「天平の甍」
1980年1月26日公開。
鑑真和上の訪日までの労苦を描いた井上靖の代表作を映画化。
原作:井上靖「天平の甍」
脚本:依田義賢
監督:熊井啓
キャスト:
- 普照:中村嘉葎雄
- 栄叡:大門正明
- 玄朗:浜田光夫
- 戒融:草野大悟
- 鑒眞(がんじん):田村高廣
- 業行:井川比佐志
- 景雲:常田富士男
- 平郡郎女:藤真利子
- 与呂志女:高峰三枝子
- 小芳:吉田日出子
- 吉備真備:梅野泰靖
- 阿倍仲麻呂:高橋幸治
- 藤原清河:高野真二
- 大伴古麻呂:出水憲司
- 隆尊:志村喬
- 良弁:滝沢修
- ナレーション:城達也
あらすじ:
天平五年(西暦733年)春、若い日本人僧、普照(中村嘉葎雄)、栄叡(大門正明)、玄朗(浜田光夫)、戒融(草野大悟)の四人が第九次遣唐使船に乗って大津浦を出航した。
留学僧に選ばれた名誉と、再び生きて日本の地を踏めるかという不安が一行を包む。
特に普照は美しい許婚者、平郡郎女(藤真利子)と苦悩の末、別れての出発だ。
この時期、日本最大の課題は律令国家の建設であり、仏教界の確立であった。
四人は唐の高僧の渡日要請の任務を持って洛陽に入った。
一行は玄宗帝に迎えられた。
そこで、挫折した留学僧や、経典を正しく日本に伝えるため写経に一生を賭している業行などに出逢う。
四人は玄宗帝に従い洛陽から長安に移るが、渡日を快諾してくれる高僧にはなかなか会えない。
日本を出てから十年目、一行は道抗の高弟の鑒真和上(田村高廣)を知る。
この間、戒融は仏陀の真理を悟るため一人旅立っていった。
和上は一同の熱意に渡日を表明する。
しかし、日本人僧の帰国渡航は非合法であり、まして中国人僧が渡日すること赦されることではなかった。
そして普照らの行動は張警備隊長に監視されることになった。
そして、栄叡と道抗は密出国の主謀者として逮捕され、自信を失った玄朗は一行から別れていった。
三年後、道抗は獄死し、栄叡は釈放される。
天宝七年、和上は渡日を決行するが、暴風雨に遭遇して失敗、栄叡は疲労と熱病で死亡する。
その頃、奈良朝廷は第十次遣唐船の出航を決定、四人が出てから二十年が経ていた。
普照は還俗した玄朗からその話を聞き、駐唐大使、藤原清河を訪ね、和上の渡日を要請する。
一方、和上は度重なる疲労から失明していた。
そして、一同の情熱に、張警備隊長の温情もあって、普照らは日本に向かう船に乗った。
しかし、業行(井川比佐志)を乗せた第一船は嵐に会い、写経した厖大な経典も人命救助のため無慈悲に海中に投げ捨てられると、業行もその経典と共に荒れ狂う波間に身を躍らせた。
渡日のための試みを重ねたあげく鑒真和上、普照らを乗せた船は、薩摩の国、秋妻屋浦に着き、奈良に向かった。
和上が渡日を決意して十二年目、普照が渡唐してから二十年目であった。
黄土に眠る栄叡、妻帯して暮す玄朗、仏陀の真理を求めて行く戒融、そしていま、普照は鑒真和上と奈良の地を踏んでいる。
母の姿はなく、嫁いで子供をもうけた郎女が彼の帰還を喜んでいる。
天平宝浩三年、鑒真和上は西京に唐招提寺を建立、全国から学従が集り、講律、受戒が行なわれた。
コメント:
原作は、井上靖の代表作でもある同名歴史小説である。
初刊は中央公論社で1957年12月に刊行、新潮文庫で1964年3月に文庫化(改版2005年)。
作者は訪中後に加筆している。
芸術選奨受賞作である。
映画は、名匠・熊井啓監督が苦労して制作した作品。
熊井啓は、1957年の井上靖の小説連載開始から映画化を企画していたという。
ねばり強い中国ロケ折衝が実り、当時は非常に困難だった中国ロケの戦後一番乗りを勝ち取った記念すべき作品。
天平年間、日本仏教界の確立のために黄土に渡った四人の日本人青年僧の青春と、唐の高僧、鑒真和上の二十年の歳月をかけて渡日に成功するまでの苦難の道を描く。
中村嘉津男、浜田光夫、大門正明といった学僧陣もみなまだ若い。
当時は黄海を渡るのも命がけ。
印象的なのは、井川比佐志演ずる僧が、自分の写した経だったかが、嵐で海へ投げ出されてしまい、絶望して身を投げるシーン。
まさに文化を持ち帰ることの壮絶さを感じる。
「井上靖」の原作を 真面目に忠実に再現している。
お金も掛かっているのだろう。
遣唐使の船が 原寸大で建造されているのだ。
また中国現地洛陽・長安・揚州等各地への ロケーションも行われ その雄大な景色や敦煌の莫高窟等の仏像類も本物の迫力で迫ってくる。
今でこそ 日本海を簡単に行き来しているが、当時は かなり遠方の国だったのだ。
何度も暴風雨に見舞われ 散々なめに合わされ、命からがら 辿り着くという。
そんな命懸けの航海も厭わず、政治・法律・宗教・文化を習得するために出かけた先人の意欲にうたれる。
多くの中国人民から崇拝されていた「鑑真和上」という高僧が 依頼を受けたとはいえ 来日に何度も失敗しながらも来日の意欲を失わなかったことは称賛に値する。
鑒真和上(がんじんわじょう)(田村高廣)
唐招提寺の「鑑真和上像」
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