「独裁者」
(別名:「チャップリンの独裁者」)
(原題:The Great Dictator)
1940年10月15日公開。
独裁者ヒットラーを皮肉った戦争コメディ。
興行収入:$5,000,000。
監督・脚本:チャールズ・チャップリン
キャスト:
- トメニア国の独裁者アデノイド・ヒンケル、ユダヤ人の床屋:チャールズ・チャップリン
- ハンナ:ポーレット・ゴダード
- バクテリア国の独裁者ベンツィーノ・ナパロニ:ジャック・オーキー
- 内相兼宣伝相ガービッチ:ヘンリー・ダニエル
- シュルツ司令官:レジナルド・ガーディナー
- 戦争相ヘリング元帥:ビリー・ギルバート
- ジェケル:モーリス・モスコヴィッチ
- ジェケル夫人:エマ・ダン
- マン:バーナード・ガーシー
- アガー:ポール・ワイゲル
- ナパロニ夫人:グレイス・ヘイル
- バクテリア国大使:カーター・デ・ヘイヴン
あらすじ:
1918年、第1次世界大戦の末期。
トメニア軍陣地では1兵卒であるユダヤ人の床屋(チャーリー・チャップリン)が奮戦していた。
しかし、敗色は濃く、前線では敗退がつづき、上層部ではひそかに平和交渉が始められていた。
何も知らぬ将兵は勝利を信じて戦った。
トメニア軍の空軍将校シュルツ(レジナルド・ガーディナー)は敵に包囲され、危ないところを床屋に救われた。
傷ついたシュルツを助けて2人はトメニアに命からがら逃げ帰ったが、その時すでに戦争には負けていた。
床屋は戦傷のためすべての記憶を失い、病院に収容された。
数年の年月が流れ、トメニアに政変が起こった。
その結果ヒンケル(チャーリー・チャップリン)という独裁者が現われ、国民の熱狂的な歓迎を受けた。
彼はアーリアン民族の世界制覇を夢み、他民族ことにユダヤ人の迫害を行った。
ユダヤ人街のジャッケル(モーリス・モスコヴィッチ)の家族やハンナ(ポーレット・ゴダート)らは、不安な毎日を送っていた。
床屋は政変のあったのも知らず、このユダヤ人街の自分の店に戻って来ていた。
突撃隊の隊員はユダヤ人街に来ては乱暴した。
ハンナはくやしがった。
臆病者の床屋も彼女と協力して彼等に抵抗した。
ある時、突撃隊に逮捕されかかった床屋を、通りかかった今は突撃隊指揮官になったシュルツが救った。
おかげでユダヤ人街にも平和な日々が戻った。
ヒンケルは自分の独裁政治をかくすため、国民の関心を外に向けようとオスタリッチ進駐を考え、軍資金をユダヤ人財閥に借款を申し入れたが拒絶された。
ユダヤ人迫害が再開された。
シュルツはヒンケルの政策の非を進言し、そのせいで失脚した。
彼はジャッケルの家に隠れていたが、突撃隊に発見され床屋とともに逮捕された。
床屋を慕うハンナは身の危険をさけるためジャッケル氏らとオスタリッチに逃げた。
独裁者ナパロニ(ジャック・オーキー)指揮のバクテリア軍もオスタリッチに侵入した。
ヒンケルはバクテリア軍を撤退させようとナパロニを招き、お互いにオスタリッチの主権を尊重する誓約書に署名させ、撤退に成功し、そのスキに自軍進駐の準備をした。
床屋とシュルツは軍服を盗んで収容所を脱出した。
国境で進駐準備の軍隊がヒンケルと間違え、進軍を開始した。
その頃、ヒンケルは鴨狩中に床屋と間違えられ、警備兵に逮捕された。
数万のヒンケル軍はオスタリッチに到着し、床屋は演説をしなければならなくなった。
壇上に立った床屋は狼狽したが、気持ちを落着けて話しはじめた。
“独裁者の奴隷になるな!民主主義を守れ!”彼の声はしだいに熱をおび自由と平和を守ろうと叫んだ。
それはオスタリッチのハンナたちにも語りかけているようだった。
コメント:
チャップリン扮する瓜二つの二人が間違えられて、立場を入れ替えるという最高のコメディである。
独裁者ヒンケルが国境付近で単身待機していたところ、床屋と間違えて逮捕してしまう。
逆に、床屋は将兵たちによって独裁者ヒンケルに間違えられ、丁重に扱われる。
そして、ヒンケルに代わって、床屋はラジオで一世一代の演説を打つ
それは自由と寛容、人種の壁を越えた融和を訴えるものだった。
演説を終えた床屋は、兵士たちの拍手喝采の中、ハンナに対しても希望を捨てないようラジオを通じて語りかけるのだった。
チャップリンが、当時のドイツ国の指導者で、オーストリア併合やポーランド侵攻、ユダヤ人虐待などを行ったアドルフ・ヒトラーの独裁政治を批判した作品で、近隣諸国に対する軍事侵略を進めるヒトラーとファシズムに対して非常に大胆に非難と風刺をしつつ、ヨーロッパにおけるユダヤ人の苦況をコミカルながらも生々しく描いている。
当時のアメリカはヒトラーが巻き起こした第二次世界大戦とはいまだ無縁であり、平和を享受していたが、この映画はそんなアメリカの世相からかけ離れた内容だった。
またこの作品は、チャップリン映画初の完全トーキー作品として有名であり、さらにチャップリンの作品の中で最も商業的に成功した作品として映画史に記録されている。
アカデミー賞では作品賞、主演男優賞、助演男優賞(ジャック・オーキー)脚本賞、作曲賞(メレディス・ウィルソン)にノミネートされ、ニューヨーク映画批評家協会賞では主演男優賞を授与された。
しかしチャップリンは受賞を拒否している。
また、1997年にアメリカ国立フィルム登録簿に登録された。
「トーキーはパントマイムを破壊する。」としてサイレント映画を撮り続けていたチャップリン。ヒトラーの台頭でヨーロッパに暗雲が垂れ込めていることを危惧してできた映画。
当初、平和が訪れて兵士が躍るというエンディングだったが、それに納得しないチャップリンが取り直したのがこの映画の最後を飾る渾身の演説におけるメッセージ。
誰もが平和が一番であることをわかっているはずなのにいまだに消えることのない戦火。
この国でも近隣の国に対して防衛力の増強が声高に言われている。
70年たって忘れてしまう平和の重み。
「愛国者にはならない。愛国者が戦争を始めるから。」と言ったチャップリンの言葉が深い。
日本初公開は第二次世界大戦の終戦から15年、サンフランシスコ講和条約締結から8年後の1960年であった。
しかし、日本でもヒットし興業収入は1億6800万円を記録、この年の興業収入第4位となった。
同年のキネマ旬報ベストテンでは外国映画の第1位にランキングされた。
また、1973年10月にリバイバル公開された。
この映画は、Amazon Primeで動画配信可能: