「おろしや国酔夢譚」
1992年6月25日公開。
鎖国日本にあってロシアに漂流した日本人たちの帰国までの物語。
配給収入:18億円。
脚本・監督: 佐藤純彌。
出演者:
緒形拳、川谷拓三、三谷昇、西田敏行、江守徹、 沖田浩之、米山望文
あらすじ:
1782年、伊勢出帆後に難破した光太夫(緒形拳)らは、9カ月後に北の果てカムチャッカに漂着する。
生き残ったわずか6名の日本人は、帰郷への手立てを探るためにオホーツク、ヤクーツク、イルクーツクと世界で最も厳しい寒さと戦いながらシベリアを転々とするが、土地土地で数奇な運命に翻弄される。
そして、凍傷で片足切断した庄蔵(西田敏行)は日系ロシア人のタチアナに手を引かれるようにキリシタンとなり帰化。
若い新蔵(沖田浩之)はロシア女ニーナと恋に落ちて姿を消した。
一方、光太夫は学者ラックスマンを通じ、初めて見る文化に強い衝撃を覚え、この感動を故国へ伝えたいと帰国への執念をなお燃やすのだった。
そして、最後の望みを賭け、エカテリーナ二世への直訴を決意し、首都ペテルブルグに向かった。
ラックスマン、ベズボロドコ伯爵、女王側近ソフィアの協力を得て、ついに光太夫の熱い想いは女帝の心に通じ、光太夫、小市(川谷拓三)、磯吉(米山望文)のわずか3人だが、1792年、実に9年9カ月ぶりに帰国を果たし根室へ着く。
だが、鎖国中の幕府は彼らを迎え入れようとはせず、小市は病死。
その後、光太夫、磯吉も上府、神田の雉子橋外の厩舎に留置されるが、やがて松平定信(江守徹)のはからいで光太夫は幽閉という扱いで、ようやく迎え入れられることになったのだった。
コメント:
原作は、井上靖による同名長編小説。
1966年から1968年にかけ『文藝春秋』に掲載され、文藝春秋社から刊行された。
日本文学大賞受賞作品である。
大黒屋光太夫をはじめとする、漂流した神昌丸の乗組員17人の運命を、日露の漂流史を背景に描き出した歴史小説。
実際にこのような人物が存在したことを、井上靖があらゆる文献を詳細に研究し、その根拠となる資料の名前も掲載している一級の歴史学者として渾身の小説として世に出した極めて貴重な作品といえる。
一度もこの小説をしっかり読まれることをお勧めしたい。
松平定信の時代における日本の状況や、ロシアが日本をどうしたいと考えていたかもわかる素晴らしい作品である。
鎖国とは何かについても、深く考えさせる内容になっている。
鎖国日本にあって、漂流した神昌丸の乗組員たちが、広大なシベリア大陸を走り抜けた冒険記を描いた実在の人物の物語。
伊勢を出た米廻船が難破し、9か月後に漂着したのがロシア東の果てカムチャッカ。
その後10年がかりで、仲間を次々と失いながらも日本に帰国した船頭の大黒屋光太夫ら3人の生き様を描いている。
ロシアの協力のもと大規模ロケを行い、大映(現:KADOKAWA)・電通製作、東宝配給により1992年に公開されたものである。
1991年のソ連崩壊の時期にサンクトペテルブルク撮影所の協力のもと大規模なロケが行われたという。
イルクーツクを経て、サンクトペテルブルクまでの間の吹雪のシーンなどは、ロシアでないと見れない貴重な映像となっている。
この映画の主人公・大黒屋光太夫を演じる緒形拳の渾身からの熱演は多くの観客の涙を誘った。
嵐の中、船が難破する場面から始まる。
荷物を海に投げ出したり、帆をおろしたり、緊迫した激しい音と画面を見ていると、やがて嵐の場面は終わり、静寂が訪れる。
その喧噪と静かさの対比が鮮やかで、ぐっと物語の世界に引きこまれる。
やっと到着した島で、彼らを迎える島の原住民たちと、毛皮を取る仕事をしていたロシア人たち。
原住民たちは呑気で明るく、ロシア人たちは恰幅よく、それを見た限りでは、日本に帰るのが予想外に難事なことを考えなかったことだろう。
船を自分たちで作っていた光太夫たちが作業を進めるなか、寝そべって酒を飲むロシア人たちに悪意はなかった。
このように、生活費をくれて親切にしてくれる大らかな国民性がある。
しかし、日本に帰るまでの道のりはあまりにも遠かった。
異国暮しで、洋服を着るようになり、箸を自ら作り食事する者がいたりする描写が事細かで面白い。
ロシア人も、光太夫のような立派な人間が、一介の漁師だったりする。
日本とはどういう国なのかきかれる。
まだ東洋と西洋の違いみたいな発想がなかったのか。
箸を使う日本人を見て、中国の影響で箸を使うのよと説明したロシア人の奥さんもいる。
なぜロシアが流れ着いた日本人を優遇して、日本語を習得したいのかもわかってくる。
そして、日本に帰ってきた光太夫たちをなぜ受け入れることができなかったか。
これは、光太夫自身が答えを言う。
外の世界を知ったものはまずいのだと。フランス革命のようになるのが怖いのだと。
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