスの教えに心服し、ローマへ帰るが、すでにタイベリアス皇帝は亡くなり、キャリグラが即位していた。
キャリグラはキリスト教の弾圧を行い、まずデミトリアスを捕えて拷問にかけ、マーセラスの居所を知ろうとした。
マーセラスはデミトリアスを救い出したが、自らは捕らえられ、反逆罪に問われた。
彼は信仰をあくまでもすてず、ダイアナ姫も彼に従った。
2人は殉教者として死を選び、安らかな心で刑場へひかれて行った。
コメント
本作は 1953 年のアメリカの架空の聖書叙事詩映画である。
イエスの磔刑に責任のある部隊を指揮するローマ軍の護民官の物語を描いている。
シネマスコープ第1作として公開された本作は、見世物志向の強かった当時の大型スクリーン映画の中、ごく珍しい本格劇映画でもあり、1953年の全米興行成績で1位をとるなど大ヒットを記録し、同年のアカデミー賞でも美術、衣装の2部門を受賞するなど、一定の評価を得た。
シネマスコープシステム自体も、専用の映写設備が必要なシネラマや立体映画に比べ映写機の改造が容易なこともあり(基本的にはアナモルフィックレンズと横長のスクリーン、シネマスコープ用磁気サウンドトラックの再生装置と4chサラウンド・スピーカーを導入するだけで良かった)、一気に全米に普及、やがて大型スクリーンの代名詞となった。
タイトルの「聖衣」とは、キリストの体を包んだ衣とされている毛布である。
ニューヨーク・デイリー・ミラー紙は、シネマスコープを「映画制作芸術の新しい現実的かつ驚異的な概念」と呼んだ。
ニューヨーク・デイリー・ニュースは、8-スターレビュー(映画に4つ星、シネマスコープに4つ星)では、タイトル『聖衣』の後に「平面スクリーンに映されるどんな映像も…退屈に見えるだろう」としている。
バラエティー紙は「これはあらゆる意味で『大きな』映像だ。アナモルフィック技術の下で次々と壮大なシーンが映し出され、カルバリのキリストの時代のローマの素晴らしさとエルサレムの激動が明らかになった」と書いた。
ニューヨーク・タイムズは、より批判的で、「このキリスト教改宗の物語の人間ドラマは、豪華で風光明媚な環境の中で起こり、見るのは非常に印象的である。しかし、環境の力強さ、つまり舞台設定と光景の壮絶さは、衣装は、語られている物語との関連でのみ意味を持ち、この場合の物語は壮観なものではないため、周囲の広がりによってその範囲が広がることはない」と述べた。
ロサンゼルス・タイムズ紙は、「この映画はユニークで、深く精神的で、畏敬の念を抱かせる類のもの」であると述べた。
ハリソンズ・レポートはこの映画を「素晴らしい!」と呼び、「たとえ従来の 2-D 形式で制作されていたとしても、ロイド・C・ダグラスの映画は素晴らしいものであった」と続けた。
「古代ローマ時代のキリスト教の誕生を描いた力強い小説だから素晴らしい映画になっているが、革新的なシネマスコープのプロセスで制作されたことで、この作品は優れた劇的な成果としてだけでなく、観客をさらに感動させるスペクタクルとしても浮かび上がっている。圧倒的だ。」
この映画は、架空の物語ではあるが、キリストという人間が生まれて、その信仰をローマ帝国が引き継ぎ、世界に布教したという厳然とした歴史を認識させるものだ。
本作は、西洋史における重大事件「キリスト教のローマ帝国での国教化」の裏にはこんな信仰心も存在したのかも知れないことを示唆しているのだ。
この映画は、Amazon Primeで動画配信可能: