「アンダーグラウンド」
(英語:Underground)
1995年10月25日公開。
カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞。
ユーゴスラヴィアの戦後50年を描いた異色作。
監督: エミール・クストリッツァ
キャスト:
- マルコ - ミキ・マノイロヴィッチ
- ペタル・ポパラ"クロ" - ラザル・リストフスキー
- ナタリア - ミリャナ・ヤコヴィッチ
- フランツ - エルンスト・シュテッツナー
- イヴァン - スラヴコ・スティマツ
- ヨヴァン - スルジャン・トドロヴィッチ
あらすじ:
<第一部 戦争>
1941年、セルビアの首都ベオグラード。
ナチス・ドイツがユーゴ王国を侵略。策略家のマルコ(ミキ・マノイロヴィチ)は単純な電気工のブラッキー通称“クロ”(ラザル・リフトフスキー)を誘い、チトーの共産パルチザンに参加、ロビン・フッドまがいの活躍で義賊と評判になる。
マルコは弟で動物園の飼育係だったイヴァン(スラヴコ・スティマッチ)やクロの妻ヴェラ(ミリャナ・カラノヴィチ)たち避難民を、自分の祖父の屋敷の地下室にかくまう。
まもなくヴェラはクロの息子を産んで死ぬ。
クロは戦前から女優のナタリア(ミリャナ・ヤコヴィチ)と不倫の仲だが、彼女は独軍将校フランツ(エルンスト・ストッツナー)の愛人になった。
クロは公演中のナタリアをフランツの面前でさらい、結婚式を挙げる。
独軍はクロを逮捕、激しい拷問を行う。
クロはマルコらに救出されたが、誤って万が一の自決用に渡された手榴弾を暴発させて瀕死の重傷を負い、地下室に匿われた。
45年、終戦。
チトーを中心に共産主義のユーゴスラヴィア連邦が成立。
<第二部 冷戦>
61年。マルコはチトー政権の重鎮、ナタリアは彼の妻になっていた。
クロはマルコによってパルチザンの英雄として死んだことにされていた。
マルコは地下の人々を騙し、未だ独軍の占領下だと思わせて、武器を製造させ、外貨稼ぎのため外国に密売していたのだ。
クロの息子ヨヴァン(スルジャン・トドロヴィチ)の結婚式の日、密造戦車に乗ったイヴァンの親友のチンパンジーが誤って砲撃を始め、地下は大混乱。
その隙に外に出たクロとヨヴァンは何とクロ自身の映画の撮影現場に遭遇。
事態が把握できないクロはフランツ役の俳優を射殺。
混乱の中、ヨヴァンは井戸に落ちた花嫁を追ってドナウ河へ向かうが溺れて、川底で花嫁と再会。
マルコは陰謀の崩壊を悟り、両足を打ち抜いて偽装自殺をし、邸宅を地下室ごと爆破、欧州全土の地下を走る秘密高速道路に逃げ込んだ。
<第三部 戦争>
マルコの失踪でチトー政権は急速に人望を失い、30年後にユーゴスラヴィアは崩壊した。
92年、あの混乱で見失った親友の猿を探すうちに地下道路に迷い込んだイヴァンは、ベルリンの精神病院で兄マルコが悪名高い武器商人だと知らされる。
故国に帰還するもユーゴスラヴィアの国はすでになく、そこは激しい内戦の大地と化していた。
イヴァンはマルコが将校に武器を売っている所に出くわし、全ての罪の償いとして杖で兄を殴り倒すと、自らも教会で首を吊る。瀕死のマルコの元にナタリアが駆けつけるが、二人とも兵士に焼き殺される。
無線で殺害の命令を下したのは、今でも息子を探しつづけながら“ファシストの糞野郎ども”と闘うクロだった。
クロはかつての地下室を訪れ、井戸の中にヨヴァンの姿を見る。
次の瞬間、彼は水の中で最愛の息子に再会していた。
楽園のような川辺で、ヨヴァンの結婚式が楽しそうに行われている。
イヴァンがカメラに向かい「苦痛と悲しみと喜びなしには、子供たちにこう語りかけられない。
昔、あるところに国があった」と語りかける。
音楽がいつまでも楽しそうに鳴り響く中、宴の席はやがて大地を離れ、ドナウ河を漂っていく。
コメント:
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ問題など、旧ユーゴスラヴィアの混乱の戦後50年の歴史を綴る映像絵巻。
第二次世界大戦時のナチスによる空爆、チトー大統領によるユーゴスラビア時代、1990年代のユーゴ紛争までを描く。
主人公マルコは口八丁の悪漢。旧友のペタル・クロ・ポパラ、そして若き女優ナタリア。
マルコを主役にしたピカレスク・ロマンの形で長いユーゴの歴史を描く。
悪漢を主役にした事で引き起こされる悲喜劇は、ブレヒトの「三文オペラ」を思い起こさせる。
残酷さと笑いが共存する。
冒頭賑やかな吹奏楽団が馬車で登場する。
マルコはワルサーP38を乱射する。
小火器が市民に普及している国柄のため内戦が激化したとも言われている。
連合軍の空爆が激しくなりマルコはクロや彼の弟や妻達を地下室に避難させる。
そして戦争が終わっても隠して武器や戦車を作って金儲けを続ける。
マルコ自身はチトー政権の中で出世していく。
怪我をしたクロも地下室に収容し「戦時下」の生活を続けるがアクシデントで外への通路が開く。
外へ出たクロが出会ったのは第二次世界大戦当時のマルコやクロの様子を再現した劇映画の撮影現場。
ナチス役の俳優を射殺して現場は大混乱するという皮肉な場面が傑作。
時は移りユーゴ内戦。
マルコは武器商人になって戦争で金儲けをしている。
逆さになったキリスト像。焼け落ちる教会。繰り返される戦争。つらいユーゴの歴史。
表側だけでは分からない歴史の深層。
政治体制が変化しても変わらない支配構造。
監督は笑いの形でユーゴの歴史を描く。
本作品はユーゴスラビア内戦のさなかに制作された。
ユーゴスラビア史を概観したうえで、同時代での内戦まで描いていることからさまざまな側面から政治的要素が見出され、さまざまに解釈された。
積極的に「くに」の語を用いており、「失われた祖国」をユートピア的に扱っているように読める描写が多数ある。
また、そこでの「祖国」は独立した各共和国ではなく旧「ユーゴスラビア」全体を指すと受け取ることができる内容だった。
このことがヨーロッパで「大セルビア主義に近い観点から描かれている」との批判を引き起こした。
当時、セルビアは悪であるとの宣伝が有力だったことも関係している。
親セルビア的で大セルビア主義的であるとの批判は、クストリッツア監督の引退宣言の原因となった(後に取り消されたが)。
クストリッツァ自身はセルビア国籍を持ち、セルビア人の父とモスレム人の母をもち、自らは「ユーゴスラビア人」と名乗っている。
作品全般にわたり、ジプシー・ブラス系統の激しいブラスバンド演奏を中心にしたユーゴスラビア民族音楽、それにあわせた狂乱的な演技が散りばめられている。
日本におけるユーゴスラビア音楽ファンの増加に本作品は大きな影響を与えたといわれる。
本作品では実際の記録映像に主人公たちが紛れ込み登場するという合成カットが多用されており、1941年のナチス爆撃、1944年の連合軍爆撃、ユーゴスラビア共和国誕生、トリエステ紛争、チトー大統領の葬儀などのシーンで、当時の雰囲気を伝える貴重な映像を見ることが出来る。
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本作を持って、「欧州映画50+50」100作のレビューを終了する。
今後は、フランス、イギリス、イタリアの国別映画を特集する予定。