谷崎潤一郎の映画 「台所太平記」 女中太平記ともいうべき歴代のお手伝いさんの変遷を描く作品! | 人生・嵐も晴れもあり!

人生・嵐も晴れもあり!

人生はドラマ!
映画、音楽、文学、歴史、毎日の暮らしなどさまざまな分野についての情報やコメントをアップしています。

「台所太平記」

 

豊田四郎監督『台所太平記』 | みつ梅の古今東西かべ新聞

 

1963年6月16日公開。

谷崎潤一郎の女中太平記を映画化、

森繁久弥と淡島千景の共演。

 

原作:谷崎潤一郎「台所太平記」

脚本:八住利雄

監督:豊田四郎

 

キャスト:

  • 千倉磊吉(ちくららいきち):森繁久弥
  • 千倉讃子:淡島千景
  • 初:森光子(特別出演)
  • 百合:団令子
  • 梅:乙羽信子
  • 小夜:淡路恵子
  • 鈴:池内淳子
  • 万里:中尾ミエ
  • 銀:大空真弓
  • 節:水谷良重
  • 駒:京塚昌子
  • 薬屋・花村:山茶花究
  • 呉服屋・新田:西村晃
  • 種村:松村達雄
  • 医師・小島:若宮忠三郎
  • 園田光雄:小沢昭一
  • 光雄の母:飯田蝶子
  • 看護婦長・本山:都家かつ江
  • 種:万代峰子
  • 安吉:フランキー堺(特別出演)
  • 長谷川清造:三木のり平(特別出演)

台所太平記』 - kenboutei's diary

 

あらすじ:

作家の千倉磊吉の家は京都にあった。この京都から伊豆山に移り住んだが、その間、何人ものお手伝さんが変った。

これはそのお手伝さんの行状記である。

初は戦前派の典型的な女中だった。

半農半漁の貧しい家に生まれ、千倉家に来た。初の青春はこの家ですぎてしまい、結婚の経験もなかった。

磊吉夫婦の世話で薬局の主人花村と見合いをしたが、初の姉の口ききで結婚してしまい、磊吉夫婦を失望させた。

梅は初と同郷の酒好きで朗らかな性格だった。

そして漁師である初の弟安吉と結ばれ千倉家を去って行った。

駒は京都の出身で大変なグラマー、ゴリラの真似とフラダンスが大の得意、奉公が勤まらなければ家に帰っても入れてもらえないというので、一心に働いている気だての良い女だった。

初、梅が去った後も駒は長く千倉家に残った。磊吉達は京都から伊豆山へと移った。

鈴は大津の生まれ、中学を出ているせいか勉強家で、磊吉に字を教えてもらっていた。

後に熱海の旅館の番頭と結婚した。

九州から来た百合はいろいろと希望があるらしく、磊吉に頼み、ある映画スターの付人にしてもらった。

それからしばらくして九州の炭坑で働く父が事故で急死したため、九州へと帰っていった。

その別れは、磊吉夫婦にとっても百合にとっても悲しく印象に残るものだった。

入れ代り立ち代り、お手伝さんが千倉家を去来したが、そこにはそれぞれの人生があり、磊吉はその一つ一つの人生に幸あれと祈るのだった。

 

映画「台所太平記」 2010.1.23. : ヒトシーランド写真帳

 

コメント:

 

原作は、谷崎潤一郎の同名長編小説。

1962年(昭和37年)10月28日号から1963年(昭和38年)3月10日号まで『サンデー毎日』に連載された。

単行本は1963年(昭和38年)4月に中央公論社で刊行された。

 

台所太平記(谷崎潤一郎) / 古本配達本舗 / 古本、中古本、古書籍の通販は「日本の古本屋」 / 日本の古本屋

 

戦前の1936年(昭和11年)から戦後の1963年(昭和38年)にかけ、家の台所仕事を担っていた歴代の女中たちの変遷の物語である。

本の文章を読み聞かせるなど一種の徒弟修行の教育的側面もあった彼女らとの主従関係に、『春琴抄』『痴人の愛』などの主題に通底する深層意識も垣間見られる作品で、戦後民主化に伴う封建的な家制度の解体や、失われてゆく存在への共感と哀惜が描かれている。

ある階層の女性たちの生活文化史としても読める作品にもなっている。

 

豊田四郎が谷崎潤一郎の原作を「夫婦善哉」のコンビである森繁久弥と淡島千景の主演で映画化。

その家の女中に、森光子、乙羽信子、京塚昌子、淡路恵子、水谷良重、団令子、池内淳子、大空真弓、中尾ミエ。

豪華な女優の顔ぶれだ。

 

女中の中でも、森光子が演じた「初」という女性がぶっ飛んでいて面白かったようだ。

 

 

森繁久弥が演じている主人公の名前が、「磊吉」となっているのに目が行く。

これは、珍しい名前だ。

「らいきち」と読むようだ。

この「磊」とはどういう意味かとチェックしてみると、「心の大きいさま」をいうようだ。

「豪放磊落」という熟語があるので、合点が行く。

 

 

この小説に出てくる住所がいくつもあるが、最初に主人公たちが最初に所帯を持って、住んでいたというのが、「兵庫県武庫郡住吉村反高林」という住所だったという。

その後、熱海に引っ越し、最後は熱海市伊豆山で落ち着いた。

これは、谷崎自身と同じようだ。

 

調べてみると、「兵庫県武庫郡住吉村反高林」という住所は、正に谷崎潤一郎が50歳から57歳まで住んでいた倚松庵(いしょうあん)と名付けた家の住所なのだ。

 

してみると、これは谷崎本人の経験をもとにした私小説なのだろう。

俄然親しみが湧いてきた。

 

倚松庵(いしょうあん)は谷崎潤一郎が50歳の昭和11年(1936)11月14日から57歳の昭和18年11月まで住んでいた旧宅を1990年に神戸市が移築した。
実際にあった場所は現在地より南で当時の住所は武庫郡住吉村反高林1876-203であった。
倚松庵とは松に寄りかかっている住まいという意味で松子夫人への愛情を表すといわれる。
もともとは神戸の領事館に勤務のベルギー人が1926年に住居用に建てた和洋折衷の建築であったという。

 

この映画は、数年まではいくつかの映画館で上映されていたようだが、最近は情報がない。

YouTubeにも動画のかけらも無い。

DVDも存在しないようだ。

 

だが、原作は今でも人気があるようで、YouTubeには朗読の音声がアップされている:

 

 

とにかく、抱腹絶倒の笑える小話がたっぷり入っていて、実に面白い。

ぜひちょっとだけでもご試聴あれ!

 

いくつか、笑えるポイントが、こちら:

 

1.最初の女中・「初」が、いかにしっかりしていて、頼りになって、魅力的だったか。

美人ではないが、足が白くてきれい。

特に、足の裏が魅力的。

このあたりは、例の「瘋癲老人日記」の老人と嫁の関係を彷彿とさせる。

この作品では、主人公は一度も手を出していないようだが、本当はどうだったのだろう?

 

2.その後雇った女中が、ほかの家で働いている最中に別の女中と同性愛の関係になり、奥様のベッドでくんずほぐれつの本格的な濡れ場を展開し、それがバレて二人とも首になった話。

これは、例の「卍」を思い起こさせるストーリーだ。

 

耽美主義を基調にした小説ではなく、谷崎潤一郎一家のお手伝いさんたちの生きざまを面白おかしく描いているコメディ小説である。

 

昭和の昔はどんな暮らしだったのか、その頃の日本の地方と都会とはどんなに格差が激しかったかがうかがい知れる楽しい作品になっている。