「帰郷(2019)」
2020年1月17日公開。
仲代達矢主演。
時代劇専門チャンネル・オリジナル作品。
原作:藤沢周平「帰郷」
脚本:杉田成道、小林政広
監督:杉田成道
キャスト:
宇之吉:仲代達矢
九蔵:中村敦夫
源太:緒形直人
おとし:田中美里
栄次:佐藤二朗
おくみ:常盤貴子
佐一:橋爪功
あらすじ:
信州・木曾福島に向かって、ひとり歩く無宿渡世姿の旅人・宇之吉(仲代達矢)。
かつては木曾福島を縄張りとする博奕打ちだったが、親分の罪を被り江戸に身を寄せていた。
だが世話になった相州屋清五郎の妻・おとし(田中美里)と道ならぬ仲になり、清五郎を殺し、おとしと江戸を出奔。
以来30年余りの歳月が流れた……。
そんなある日、病に倒れた先で見た風景が心をえぐり、老い先を思い故郷に歩みを進める宇之吉。
やがて故郷に辿り着いた宇之吉が、町を歩いていると斬り合いに遭遇する。
野獣のように隙がなく獰猛な動きを示している男がひとり、十人を超える男たちを相手にしていた。
その男、源太(緒形直人)を追い詰める男たちは、宇之吉のかつての兄貴分である九蔵(中村敦夫)の手下たちだった。
川に飛び込み難を逃れる源太の姿に、宇之吉はかつての自分の姿を重ねる……。
ある日、宇之吉は渡世人仲間の栄次(佐藤二朗)と行った飲み屋で、おくみ(常盤貴子)という女と出会う。
栄次から、おくみと源太は好いた仲だが、かねてからおくみに目を付けていた九蔵が、二人の仲を引き裂こうと執拗に嫌がらせを重ね、ついに源太が九蔵に斬りつけ、追われる身となってしまったと知らされる。
そして神社で行われる山博奕の日、宇之吉は幼なじみの佐一(橋爪功)と再会、衝撃の事実を耳にする……。
コメント:
藤沢周平による同名短篇小説を、時代劇専門チャンネルが史上初となる8K時代劇として、仲代達矢の主演で映像化した。
若かりし頃、訳あって木曾福島を出奔した宇之吉は、流浪の旅を続け、病に倒れた旅の空で見た風景に故郷への思いを馳せる。
老い先を悟った宇之吉は、寄る辺なき帰郷を果たすが、そこに守るべき存在を見出す。
当時87歳の仲代達矢が主演している。
30年前から「いつか宇之吉をやりたい」と思っていた仲代達矢の念願がかなった。
老渡世人を迫真の演技で演じる。
自らの死期を悟った渡世人・宇之吉(仲代)が30年ぶり木曾福島の故郷へ帰ってくる。
そこで出会ったのは一人で大勢を相手に刀を振り回す若者・源太(緒方直人)で、昔の自分を辿るようだった。
おそらくこれが最後の主演作ではと思わせる仲代は年老いたヤクザを渾身の演技で、大型画面ならではの存在感で魅せている。
よろよろと歩く姿を見て流石に年を感じさせたが、監督によるとこれも演技だったという。
大御所C・イーストウッド同様、いくつになっても俳優であることを実感させられる。
美しい木曽路と御嶽山を背景に繰り広げられる8K映像はさすがに素晴らしい
中村敦夫や三田佳子などベテランが脇を固めている。
30年前の宇之吉に北村一輝、源太に緒方直人の中堅俳優、ヒロインおくみに常磐貴子、おとしに田中美里、お秋に前田亜季の女優陣がそれぞれの持ち味を醸し出して好演している。
特に、ヒロインのおくみを熱演している常磐貴子が素晴らしい。
この人は、テレビドラマではいくつもの大ヒット作で活躍してきたが、時代劇映画にはほとんど出演しておらず、意外なキャスティングのように思われた。
だが、彼女の眼力が、実はやくざ者の時代劇にはぴったりだ。
今回の起用は大成功だったといえよう。
今後もぜひ時代劇で存在感を見せて欲しい。
最後にモーツァルトのレクイエムが流れる。
贖罪や死生観を描いていて、日本人が潜在的に持つ義理・人情を丁寧に描写した時代劇に仕上がっていた。
本格時代劇の衰退は著しいが、視点を変えたユニークな作品が出始めている。
本作は久々の本格ヤクザ時代劇だ。
時代に沿った新しい時代劇もいいが、たまには本作のようなオーソドックスな作品も観てみたい。
時代劇専門チャンネルのこれからに期待したい。
この映画は、時代劇専門チャンネルのサイトで動画配信中: