「お嬢さん」
1961年2月15日公開。
三島由紀夫の同名小説を映画化。
キャッチコピー:「お見合いなんて福引きよ! お嬢さんの素敵な冒険!」
原作:三島由紀夫「お嬢さん」
脚本:長谷川公之
監督:弓削太郎
キャスト:
- 藤沢かすみ:若尾文子
- 沢井景一:川口浩
- 花村チエ子:野添ひとみ
- 牧周太郎:田宮二郎
- かすみの父・藤沢一太郎:清水将夫
- かすみの母・藤沢かより:三宅邦子
- かすみの兄・藤沢正道:友田輝
- 正道の妻・秋子:中田康子
- 浅子:仁木多鶴子
- 紅子:中川弘子
- 女中・ヨシイ:宮川和子
- チエ子の母・貞代:平井岐代子
- 川上:北原義郎
あらすじ:
私(藤沢かすみ)(若尾文子)とおチエ(花村チエ子)(野添ひとみ)はそろって学校へ通う親友同士。
そしてそろそろ夢多き青春から結婚へのコースをたどっているようだ。
父(清水将夫)は会社の部長、母(三宅邦子)はその父に仕える平凡なそして良妻賢母型。
兄はすでに結婚して、素晴らしい奥さんと独立している。
しかし、父も母も私に対してお嫁入りの話など一向にしない。
だが、父の会社で働く三人のハンサム・ボーイがしょっちゅう家に遊びに来るのだ。
そしてどうやらこの三人の男性のうち二人は私に好意をもっているらしい。
そのうちの一人、牧さん(田宮二郎)という人が父の会社の専務を通じて私をお嫁さんにほしいといってきているが、父は私の自由な判断にまかせるといっている。
ところが実は私はもう一人の男性、景ちゃんこと沢井さん(川口浩)が好きになってしまったようだ。
ところがこの景ちゃん、大へんな色事師。
私の知っているだけでも、洋品店の売り子の浅子さん、小町芸者の紅子さんとなかなかにぎやか。
そんな景ちゃんにドラマチックな恋を感じるなんて、女心って不思議なもの。
でも景ちゃんの方も、そんな私のまえで女の子をひっかけて見せたり、けっこう純情なもんですね。
そんなこんなで、私たちは噴水のある公園のベンチでくちづけをかわして、一気に結婚にゴール・インした。
そしてわたくしたちは幸福になったのだろうか。
新婚旅行に紅子さんが現われたり、アパートに浅子さんが出現したり、波らん万丈。
そのうえ義理の姉さんとの間までうたがうなんて……。
あげくのはてに私の家出?
とまでなった騒ぎも、実は私の思いすごし。
やがておチエと牧さんも結婚するするだろうが、私も平凡な奥さんが身について来たようだ。
コメント:
原作となっているのは、三島由紀夫の同名の長編小説。
ドライで強気だったはずのうぶな女子大生のお嬢さんが、結婚を境に彼の女性関係に疑心暗鬼する女に変遷しながら、奥さんとして成長してゆく物語。
大企業の部長の娘・若尾文子が交際・結婚した父の部下の社員・川口浩の浮気疑惑に惑わされる姿をコミカルに描いている。
難しい題材が多い三島の作品の中ではめずらしいサラリーマン家庭の娘を描いたものとしても、異色の作品といえる。
若尾文子が若々しく、そして美しい。
若尾文子の鮮やかな衣装が次々と見られるだけでなく、物語も微笑ましく楽しい映画であり、観終わった後、とっても幸せな気分になる。
三島由紀夫原作とは思えない、明るく楽しいラブコメディ映画である。
空想癖のある女=かすみ(若尾文子)とおチエ(野添ひとみ)は結婚の在り方などに夢見る友人同士。
かすみは、やたらと「ドラマティックな展開」を期待し、おチエは女性雑誌などから得た知識をもって出会いを期待する。
おチエの『恋愛は精神的なストリップ』というセリフは粋であり、面白い。
かすみは沢井景一(川口浩)と付き合い始めるが、景一の女遊びを心配する妄想。
公園での、景一とかすみのファーストキスの場面、若尾文子の「手の演技」が素晴らしい。
また、やはり川口浩と若尾文子が主演だった『永すぎた春』に引っ掛けて、川口浩演じる景一に「永すぎた春、なんてぞっとしますからね」と言わせたあたり、若尾文子ファン向けのセリフのように聞こえた。
スケートをする場面では、野添ひとみの恋愛相手=牧(田宮二郎)も出てきて、4人でスケート。
いつもの大映メンバーが揃う。
この作品、セリフがけっこう秀逸で「ええ、川上さんってとってもいい人よ。地球と取りかえてもいいぐらいよ」とか、若尾文子にむかって「顔中、あなたの写真だらけよ」など、楽しくなる。
結局、「ドラマティック」を望んだかすみ(若尾文子)も、「静かで平和な生活がいいわ」→(川口浩)「君も案外平凡な女なんだね」→(若尾文子)「平凡な女ね」で終わる。
三島由紀夫の原作中には、恋愛模様を描いた娯楽的な趣の中にも、メタフィクションの試みが見られる。
メタフィクションというのは、それが作り話であるということを意図的に読者に気付かせることで、三島由紀夫ならではの技法である。
ヒロインの揺れ動く心理の変化に伴って人物間の関係性が入れ替わる様子が描かれ、最も見下していた相手から最後に救われるというアイロニーの効いた作品となっている。
原作のこういった特徴を映画でもうまく表現させており、異色の作品になっている。
この映画は、レンタルも動画配信も見当たらない。
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