「ぼくの伯父さん」
(原題: Mon Oncle)
1958年5月10日公開。
異才の監督・ジャック・タチの大人気コメディ。
受賞歴:
第31回アカデミー賞外国語映画賞
第11回カンヌ国際映画祭審査員賞
監督・脚本:ジャック・タチ
キャスト:
ジャック・タチ:ユロー伯父さん
アラン・ベクール:ジェラール・アルペル
ジャン=ピエール・ゾラ:チャールズ・アルペル
あらすじ:
プラスチック工場の社長アルペル氏(ジャン=ピエール・ゾラ)の新築した邸宅は、モダーンなデザインを凝らし、総ての部分を電化した超モダーン住宅である。
しかし、肥ったパパとママに育てられ、自動車に乗せられて毎朝学校に通う息子のジェラール(アラン・ベクール)にとって、あんまり機能化された生活は楽しいものではない。
彼の本当の友達は、ママの兄さんのユロー伯父さん(ジャック・タチ)だった。
下町のアパートのてっぺんの部屋に住み、丸っこい身体にレインコートを着てパイプをくわえた伯父さんは、彼を連れ出しては自由に遊ばせてくれた。
そんな伯父さんののんきな生活に、パパのアルペル氏は不満である。
知人の大会社に就職を世話したり、お隣りに住む女の人をおよめさんにどうかと考えてパーティに呼んで会わせてみたり、何とかユロー伯父さんを一人前の人物にしようとする。
そのたびに、伯父さんのやるのはへマばかりだった。
遂にアルペル氏は自分のプラスチック工場でユロー伯父さんを使うことにしてみる。
ところが伯父さんの手にかかると、プラスチックの管はソーセージみたいな形になって機械から出てきてしまう。
出来そこないの管を棄てるために、夜どおしかかって伯父さんは苦心する。
そしてとうとう、パパのアルペル氏の手によって、伯父さんは田舎の支店に転任がきまった。
ジェラールとパパは自動車で、雑踏の空港にユロー伯父さんを送って、さよならを言う。
伯父さんをこっちに向かせるためにパパが口笛を吹くと、よその人がそれに気をとられて柱に頭をぶっつけてしまった。
ジェラールが伯父さんと町で遊んだ時にやった悪戯と同じだ。
思わずパパは、前にそんな時には伯父さんがよくしたように、ジェラールの手をしっかり握ったのだった。
コメント:
ジャック・タチが、新しく作りあげた彼独特のほのぼのとした喜劇映画である。
この人の作品ほとんどが、自ら脚本、監督、主演をつとめている事で知られている。
とにかくなんでも自分でやってしまう万能の映画人だった。
本作はその代表作である。
ユニークな詩情と、スラップスティックを加味した文明批評と、アヴァンギャルド風の構成をないまぜたこの作品には、例によって台詞がほとんどなく、物語は場面の動きと音楽によって進行する。
下町人情派ジャック・タチがその文明批評眼を遺憾なく発揮した逸品。
とにかく観やすい。観ていて安心する。
一方で、巧妙な舞台装置であったり、鮮やかな色彩・音響効果など、驚くほど細やかな作り込みに脱帽。
こうあってほしいというところがことごとく実現している。
まさに天才だ。
ジャック・タチは、。パリ郊外のル・ペック生まれだが、父はロシア人、母はオランダ人。
スポーツ出身の異色の監督・俳優である。
若い頃からパントマイムの道を志し、得意だったスポーツをネタにした芸でならす。
1933年からミュージックホールの舞台に立ち、シドニー=ガブリエル・コレットから激賞を受けるなど人気を博した。
1932年からは映画の仕事も始めたが、最初に話題になったのは、ルネ・クレマンが監督し、タチは脚本と主演を担当した『左側に気をつけろ(Soigne ton gauche)』(1936年)という短編映画である。
タチはここでもお得意のボクシングの芸を披露している。
クロード・オータン=ララの『乙女の星(Sylvie et le fantôme)』(1945年)と『肉体の悪魔(Le Diable au corps)』(1947年)に出演した後、1947年に短編映画『郵便配達の学校(L'École des facteurs)』を初監督した。
この作品でタチは脚本・主演も担当し、この作品の主人公である郵便配達人フランソワは次の作品に活かされることになる。
本格的な長編映画デビューは、監督・脚本・出演を兼ねた『のんき大将脱線の巻(Jour de fête)』(1949年)である。
これは、フランスの片田舎の郵便配達人が、アメリカ式合理主義に影響され、自転車で駆け回りながら騒動を巻き起こすコメディ映画である。
長編第2作は『ぼくの伯父さんの休暇(Les Vacances de Monsieur Hulot)』(1953年・モノクロ映画)。
ユロ氏がフランスの浜辺の高級リゾートに現れ、8月の優雅なバカンス地に大騒動を巻き起こす。
ユロ氏を中心にコミカルなエピソードが次から次へと繰り広げられるが、ほとんどでサイレント映画のような視覚的ドタバタに終始している。
この作品は米国のアカデミー賞オリジナル脚本賞にノミネートされ、また後のヌーヴェルヴァーグの批評家にも大絶賛された。
そして長編第3作となるのが、本作である。
『ぼくの伯父さんの休暇』とは全く関係ない別の作品である。
フランス映画界の奇才といわれたジャック・タチによる品のいいユーモアをちりばめたコメディ映画になっている。
ゆったりとした独特のムードは、戦後の急速な機械化に対する反発であり、警鐘でもあったようだ。
山高帽とステッキのチャップリンに対し、こちらはヨレヨレのソフト帽と傘という組み合わせ。
最先端の工場内での珍騒動は「モダンタイムス」、中年男性と少年の名コンビは「キッド」、それ以外でもパトロール中の警官をあちらこちらに配した作劇はチャップリン映画へのオマージュでもあった。
ジャック・タチは、ハリウッドのチャップリンやバスター・キートンなど無声喜劇映画のスターたちを深く尊敬していたという。
この映画は、Amazon Primeで動画配信中: