「何がジェーンに起ったか?」
(原題:What Ever Happened to Baby Jane?)
1962年10月31日公開。
往年の大女優であるベティ・デイヴィスとジョーン・クロフォードの競演。
興行収入:9.0百万米ドル。
脚本:ルーカス・ヘラー
監督:ロバート・アルドリッチ
キャスト:
- ジェーン・ハドソン - ベティ・デイヴィス - かつての子役スター。
- ブランチ・ハドソン - ジョーン・クロフォード - かつての映画スター。ジェーンの姉。
- エドウィン・フラッグ - ヴィクター・ブオノ - 太った売れないピアニスト。
- エルヴァイラ・スティット - メイディ・ノーマン - ハドソン家の家政婦。
- ベイツ夫人 - アンナ・リー - ハドソン家の隣人。ブランチのファン。
- デリラ・フラッグ - マージョリー・ベネット - エドウィンの母。子離れできない。
あらすじ:
1917年のこと、ジェーン・ハドソン(ベティ・デイヴィス)はわずか6歳にして、すでに人気子役であった。
ヴォードヴィルの舞台に立って愛らしい姿と歌で客を楽しませる「ベイビー・ジェーン」として喝采を浴びていたのだ。
しかし、その輝くような舞台を羨望と嫉妬で見る目があった。
姉のブランチ(ジョーン・クロフォード)である。
ジェーンは舞台上だけでなく、常に父親から特別な扱いを受けるが、ブランチは公私にわたって妹の影に隠れ、誰にも省みられない。
しかし大人になったころ、ジェーンとブランチの立場は大きく変わっていった。
映画の時代になると、ブランチは実力派の女優としての評価を得るが、ジェーンの人気は遠い過去のものとなり、俳優としても能力が無く、素行にも問題があるとされて仕事から外されていくようになったのだ。
大スターの姉と、仕事もなく酒びたりの妹、二人の立場は完全に逆転していた。
そんなころ、嫉妬にとらわれた姉妹の間に痛ましい自動車事故が起きた。この事故はジェーンが嫉妬にかられブランチを轢き殺そうとしたと報じられた。間一髪で難を逃れたブランチではあったが、この事故で背骨に重い損傷を受け下半身不随となり、ジェーンはその責めを負うかたちで姉の面倒を見ることになった。
こうして表舞台から消え、二人だけの世界で暮らし始めた姉妹だったが、老境を迎えても姉に対するジェーンの呪詛は消えず、ジェーンは姉の人生を支配する、醜く陰湿な暴君へと変貌していく。
ジェーンは姉のサインや声色を装って財産を奪いつつ、ブランチの可愛がっていた小鳥を昼食として出したのを皮切りに、ファンレターを遺棄したり電話を使わせないようにしたりネズミを食事に出すなどして、ブランチを精神的に追いつめる。
そして、ジェーンの留守中にブランチが隠れて隣家や医者に助けを求めたことからジェーンの怒りが爆発し、ブランチを縛って部屋に監禁する。それに気付いた家政婦のエルヴァイラ(メイディ・ノーマン)をジェーンは殺害し、遺棄してしまう。
芸能界への復帰という妄想を抱き始めていたジェーンは、売れないピアニストのエドウィン(ヴィクター・ブオノ)を雇っていたが、その彼もブランチの惨状を知るところとなる。
追いつめられたジェーンは瀕死のブランチを連れて車で逃げ出す。
エルヴァイラの死体が見つかり、ジェーンがブランチ共々行方不明になっていることが新聞やラジオで報道される。
そのころ、ジェーンは海辺で子供のように遊んでいた。
そこでブランチは息も絶え絶えに、かつての自動車事故の真相をジェーンに語る。
実は、あの事故はブランチがパーティでジェーンにバカにされたことからジェーンを轢き殺そうとしたもので、ジェーンは咄嗟によけて無傷だったがブランチの運転していた車は柱に激突し、そのために下半身が不随となったのである。
ジェーンは恐怖から咄嗟に逃げ出し、ブランチは車から這い出たところを発見されたため、ジェーンが犯人と目され、ブランチは酔っていたジェーンに事故当時の記憶がないのをいいことに、この事故をジェーンが起こしたものとしていたのだった。
ブランチがジェーンに詫びると、ジェーンは穏やかな表情で「アイスクリームを買ってあげる」と言って売店に向かう。
その帰りに警官に見つかったジェーンは、自分を取り囲む人々を前に子供の頃のように軽やかに踊りだす。
警官は瀕死のブランチをようやく見つける。
コメント:
見所のひとつは、ベティ・デイヴィス(54歳)とジョーン・クロフォード(58歳)の演技合戦である。
「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラ役を断ったベティ・デイヴィスは、同世代のスター女優のジョーン・クロフォードが大嫌いであった。
なのに何で共演したのだろうか。
ライバルに対する執念か。
直接対決することによって、自分の演技が相手より遥かに優れていることを見せつけて、ライバルに「あんたなんか大根よ」と優位に立ちたいということか。
デイヴィス「元淑女」(1933年・25歳)と、クロフォード「蛍の光」(1934年・30歳)の若き日の主演作が挿入される。
この映画は、当時のハリウッドの往年人気女優を知っている人なら、夢中になってこの二人の演技に酔うことだろう。
AFIが1999年に選んだトップ俳優100人(男優・女優各50人)のトップ10に選ばれているのがこの二人なのだ。
ベティ・デイヴィスは第2位、ジョーン・クロフォードは第10位である。
詳細はこちらをご覧あれ:
日本では二人ともそれほど人気があるわけではないが、米国という国では、単にきれいでおしとやかで可愛い女優なら人気が高いわけではない。
オードリー・ヘプバーンやマリリン・モンローが一番人気があったはずと日本人は思うだろうが、このリストでは、3位と6位でしかないのだ。
美しい女性を観るのが映画の目的だった日本とはだいぶ違うことが分かる。
そういう観点からこの『何がジェーンに起ったか?』を観てみると、子役時代にトップを極めた妹(ベティ・デイヴィス)と、大人になって逆転して大人気女優となった姉(ジョーン・クロフォード)との確執が驚くべきストーリーで描かれており、それを二人の女優がこれでもかというぶっ飛んだ演技で観客に見せつけている事がわかってくるのだ。
こういう演技を思い切りやってのけるハリウッドの世界の凄まじさには恐れ入る。
だが、大スター2人の競演ではあるけど、最後はベティ・デイヴィスに完全に飲み込まれてしまっているクロフォード。
彼女の真似をして電話にでたり、筆跡をまねて小切手を切ったり、蹴飛ばしたかと思えば、優しくして助けを懇願する。
驚くほど強烈なキャラクターを存分に演じているのだ。
ヒロインを演じるベティ・デイヴィスの百面相には驚かされる。
この人は、当時54歳。
すでにオスカーで2度、カンヌで1度、主演女優賞を獲得していたが、そんな事には関係なく、この落ちぶれて哀れな妹役をとことんやり切っているのだ。
これぞ、正真正銘の大女優である。
クライマックスは、ラストシーンで、多くの野次馬の中で踊る彼女の狂ったような姿だ。
子供時代の栄光に憑りつかれた彼女が、周囲を観客に思い込んで踊りまくる。
その薄気味悪い笑みと言ったら…。
これほど年をとっても、存在感を増してくる彼女のエネルギーには度肝を抜かれる。
オスカー女優の本領発揮により、素晴らしいホラー・サスペンス作品になっている。
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