「懲役太郎 まむしの兄弟」
1971年6月1日公開。
大ヒットしたまむしの兄弟シリーズの第1作。
脚本:高田宏治
監督:中島貞夫
出演者:
菅原文太 、 川地民夫 、 佐藤友美 、 安藤昇 、 葉山良二 、 三島ゆり子 、 女屋実和子 、天津敏 、谷村昌彦 、 諸角啓二郎 、 林彰太郎 、 有川正治
あらすじ:
前科一二犯、通称・ゴロ政こと政太郎(菅原文太)が2年ぶり12回目の懲役を終え、兄弟分・勝次(川地民夫)の出迎えで出所した。
二人は神戸の新開地の北部を縄張りとする七友会山北組と西部の滝花組の乱斗に直面し、相手かまわず暴れ込んだり、高級レストランでイヤがらせをしたり無軌道ぶりを発揮する。
福原で風俗嬢の花江(三島ゆり子)、洋子(女屋実和子)とねんごろになり、そのアパートにしけ込んでいるところへ、山北組代貸の友枝(林彰太郎)が、政と勝に滝花組代貸の梅田(葉山良二)殺しを依頼してくる。
二人は梅田を狙ったが、七友会最高幹部・早崎(安藤昇)の出現で中断されてしまった。
怒った政は、早崎と勝負をするために、郷里の小豆島に帰った早崎の後を追ったが、その貫禄の前に手も足も出なかった。
そうしたある日、七友会の二代目を早崎が継ぐと知った山北組々長は七友会を脱会、滝花組を叩きつぶす計画を進めた。
山北組のマシンガンが梅田を襲ったのは数日後。
梅田はまきぞえのゆきをかばって他界した。
傷ついたゆきを見舞い、怒り狂った政と勝は、かけつけた早崎を罵倒する。
じっと耐える早崎はある決意をしていた。
政と勝は、山北組にトラックを走らせた。
早崎は山北組々長に解散を命じ、組長の自首をすすめた。
だが卑劣な山北(天津敏)は子分たちに早崎に襲わせた。
その場にダイナマイトを手にした政と勝が乗り込んで来たのだ。
山北組のマシンガンにふらつきながらも山北の心臓に匕首を突き刺す早崎だったが、そのまま息絶える。
突進する政と勝、その背には見事な大蛇の刺青。
政と勝は修羅場に飛び込んだが、マシンガンを浴びてのけぞる勝。
政のドスが、次々に友枝たち子分を倒していく。
しかし、銃弾を受けた政の目はかすんでくる。
早崎に負けまいと墨で書いた二人の刺青が、雨にうたれてどろどろと溶け始めていた。
コメント:
菅原文太主演で全9作となった大ヒットシリーズ。
その第1作は、脚本・高田宏治、監督・中島貞夫のコンビによって製作された。
主人公ゴロ政が、理由なく暴れるのでただのチンピラとしか思えない。
文太がコメディ演技をみせ、佐藤友美がマドンナ的なので、トラック野郎」の原形のように思えた。
少年院8回、刑務所4回の懲役を誇るチンピラ義兄弟が神戸で巻き起こすアクションコメディシリーズ第1作。
以前のテキヤ・シリーズとは異なり、これはやくざ者の新シリーズ。
ちなみに、このシリーズは、以下の通り10作あるが、第10作はギバちゃん主演である。
- 懲役太郎 まむしの兄弟(1971年)
- まむしの兄弟 お礼参り(1971年)
- まむしの兄弟 懲役十三回(1972年)
- まむしの兄弟 傷害恐喝十八犯(1972年)
- まむしの兄弟 刑務所暮し四年半(1973年)
- まむしの兄弟 恐喝三億円(1973年)
- まむしの兄弟 二人合わせて30犯(1974年)
- 極道VSまむし(1974年)
- まむしと青大将(1975年)
- まむしの兄弟(主演・柳葉敏郎)(1997年)
なお、中島貞夫の監督作品は、第1作、第3作、第9作である。
神戸の地に兄弟分のやくざ二人が再会する。
兄貴分のゴロ政こと政太郎は前科12犯で十二回目の懲役を終え、弟分の勝次がお勤めを終えた兄貴を迎えに来た。
二人は戦災孤児であった。
闇市時代からの暴れん坊だった政は、サーカスに在籍し抜け盗みをしていた不死身の勝を助けたのだった。
新開地では瀧花組と山北組の対立が激しくなっていたが、まむしの兄弟政・勝はパチンコ店で暴れまくる。
その後、レストランに入った政と勝は空腹であったが、アルファベットで書かれたメニューが読めず、政は「英語ばっかりやないけ!」と怒る。支配人は「フランス語でございます。シャトーブリアン」と説明する。
「肉持ってこんかい」と政は命じ、肉を食べ、酒を飲む。
その時、近くの席で美しい女性(佐藤友美)が微笑んでいて、勝は喜ぶ。
「ハクいスケや」と小躍りする勝は、金を出して、「姉ちゃん、ワイの兄貴と寝たってんか?」と頼むが、政は「アホ」と一喝する。
ト×コ(ソープ)に現れた政と勝はここでも大暴れする。
だが、勝は「兄貴が一発×つまでは儂は女子に手を出せへんのや」と自身に厳しく課すルールを墨守する。
そして、二人は風俗嬢の花江・洋子と親しくなる。
屋台の少女ゆきは懸命に働き幼い弟妹を養っているが、食べにきたまむしの兄弟は無銭飲食する。
ゆきを助けたいと思い、相談に乗ろうとした相手の女性は、レストランの客であった上月さや子で、彼女は警官であった。
政と勝はゆきに謝罪し、さや子の美貌に惹かれながらも、彼女の善意に反発する。
マサとカツ、ふたりとも、ほんと悪いことばかりしている。
頭が悪くて、ダサいが、ほんとはいいヤツで人情深い。
でもやっぱバカで・・。
そんなバカさ加減に、胸がキューッとなったりする。
マサのが孤児院育ちで、カツも母親知らずだ。
後半でハーモニカを吹いてるカツに、マサが「それ何ちゅう歌や?」と聞く。
すると、
カツが「なんや知らん。でもこの歌聞くと女の人の姿がみえてくる・・おふくろかもな・・。」
マサが「おふくろけ~・・。」
というシーン。
ここが良い。
早崎に負けまいと彫った刺青。
お湯を浴びても鮮やかだった刺青が、マサとカツの入れ墨は未完成だったため雨で色が落ちてくるシーン。
ここもジーンとくる。
安藤昇の存在感がハンパない。
本物のヤクザだった俳優はやはり違う。
上月さや子という婦人警官を演じる佐藤友美が美しい。
この女優は、さまざまなやくざ映画やサスペンス映画に出演した。
脱ぎっぷりのよさとハスキーボイスでヴァンプ女優なら佐藤といわれた。
大人びた都会派の美貌に加え、ハスキーボイス・ファッションモデル並みのスラリとしなやかな肢体はスクリーンに映え、数多くの映画やテレビに華を添えた。
この映画では二人のキャラクターを生かした箇所はふんだんにある。
たとえばフレンチレストランに料理を知らないチンピラが来店するとどうなるか。
中島貞夫監督は笑いのツボを外さず、好みの美女が実は警察官だったというオチにまで繋げていく。
梅田への襲撃の際に、ゆきが巻き添えを食って以降の展開は加速度が増している。
早崎が山北と刺し違える覚悟でいるところに、ゴロ政と勝が山北組に乗り込んでいく場面も目が離せないが、すべてが終わり雨の中、二人が歩き出すにつれ、徐々に背中の絵が溶けていくあたりも忘れがたいものがある。
シリーズ1作目とは思えぬほど、菅原文太と川地民夫のコンビネーションは抜群に良く、最高の“相棒”映画であることを証明している。
監督の中島貞夫と準主役の川地民夫がこんな話をしている:
【映画制作のエピソード】
中島「このころは『木枯し紋次郎』(1972)も何本か、『まむし』と交互に撮ってたから。色合いが全然違うのに」
川地「俳優はその間休めるけど、でも監督ってのは気違いですよ(一同笑)。朝から撮って、夜は飲むんだから(笑)」
中島「反省会だよ(笑)。遅くまで飲んで、セットで血反吐はいて入院ってことがありましたね。で、節食して。
文ちゃん(菅原文太)に「用意スタートのかけ声に元気がないと、おれも芝居する気になれないな」と言われて(笑)。あのころは1本あたり20数日くらいで撮らなきゃいけない」
川地「夜、監督は3、4時間しか寝てないですよ。で、どの監督も夜が強い」
中島「ぼくは弱いよ」
川地「そりゃ最近でしょ(一同笑)。どの作品でも、最後は3日くらい徹夜で追い込みですよ。ほんとにみんなタフ」
【役者の想い出】
中島「あのころぼくは鶴田浩二さんと関係が悪くて(一同笑)。ピラニアは鶴田さんの下だから、遠かったんです。彼らの個性の面白さはまだわからなかった」
川地「室田日出男が鶴田さんの周りに行くなって言ってましたよ。彼も鶴田さんとは合わなかったんですね(笑)」
川地「京都は愉しかったですよ。別に怖くなかった。若山富三郎さんとか(笑)。若山さんは、何で?と思うくらい真面目でしたね。あの顔で一滴もお酒が飲めない。で、おまんじゅうが大好きっていう(一同笑)」
中島「クラブへ行っても酒は飲まない。で、クラブも判ってるからおまんじゅうを持ってくるんですね(笑)。病気で弱ってるときもそうだったから、ぼくはやめろって言ったら「貞夫、ひとつだけ食わせて」ってねえ…。
で(実弟の)勝新太郎さんは大酒飲みなんです。あの兄弟は、互いに尊敬してましたね」
川地「会えばけんかなんだけど。お互い好きなんですよ。若山さんはだんだんうまくなられた感じがしますね」
生前、菅原文太と川地民夫が、テレビ出演した。
その時の動画がこちら:
この映画は、TSUTAYAでレンタル可能: