「永すぎた春」
1957年5月28日公開。
婚約から結婚までの若き男女のモラルを描くラブストーリー。
三島由紀夫のベストセラーの映画化。
原作:三島由紀夫「永すぎた春」
脚本:白坂依志夫
監督:田中重雄
キャスト:
- 木田百子:若尾文子
- 宝部郁雄:川口浩
- 木田東一郎:船越英二
- 木田敬三:花布辰男
- 木田むつ:滝花久子
- 宝部之一:見明凡太朗
- 宝部之一夫人:沢村貞子
- 木田一哉:入江洋佑
- 宮内一平:北原義郎
- 高倉竜二:川崎敬三
- 本城つた子:角梨枝子
- 浅香千鶴子:八潮悠子
- 浅香あき:村田知栄子
- 春吉:伊藤直保
- きくえ:如月敏子
- おはま:村田扶実子
- 中座:守田学あらすじ:
あらすじ:
郁雄と百子は婚約した。
会社の重役をしている郁雄の家と古本屋の百子の家の格式の違いを郁雄の両親は最初問題にしていたが、大学を卒業してから結婚するという条件で郁雄は説き伏せた。
二人は清い関係で、結婚まではそれで満足だった。
しかし、二人の間柄が公認されすぎると、何か物足りなさを感じ出したのも事実である。
そうした時、第一の危機が来た。
試験が終ったある日、郁雄は友人の画家・高倉の個展で商業デザイナー本城つた子と知り合った。
始めのうちは郁雄もつた子を女として意識しなかったが、抑圧されている自分の性を結婚までの間、つた子によって満たそうと考えはじめた。
或る夜、郁雄はつた子のアパートを訪れた。
しかしそこに親友の宮内が百子を連れて来た。
宮内は郁雄にこの対決を迫る。
無論、郁雄は百子を選んだ。
百子は郁雄の浮気を許しはしたが、自分を求めてくれなかったことが淋しかった。
そして郁雄に何時でも体を許すと告げるが、郁雄はやはり恐しかった。
百子の兄・東一郎が盲腸で入院し、附き添い看護婦の浅香千鶴子と親しくなった。
千鶴子の母あきは貧困からすっかりひねくれてしまった女だった。
ブルジョア階級への嫉妬から、百子に野望を抱いていた高倉に彼女を取り持って、百子を堕落させようと計ったが、百子の機転で事なきを得、反対に東一郎と千鶴子の仲は終りをつげる羽目になった。
しかしこれは同時に、郁雄と百子をしっかり結びつけることとなった。
二人はもはや卒業までの半年を待たなかった。
その結婚式の半ば、試験場に駈けつける郁雄と、ウエディング・ドレスのまま彼を送って行く百子の姿があった。
コメント:
原作は、1956年(昭和31年)、雑誌『婦人倶楽部』1月号から12月号に連載された三島由紀夫の同名長編小説。
単行本は同年12月25日に大日本雄弁会講談社(現・講談社)より刊行され、15万部のベストセラーとなった。
映画は、その翌年公開されている。
元々三島の初期短編を読み、ファンになった大映の企画部にいた藤井浩明は、大映に入社し同じ部に後から入ってきた中島源太郎から、「三島由紀夫の『永すぎた春』って面白いですよ」と提案され、すぐに映画化を企画した。
藤井はその企画の件で三島の自宅を初めて訪問し、それ以来いくつもの三島作品の映画制作に携わり、長きにわたる付き合いとなったのであった。
映画『永すぎた春』は、従来の日本の娯楽映画と違った「もっとスマートでもっと垢抜けた」映画にしようと、「当時かなり粋がって」製作した作品だと藤井は語っている。
大映多摩川撮影所で行われた撮影風景を三島も1957年(昭和32年)4月に見学に行っているが、その時ちょうど熱海の別荘のパーティーのシーンで出演者たちがダンスをしていたため、「ほう、僕も今まで何度か撮影所に来たけど、こんな楽しそうに撮影しているのを見たのは初めてですよ」と三島は言い、初対面の川口浩や若尾文子らと意気投合していたという。
これは、会社重役を父に持ち一流大学に通う男と、その大学近くにある古本屋の娘との、家柄の違いを背景にしたラブストーリーである。
おおげさにいうと、身分違いによる常識の違い、言葉遣いの違いなども交えた世の中の様子も垣間見れる作品である。
当時は、婚約してから結婚までは、男女の愛は一線を越えてはならぬというしきたりが常識だった。
そのために愛し合いながらも、キスまでしかできないため、欲求不満に陥る彼氏が多かったようだ。
それを題材をしたのが本作である。
タイトルの「永すぎた春」は、この小説と映画のヒットにより、当時の流行語になったのである。
原作は、身分違いの二つの家族であるが故のとんちんかんな応対やトラブルが細かく描かれていて、なかなか楽しいコメディになっている。
映画では、若尾文子が初々しいお嬢さんとして明るく演技していて、最高にハッピーな作品だ。
この映画のDVDは、レンタルされていない。
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