日本の文芸映画 柴田錬三郎 「第8監房」 あり得ない男女の出会いと別れを描くメロドラマ! | 人生・嵐も晴れもあり!

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「第8監房」

 

第8監房 | 映画 | 日活

 

1956年1月15日公開。

柴田錬三郎原作の初の映画化。

 

原作:柴田錬三郎「第8監房」

脚本:白石五郎 

監督:阿部豊 

 

キャスト:

三橋達也:高森七郎

月丘夢路:黒田美智

三島耕:手塚看守

植村謙二郎:金平親分

芦田伸介:政

 

第8監房 | 映画 | 日活

 

あらすじ:

建築工務店主の高森七郎(高森七郎)は、盛り場に巣食う金平組の政(芦田伸介)を正当防衛から短刀で刺し、暫く大阪に身を隠していたが、再び東京へ戻って来た。

マーケットの建築代金を催促するためバーに金平親分(植村謙二郎)を訪ねた高森は、そこで働く黒田美智(月丘夢路)を知った。

彼女こそ比島戦線で部隊を救うために高森が手にかけた黒田中隊長の妻であったのだ。

あれから十年、わが手にかけた中隊長の遺品を届けて詫びなければと探す人が、明日釈放される政の女になっていると知り、彼は感慨無量だった。

美智のあとをつけた高森は遺品を渡したうえ、黒田の墓に詣でたが、自分が殺したと打ち明けることが出来ず、美智もやさしい高森の言葉に心の動揺を覚えた。

翌日、刑務所を出た政は美智の心変わりを知って高森を襲うが、駈けつけた美智は足許のピストルを拾うと、夢中で政を射った。自首するという美智を抑えて、高森は刑事にひかれて行った。

第8監房に移された高森はかつての部下だった手塚看守(三島耕)から、美智が金平組に追われ、陸橋から落ちて瀕死の重傷を負ったことを聞いた。

手塚は検事の調べが始まる二時に帰るようにといって、高森を非常口から脱走させた。

だが、高森が飛ぶ思いで病院に駈け入ったときは、美智が息を引き取ったあとであった。

高森は亡骸にすがって泣いた。

約束の二時、手塚が気を揉んでいると、高森はよろめきながら帰って来た。

美智を臨終まで看病した親友の由美と、殺人の現場を目撃した女の証言で高森は無罪釈放になった。

美智を失った悲しさに、高森は悄然と雑沓の中に消えた。

 

第8監房 | 映画 | 日活

 

コメント:

 

原作は、雑誌『小説倶楽部』に掲載された柴田錬三郎の同名小説。

シバレンの原作とは思えぬ純情メロドラマである。

 

第8監房 柴田錬三郎 光風社

 

タイトルの「第8監房」とは、主人公が投獄される監房の名前だが、そこから看守の手引きで脱獄するというシナリオになっている。

絶対にあり得ない展開だ。

 

あり得ないといえば、この映画に登場する人物がすべて他の運命の糸で結ばれているのだ。

 

主人公・高森は、戦争中にフィリピン戦線で部隊を救うために黒田という中隊長を手にかけた。

そのことを遺族である黒田の妻に詫びたいと念願していたのだが、その妻・美智は、ヤクザ者の政という男の情婦になっていた。

 

主人公は、その政というやくざを正当防衛から短刀で刺して逃げていたという因縁の関係にある。

 

また、主人公が投獄された「第8監房」の看守は、かつての部下だったという驚きの再会。

そしてその看守は、昔の上司を監獄から脱走させてくれるというのだ。

 

主人公とヒロイン、さらにヒロインとその情夫の三角関係。

これぞ、韓流ドラマの世界なのだ。

 

というより、おばさま御用達の韓流ドラマのプロットは、すでに1950年代の日本映画で採用されていたということなのだ。

その原作者こそ、我らのシバレンだ!

 

主役の三橋達也は、松竹、日活、東宝などで活躍した人気俳優。

日本の俳優では稀有なダンディーで甘い二枚目の魅力を存分に発揮した。

 

銀幕を熱く輝かせた男たち《日本・東宝篇》⑥~三橋達也 : 暗闇の中に世界がある ーこの映画を観ずして死ねるか!ー

 

ヒロインを演じている月丘夢路が美しい。

本作公開当時、日活のトップ女優だった。

こういうメロドラマのヒロイン役を何度も演じた大女優である。

 

一般財団法人 井上・月丘映画財団

 

芦田伸介といえば、TBSの人気ドラマ『七人の刑事』に沢野部長刑事役で人気を博したが、本作はその5年前の映画である。

こういうやくざ者を演じていたとは意外だが、なかなか様になっている。

 

奇蹟・鬼籍の名俳優~芦田伸介 | VBCテレビブログ放送

 

この映画は、シバレン原作小説の初の映画化作品である。

あの「眠狂四郎」シリーズのニヒルな感じとは正反対の、男女の悲恋を描いたものとして一見の価値はある。

 

 

昨年CSの衛星劇場の「幻の蔵出し映画館」で放映されたようだ。

残念ながら、DVDは発見できなかった。

今後どこかのサイトで再度放映されることを望む。