「シップ」
(原題:La nave、英語:The Ship)
1921年11月25日イタリア公開。
1922年3月31日日本公開。
ベネチアにおける古代の戦争を背景にした作品。
原作:ガブリエレ・ダヌンツィオ
監督:ガブリエリノ・ダヌンツィオ
キャスト:
バジリオラ:アイダ・ルビンスタイン
マルコ・グラティコ:アルフレッド・ボッコリーニ
セルジオ・グラティコ:チロ・ガルヴァーニ
執事エマ:メアリー・クレオ・タラリーニ
修道士トラバ:マリオ・マリアーニ
あらすじ:
今よりおよそ1500年前。
暴虐なるアッチラ王世が去りてより百年を経た頃、ベネチアの町の人々は安んずる暇もなく又入り来りし蛮人の為に市街は焼かれ、家財は掠奪され、遂に彼等は安全なるその境地を海上に求めたのであった。
かくて故国を離れた人々は潮満ちては潮干き、とある入江の地に居を定め、新しき都の建設に力を尽したが、時の為政者であるオルソ・ファレドロは、ギリシャの民の恨みを買い、ついに位を退けられ、四人の子息と共に惨き刑罰に遭い、身の自由をさえ失ってしまった。
しかるに、オルソの娘・バシリオラは幸いにも海外にいた為、一人その責苦より免れる事を得た。
美しい彼女はやがて故国に帰り来ったのであるが、己が父及び兄弟の哀れで悲惨なる姿を見て深お驚きと悲憤の情に打たれたのであった。
かくて復讐の念やるかたないバシリオラは、折から外国より凱旋し、新しい為政者マルコ・ガルチコの前においてその得意とする舞踊を舞い、彼の心を魅惑した。
復讐の血に燃える彼女は、なおも恩窮身に余るを利して為政者に強い、人々に対して暴政を加えしめ、密かに父及び兄弟の怨みを晴らして一人微笑むのであった。
しかしバシリオラは、武人である為政者マルコの心も、やがては彼女から離れてゆくだろうと悟り、更にマルコの弟である大僧正セルジゥスの心も彼女の魅惑の容姿で誘い寄せ、乱舞の酒宴を催して、神を敬う人々をも、汚わしい民に堕落させたのだった。
かくして聖堂は潰され、神の威力も地に堕ち、マルコとセルジゥスの兄弟は浅ましくも妖女バシリオラを我が物にしようと相争い、遂にマルコはセルジゥスを刺し殺してしまった。
しかしながら神は見捨てなかった。
兄弟の母エマは、かねてより一孤島に流されて寂しい配所に流人の身を嘆きつつも、いつかは来るであろう神の世を待っていたのだが、ついに忠臣によって助け出された。
さらに、今は自分の非業を悔いるようになったマルコは、ベネチアの民の為に新しき自由の国を海に求むべく、新たな巨船「世界丸」を建設し始めた。
海の彼方に望み溢れて、深き罪業を興国の殊勲に償わんと勇ましくも船に長たる為政者マルコは、その行を共にせんと請う忠臣を伴い、アドリアの海はるかに自由の境地を求めんものと威武堂々と船を進めた。
その頃、バシリオラは、自らが犯した罪のために、処刑場に引き出された。
そして、父や兄たちのように、眼を潰されようとしていた、
だが、刑が執行される直前、燃えさかる火の中に身を躍らせたのであった。
その悲劇を飾る妖姫バシリオラの美しい死は、彼女が犯した恐しい罪の数々をもなお償って余りあった。
人々の挙げる讃美の声に送られ、神を聖めた巨船「世界丸」が、新しき国を求めつつアドリアの波を截って行くのであった。
コメント:
ベネチアにおける古代の戦争を背景にした作品である。
原作は、あの大ヒット映画「カビリア」の原作者でもあるガブリエレ・ダヌンツィオの小説であり、監督をつとめているのは、この人の息子・ガブリエリノ・ダヌンツィオである。
ベネチアの歴史を背景として、為政者の変遷があったようで、それをテーマにしてこの作品が制作されたという。
最後にヒロインが自ら死を選んだという悲しい最期をしっかり描いている。
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