「さらばモスクワ愚連隊」
1968年3月27日公開。
五木寛之原作の初の映画化作品。
原作:五木寛之「さらばモスクワ愚連隊」
脚本:田村孟
監督:堀川弘通
出演者:
- 加山雄三
- 伊藤孝雄
- 塚本信夫
- 黒沢年男
- 神山繁
- 野際陽子
- ピーター・アレクセフ
あらすじ:
音楽プロモーター北見英二は、若いが名うての呼び屋で、ジャズピアノのかつての名プレイヤーでもあった。
極東プロの黒川とユウ子は、そんな北見をステージに戻そうとしていた。
ある日、北見はピアノ弾きの米青年ジェームスと知りあい、その欠点を指摘して親しくなった。
しかし、ジェームスはベトナムに行く兵士だった。
最後の夜、心をこめて弾くジェームスの「ストレンジ・フルーツ」に北見は感動した。
そこにはジャズのあるべき姿、虐げられた者の心のうめきがあったからだ。
ジェームスが去った後、北見は日本のジャズバンドをソ連におくる、という計画を引受け、モスクワに発った。
彼の交渉相手は、ソ連の対外文化交流委員とか、日本大使館員白瀬などで、彼はこの仕事の裏に政治的なにおいを感じた。
北見はジャズを必要とするソ連の民衆とじかに接したく、モスクワの街を歩いた。
たまたま知り合ったトランペットを吹く少年ミーシャに連れられ、北見は「赤い鳥」に行った。
そこは“雪溶け”の落し子スチリヤーガたちの溜り場だった。
北見はそこで歓迎され、美しいエルザと親しくなった。
彼はジャズに熱狂する若者たちの姿に、かつての自分の姿を見て、青春の情熱の蘇ってくるのを感じた。
だが、日本のジャズバンドを持ち込む計画は失敗に終わった。
日本の有力な政治家の死でこの仕事をバックアップしていたG物産が手を引いたのだ。
一度は落胆した北見だが、ある夜、彼はモスクワの若者のために、お別れの演奏会を開き、次々とジャズの名曲を演奏していった。
ジャズは人間の生活から生れるものだ、とミーシャに教えた北見は、翌朝ミーシャに楽譜を与えようと待っていたが、ミーシャはエルザにつきまとう闇屋を刺し殺して逮捕されていたのだ。
北見はさびしくモスクワを去っていった。
コメント:
第6回小説現代新人賞受賞作「さらばモスクワ愚連隊」の映画化。
1966年、『小説現代新人賞』上期受賞作として『小説現代』六月号に掲載され、五木の小説家としてのデビュー作となった
1967年1月に講談社より刊行された短編小説である。
初の文学賞受賞作品でもあり、初の映画化作品でもある。
デビュー作品が新人賞受賞となり、それがすぐ映画化されているところに五木寛之の文学家としての非凡さが伺える。
加山雄三が扮する元ジャズピアニストのプロモーターが、知人に薦められて日本のジャズメンをモスクワで興行させるという仕事を請け負う。
準備のためモスクワに行くと、興行自体は資金元の都合でポシャるものの、ジャズ好きなモスクワの少年との親交を結ぶというお話である。
モスクワで撮ったのは実景部分だけで、加山雄三が街なかに立つ場面は日本国内のそれらしい場所でロケし、ジャズ好きな少年と行くナイトクラブ周辺はセットを組んだようだ。
ソ連でロケが可能になるのは、あと数年先のことですが、ロシア語を話せる外人役者は結構日本にいた時代だという。
加山雄三が元ジャズピアニストという役なので、自らピアノを弾く場面がいくつかあり、さすがにアドリブの早弾きは無理としても、曲の頭の部分を弾くくらいなら加山にはお手のもので、実際に加山の手先もきちんと映る形で演奏されており、さすが弾厚作だと感心する。
さらにこの映画には、加山雄三の元コンボ仲間として、60~70年代を代表するドラマーのひとり富樫雅彦が出演していて、芝居も披露するのだが、お世辞にも芝居は誉められないものの、一度見せてくれるドラムス演奏は流石な一方、劇中で評価されるヴェトナム行き青年白人兵のピアノは今いち。
映画の中で加山雄三がモスクワで出会うジャズ好きな少年に対して、本当のジャズの魂とは何かを熱く語るが、恐らく五木寛之の原作がそうなのだろうが、説教臭くて鼻につく。
ジャズなんて理屈や文学的修辞は要らず、スウィングすればいいんじゃないでしょうかと思ってしまう。
堀川監督作品の中ではかなり気に入っているとの声がある。
テンポが良い、ノリが良い、音楽が良い、そして若大将こと加山雄三が良い!
加山の持ち味が存分に活かされてた一本だったんじゃないか。
外国人たちとの演奏対決も見応えあり。バンド結成して一夜限りのライブをするシーンも素敵。
「やりたいことをやれ!それが青春だ!」という加山の台詞には胸を打たれる。
本作公開当時の加山雄三は、「若大将シリーズ」が1961年スタート以来年々人気が上がり、絶好調の時だった。
まさに「やりたいことをやって、大成功」を身を以て示していた。
それだけに勢いがあり、新進気鋭の若手作家の文学賞受賞作品の映画化ということもあって、売り出し方は文句のつけようがない。
エンドが気に入らないという声もけっこうあるようだが。
まあ、若い時の五木寛之の元気一杯の心意気が、若大将主演によって映画界でも見られるという事で良しとしよう。
この映画は、K-PLUSでレンタル可能:
映画とは別に、五木寛之の小説の朗読CDが現存していてアマゾンで購入できるようだ。
2021年に死亡した若山弦蔵の追悼記念という意味もあって、最近は映画よりこのCDが大人気で、YouTubeでも聞けるようだ。