「北斎漫画」
1981年9月12日公開。
葛飾北斎とその娘を中心にした浮世絵師のドラマ。
配給収入:4.2億円。
原作:矢代静一(『北斎漫画』より)
監督・脚本:新藤兼人
キャスト:
- 鉄蔵(葛飾北斎):緒形拳
- 左七(曲亭馬琴):西田敏行
- お栄(葛飾応為(鉄蔵の娘)):田中裕子
- お直:樋口可南子
- お百(左七の女房):乙羽信子
- 十返舎一九:宍戸錠
- 式亭三馬:大村崑
- 歌麿:愛川欽也
- 狩野融川:観世栄夫
- 中島伊勢:フランキー堺
- 彫師:殿山泰司
- お品ばばあ:今井和子
- 刷師:森塚敏
- 蔦屋重三郎:大塚国夫
- 番頭:戸浦六宏
- 岡っ引き:梅津栄
あらすじ:
鉄蔵(緒形拳)と娘のお栄は左七の家の居候になっている。
鉄蔵は、貧しい百姓の生まれだが、幼時、御用鏡磨師、中島伊勢の養子となった。
巧みに絵を描くので、絵師の弟子となるが、尻が落ちつかず、幾人もの師から破門された。
一方、左七(西田敏行)は侍の生まれたが、読本作家になりたいと志し、下駄屋の養子に入り込んだ。
左七の女房・お百(乙羽信子)は、亭主が黄表紙本などを読むのを心よく思っておらず、さらに、朝から晩まで絵を描いている居候の父娘に我慢がならない。
そんなある日、鉄蔵はお直(樋口可南子)という女に出会った。
鉄蔵は一目でお直にのめり込み、彼女を描くことで、つき当っている壁を破ろうとするが、不思議な魔性に手応えがない。
鉄蔵はお直を養父・伊勢に紹介することで、彼女と別れ、また金もせびることにした。
その伊勢も、お直の魔性にとり憑かれ、首をくくって死んでしまう。
その頃、お百が死んだ。
そして、間際に、立派な作者になってくれ、滝沢馬琴という名は良い名だと言い残す。
左七はせきを切ったように書き始めた。
たちまち流行作家となった。
父・鉄蔵と長屋暮しをしているお栄(田中裕子)は左七を訪ね、読物の挿し絵を父に描かせて欲しいと頼む。
左七は喜んで引き受けた。
鉄蔵が北斎の名で描いた絵は評判になり、放浪の旅で「富嶽三十六景」が生まれた。
そして、北斎は八十九歳、お栄は七十歳、馬琴は八十二歳となった。
ある日、お栄がお直と瓜二ツの田舎娘を連れてきた。
「お直ッ」と叫ぶ北斎。
馬琴は失明しかけているが、お直と娘を混同することはなかった。
そこで「俺の絵でお前は有名になった」と馬琴に話す父に、お栄は「あたしか左七さんに頼んだんだ。一生嫁に行かなかったのも、父やんのためじゃない、左七さんのためだ」と告白する。
そこで馬琴は「あんたに結婚を申し込む」と大見栄を切った。
一人になった北斎は“お直”を裸にすると、一気に描き始めた。
巨大な蛸が、裸女に絡みつき、犯している図だ。
かくして、傑作「喜能会之故真道」の蛸と海女の濡れ場の図が出来上がった。
馬琴が亡くなった。
そして、北斎も亡くなった。
二人の辞世にお栄は「死ぬときゃ、誰でも、ていさいのいいこと言い残すもんだ」と咳いた。
お栄の顔に涙が流れた。
その顔は、北斎の描いた赤富士のように、異様な、美しさと悲しみをたたえていた。
コメント:
新藤兼人が監督・脚本を担当した異色作。
新藤は、浮世絵に人生を賭ける葛飾北斎の一途な生き様に惹かれ、そのミステリアスな創作過程に興味津々となる。
そして、生の根源たる性を描くことで、人間存在の本質に迫ろうとした。
浮世絵を描くエピソードがたくさん盛り込まれた楽しい作品だが、何といっても話題になったのは、樋口可南子が大ダコと演じた全裸の濡れ場だ:
この頃の樋口可南子は、全裸が当たり前というくらい、思い切ったヌードを披露していて気持ちが良い。
こういう特攻精神があって映画は成り立つのだという信念があったのだろう。
今の若い女優にも後に続いて欲しいものだ。
「大ダコ」の浮世絵:
「富嶽三十六景」:
この映画に興味を持った外国人が、YouTubeに「江戸の春画」というタイトルで葛飾北斎の作品と共にこの映画の一部を掲載していて、非常に興味深い:
英語のナレーションは意味が分からなくとも、映像は理解できるので問題ない。
「Shunga」という言葉が聞き取れる。
この映画は、Amazon Primeで動画配信中: