眠狂四郎とは:
柴田錬三郎の独自の執筆によって大ヒットした剣豪小説のシリーズであり、映画化作品としても長期間にわたって大ヒットした。
『大菩薩峠』(中里介山著)の主人公机竜之助に端を発するニヒル剣士の系譜と、シバレンの作風を貫くダンディズムが融合した複雑な造形がなされているキャラクターである。
「転びバテレン」のオランダ人の父親ジュアン・ヘルナンドと日本人の母との間に生まれた混血という暗い出自を持つ。
平然と人を斬り捨てる残虐性を持つ、ニヒルな男。
その暗黒の生い立ちを背負い、孤独な虚無感を持ちつつ、豊臣秀頼佩刀と伝わる「無想正宗」を帯び、「円月殺法」という剣術を用いて無敵の活躍をする剣豪である。
実在の剣士・宮本武蔵とは全く異なる、新たな剣豪ブームを巻き起こした作品である。
市川雷蔵の眠狂四郎シリーズとは:
市川雷蔵の後半生における代表的なヒット映画シリーズ。
全12作からなる「眠狂四郎」の孤高な剣客を描いた作品。
雷蔵のニヒルな横顔と独特な「円月殺法」という無敵な殺しの技に加えて、毎回登場する美女とのふれあいも見ものとなっている。
では、第1作からスタート:
「眠狂四郎殺法帖」
1963年11月2日公開。
市川雷蔵の眠狂四郎シリーズ第1作。
柴田錬三郎の小説「眠狂四郎無頼控」の映画化。
脚本:星川清司
監督:田中徳三
キャスト:
- 市川雷蔵: 眠狂四郎
- 中村玉緒 : 千佐
- 小林勝彦 : 金八
- 扇町景子 : 芸者歌吉
- 真城千都世 : 常盤津文字若
- 沢村宗之助 : 前田宰相斉泰
- 高見国一 : 捨丸
- 荒木忍 : 僧空然
- 南部彰三 : 窯元蔵六
- 美吉かほる : お美代の方
- 橘公子 : 船宿の女将
- 伊達三郎 : 銭屋五兵衛
- 木村玄 : 根来竜雲
- 城健三郎 : 陳孫
あらすじ:
江戸から金沢までが舞台。
眠狂四郎(市川雷蔵)が“巣”と呼んでいる大川端の船宿喜多川に赴く途中、手裏剣の襲撃をうける。
闇の中に姿を溶かしているのは伊賀者と知れた。
迫る刺客を斬りすてたものの、ついに一人槍丸という小男を逃がした。
冷たく無表情な顔が、常盤津の師匠・文字若(真城千都世)の離れに移ったのはそれから数日後のことであった。
そこで加賀前田藩の奥女中・千佐(中村玉緒)の訪問をうけ、命をつけ狙う唐人・陳孫(城健三朗)から護ってくれるよう依頼された。
指定の清香寺に出向いた狂四郎は、意外にも陳孫から千佐が前田藩の間者であることを知らされた。
怒った狂四郎は千佐を前に前田藩のからくりをあばいた。
すなわち、前田藩主は豪商・銭屋五兵衛(伊達三郎)と結んで大規模な密貿易を働いて巨富を築いていたのだ。
しかし公儀への発覚を恐れ銭屋一族を処断し、復讐を企む銭屋の仲間の陳孫を抹殺するために、狂四郎に近づけたというのだ。
全てをみやぶられた千佐は拒絶の姿勢を崩して狂四郎を誘ったが、狂四郎の胸の内は唯人間を品物同様に利用する者への憤りだけがあった。
又も陳孫に誘われて河口まで来た狂四郎は、そこに死んだはずの五兵衛が生きているのを見て鷺いた。
しかも五兵衛は金銭をつんで狂四郎に協力を要請した。
狂四郎の虚無な眼はそれを受け流したが、それを予期した陣孫は千佐を拉致し去った。
前田侯に馬鹿げた茶番の決着をつけるよう迫る狂四郎は、江戸表から金沢へと追った。
金沢には、千佐の出現以来狂四郎につきまとう槍丸が千佐の居場所とつきとめて待っていた。
陳孫の許を脱出した千佐は九谷焼を営む蔵六(南部彰三)の家に身を寄せて狂四郎を待っていた。
又捨丸は前田家の命運を動かし、密貿易に絡む文書を秘めた碧玉の仏像の所在を探っていた。
陳孫から奪っ小筥(こばこ)は狂四郎の手に渡った。
むかい合う陳孫と狂四郎だったが、捨丸が間に入り、勝負はおあずけとなった。
狂四郎は、小筥をはさんで、千佐の出生の秘密を知った。
前田侯は千佐の実父であり、母は出家しているという。
北の海に面した砂丘の尼寺に馳けつけた千佐と狂四郎の見たのは、絞殺された尼僧の姿だった。
陳孫と五兵衛のしわざだ。
円月殺法の狂四郎と、少林寺拳法の陳孫との決着の時が来た。
コメント:
市川雷蔵の当たり役となった「眠狂四郎」シリーズの第一作。
前田藩がからむ事件を暴こうとする正義感あふれる狂四郎の姿が際立つ捕物帳風な作品になのだが、さらに、城健三朗(若山富三郎)扮する唐人・陳孫という少林寺拳法の達人との対決も加わる、不思議なストーリーになっている。
美しい中村玉緒がなんと前田藩の間者だったというところも笑える。
シリーズの第一作目というのは、何かとまだ主人公のキャラクターが固まっていない感じがある。
本シリーズでも、狂四郎の虚無感が皆無だとか、妙に明るい狂四郎とか、べらんめえ調で狂四郎が話すとか、いろいろと指摘されている。
製作側の人間からも、はつきりと「失敗作」と断じる声があったという。
だが、冒頭の忍びとの戦闘や、小林寺拳法の陳孫との決闘など、さまざまな見所もあり、十分楽しめる作品である。
クールでニヒルな狂四郎だが、シリーズ第一作では、明るく笑う場面もある。
最初の作品なのでまだキャラが定まっていないという。
本気で女に惚れていて、その女が子供たちを遊んでいる光景を見てほほ笑む。
女に惚れてもそれを吐露したり、自分の心情を話したりと、セリフが多い。
意外な狂四郎の姿も微笑ましい。
勝新太郎の兄である若山富三郎は、1962年から1966年までの間だけ大映に所属したが、その間は「城健三朗」という芸名になっていた。
このひとにとっては不遇の時代だったが、眠狂四郎シリーズには何度か登場してその存在感を示している。
市川雷蔵が演じる眠狂四郎の円月殺法は、この第1作でも見られるが、まだ迫力が乏しく、魔剣というイメージは無い。
今後次第に雷蔵はニヒルになり、円月殺法も魔性を帯びるようになって行くのだ。
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