「暗殺」
1964年7月4日公開。
幕末の風雲児・清河八郎の生涯を描く。
原作 司馬遼太郎『奇妙なり八郎』
脚本 山田信夫
監督:篠田正浩
キャスト:
- 清河八郎:丹波哲郎
- お蓮:岩下志麻
- 松平主税介:岡田英次
- 佐々木只三郎:木村功
- 石坂周造:早川保
- 板倉周防守:小沢栄太郎
- 鵜殿鳩翁:須賀不二男
- 宮川進吾:竹脇無我
- 山岡鉄太郎:穂積隆信
- 稲葉:城所英夫
- 石井重二郎:清水元
- 目明し嘉吉:山路義人
- 三吉:青山宏
- 相沢圭次郎:水島真哉
- 山岡さわ:葵京子
- 島津久光:武智鉄二
- 芹沢鴨:織本順吉
- 河野音次郎:高津住男
- 佐久間修二:穂高稔
- 伊牟田尚平:蜷川幸雄
- 奈良原喜八郎:日下武史
- 有馬新七:水島弘
- 研若:立岡光
- 坂本龍馬:佐田啓二(特別出演)
あらすじ:
文久三年、浪士取扱・松平主税介(岡田英次)は老中・板倉周防守(小沢栄太郎)に手を回し、目明し嘉吉を斬った罪で追われていた出羽浪人・清河八郎(丹波哲郎)を許す一方、風心流の名人・佐々木唯三郎(木村功)に清河を斬る準備を命じた。
だが先廻りをした清河は、佐々木の前で北辰一刀流大目録皆伝の腕をいかんなく発揮し、佐々木を打ちのめした。
松平が清河を知ったのは八年前、清河が熱烈な尊攘論者であった頃であった。
だがその清河は、勤王の志士への対策として、守護職に名を借りた浪士隊を組織することを、松平に献案して大赦を受けたのだった。
かつて清河と同志であった佐久間たちは、彼の変節に激怒した。
松平の命をうけて清河をつけ狙う佐々木もこの話を興味深く聞いた。
そして佐々木は清河が嘉吉を斬った夜、彼が妓楼からひいたお蓮(岩下志麻)にすがりついて錯乱の態であったことを知って、清河を斬ることができると思った。
だが、お蓮も、捕吏の拷問にあい斬殺されていた。
文武に秀れ天才と呼ばれた彼の言動には、奇怪な事が多かった。
弟子の石坂周造(早川保)も坂本竜馬(佐田啓二)も、清河の思い出について、薩摩藩士を煽動し寺田屋事件をひきおこしたのみで、倒幕に失敗した時の、一匹狼清河の姿は寂しいものであったと語るのみで、清河の本当の姿を知るものはいなかった。
さて、清河立案の浪士組は結成され、清河は同志の批判の中、京へ向かった。
京へ入ると清河は、自分の野望を遂げんと、尊王攘夷の勅諚をもらい朝廷直轄の浪士隊を作ろうとした。
計画通り勅諚をもらい清河幕府を樹立した清河に、幕府の面々はあわて、再び佐々木が使わされた。
執念の鬼と化した佐々木は、一夜酔った清河の背後を襲い、一匹狼・清河の命を奪った。
コメント:
司馬遼太郎の短編小説『奇妙なり八郎』の映画化作品である。
幕末の動乱時代を舞台に、苛烈な政治抗争の中に身を置き、後ろ盾となる藩も持たず京の都で謀略の限りを尽くした風雲児・清河八郎の半生を扱っている。
主演の丹波は、半ば自信家で次第に煽てられて、天下を取り清河幕府を開くとまで豪語、増長する清河を闊達に演じている。
丹波哲郎の個性がぴったりの配役である。
また木村功や岩下志麻らが強烈な個性を発揮し、印象を残している。
更に特別出演した佐田啓二が、こうした人間模様を冷徹に見つめる語り部的な存在で登場し、坂本龍馬役を重厚に演じている。
監督の篠田正浩は、この作品において、和製ヌーヴェルヴァーグを意識したといわれ、作品中幾度も自身が傾倒したオーソン・ウェルズ監督作『市民ケーン』の演出技法を模倣し、実験的な演出を歴史作品で実践したという。
(談笑する司馬遼太郎と篠田正浩)
幕末の黒船来航以降の江戸幕府と朝廷の権力バランスの変化に翻弄される時代。
清川八郎の大言壮語の人物像の面白さに焦点を当てた時代劇である。
ストップモーションや時間経過の再編成を用いながら、清川の多面的でつかみどころのない人物像を描いた異色作。
農民出身ながら文武を極め、カリスマ性を持った清川の攘夷論者から親幕府の偽装転向から新幕府開設の大風呂敷からの暗殺へと時代の大きな潮流を感じさせる。
清川に道場で敗れ、付け狙い暗殺する役の木村も素晴らしい。
モノクロでも佐々木の顔に清川の血しぶきを浴びるシーンは迫力がある。
この映画は、TSUTAYAでレンタル可能: