「アマデウス」
(原題:Amadeus)
1984年9月19日公開。
若くして逝った天才音楽家・アマデウス・モーツァルトと彼のライバルの謎にみちた生涯を描く。
興行収入:$51,973,029。
受賞歴:
アカデミー賞 作品賞、監督賞、主演男優賞、脚色賞、美術賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ賞、音響賞の8部門。
英国アカデミー賞4部門。
ゴールデングローブ賞4部門。
ロサンゼルス映画批評家協会賞4部門、
日本アカデミー賞外国作品賞。
脚本:ピーター・シェーファー
監督:ミロス・フォアマン
キャスト:
ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト:トム・ハルス
アントニオ・サリエリ:F・マーリー・エイブラハム
神父フォーグラー:リチャード・フランク
オベラ歌手・カテリナ・カヴァリエリ:クリスティン・エバソール
妻・コンスタンツェ:エリザベス・ベリッジ
父・レオポルド:ロイ・ドートリス
あらすじ:
1823年11月、凍てつくウィーンの街で1人の老人が自殺をはかった。
「許してくれモーツァルト、おまえを殺したのは私だ」、老人は浮わ言を吐きながら精神病院に運ばれた。
数週間後、元気になった老人は神父フォーグラー(リチャード・フランク)に、意外な告白をはじめた。
--老人の名はアントニオ・サリエリ(F・マーリー・エイブラハム)。
かつてはオーストリア皇帝ヨゼフ二世(ジェフリー・ジョーンズ)に仕えた作曲家だった。
神が与え給うた音楽の才に深く感謝し、音楽を通じて神の下僕を任じていた彼だが、神童としてその名がヨーロッパ中に轟いていたウォルフガング・アマデウス・モーツァルト(トム・ハルス)が彼の前に出現したときその運命が狂い出した。
作曲の才能は比類なかったが女たらしのモーツァルトが、サリエリが思いよせるオベラ歌手カテリナ・カヴァリエリ(クリスティン・エバソール)に手を出したことから、彼の凄まじい憎悪は神に向けられたのだ。
皇帝が姪の音楽教師としてモーツァルトに白羽の矢を立てようとした時、選考の権限を持っていたサリエリはこれに反対した。
そんな彼の許へ、モーツァルトの新妻コンスタンツェ(エリザベス・ベリッジ)が、夫を音楽教師に推薦してもらうべく、音譜を携えて訪れた。
コンスタンツェは苦しい家計を支えるために、何としても音楽教師の仕事が欲しかったのだ。
フルートとハープの協奏曲、2台のピアノのための協奏曲…。
譜面の中身は訂正・加筆の跡がない素晴らしい作品ばかりだった。
再びショックに打ちのめされたサリエリは神との永遠の訣別を決意した。
神はモーツァルトの方を下僕に選んだのだ。
ある夜の、仮面舞踏会。
ザルツブルグから訪れた父レオポルド(ロイ・ドートリス)、コンスタンツェと共に陽気にはしゃぎ回るモーツァルトが、サリエリの神経を逆撫でする。
天才への嫉妬と復讐心に燃えるサリエリは、若きメイドをスパイとしてモーツァルトの家にさし向けた。
そして復讐のときがやってきた。
皇帝が禁じていたオペラ「フィガロの結婚」の上演をモーツァルトが計画したのだ。
サリエリがスパイから得た情報を皇帝に密告したとも知らず、モーツァルトはサリエリに助けを求める。
それを放っておくサリエリ。
やがて父レオポルドが死んだ。
失意のモーツァルトは酒と下品なパーティにのめり込んでいく。
そして金のために大衆劇場での「ドン・ジョバンニ」作曲に没頭していくモーツァルトに、サリエリが追い打ちをかける。
変装したサリエリがモーツァルトにレクイエムの作曲を依頼したのだ。
金の力に負けて作曲を引き受けるモーツァルトだが、精神と肉体の疲労は想像以上にすさまじく、「魔笛」上演中に倒れてしまう。
コンスタンツェが夫のあまりの乱行に愛想をつかし旅に出てしまったために無人になった家に、モーツァルトを運び込むサリエリ。
仮装した彼は衰弱したモーツァルトにレクイエムの引き渡しを迫る。
サリエリは作曲の協力を申し出て、一晩かかってレクイエムを仕上げさせるが、翌朝、サリエリが強いた過酷な労働のためか、モーツァルトは息を引きとった。
モーツァルト35歳、1791年12月のことだった。
すべてを告白し、いまや老いさらばえたサリエリひとりが、惨めな生を生きるのだった。
コメント:
ピーター・シェーファーの同名戯曲が原作である。
モーツァルトを同時代の作曲家サリエリの目を通して描いた伝記で、モーツァルトのウィーン時代を中心に描かれる。
モーツァルトの死因についてサリエリの毒殺説があって、本作はこの噂を基にしながらも、実はサリエリはモーツァルトを嫉妬・羨望とともに崇拝していたのであって、衰弱するモーツァルトにレクイエムを書かせて死に追い込みはしたものの、殺したわけではないという物語になっている。
本作はフィクションだが、モーツァルトとサリエリの関係に新たな解釈を行って、公開当時話題になった。
とりわけモーツァルトの軽佻浮薄ぶりが印象的だが、その実、ドイツ語でオペラを書いたり、オーストリア皇帝ヨーゼフ2世が禁止する『フィガロの結婚』を上演するなど、音楽界・宮廷の権威主義を否定して、オペラや音楽に自由な風を吹き込んでいく人物像をトム・ハルスが演じる。
本作の大きな見どころは、『後宮からの誘拐』『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『魔笛』のハイライトの華やかなオペラシーンが描かれていることで、撮影に使われたプラハのスタヴォフスケー劇場と併せて見応えがある。
マリナー指揮、アカデミー室内管弦楽団の演奏も聴きどころの一つである。
アカデミー賞を受賞した美術・衣装デザイン・メイクアップも絢爛豪華で、18世紀のウィーンにトリップできる。
作品のテーマは、世に天才と凡人を造り出す神の不公平であり、中でもサリエリの最大の不幸はモーツァルトの天才を見抜く目を持つ凡人であったことにある。
サリエリの才能はオーストリア皇帝によって認められはしたが、モーツァルトは凡人の皇帝ではなく神によって認められ祝福されたのであり、天才だけに注がれた神の恩寵を知ったサリエリは、それゆえに神への信仰を捨てる。
モーツァルトに体現された神の奇跡への歓喜・祝福への嫉妬と羨望がついに彼を死に追いやるサリエリという男を、F・マーリー・エイブラハムが好演し、アカデミー主演男優賞を受賞している。
単純にモーツァルトの音楽鑑賞の作品とはしないで、ライバルの立場から見た世界を描いているところが素晴らしい。
どんな世界にもこれと似た人間の優劣から起こってくる激しい嫉妬や復讐心はあるだろう。
天才音楽家の人生を人間ドラマに仕立てた名作である。
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