「フィツカラルド」
(原題:Fitzcarraldo)

1982年3月4日西ドイツ公開。
南米ペルーの密林にオペラ・ハウスを建設しようと試みる男を描く。
第35回カンヌ国際映画祭監督賞受賞。
興行収入:DM14,000,000。
監督・脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク
キャスト:
- ブライアン・スウィーニー・フィツジェラルド(フィツカラルド):クラウス・キンスキー
- モリー:クラウディア・カルディナーレ
- ドン・アキリノ:ホセ・レーゴイ
- パウル船長:パウル・ヒットシェル
- チョロ機関士:ミゲル・アンヘル・フエンテス
- 料理人ウェレケケ:ウェレケケ・エンリケ・ボホルケス
あらすじ:
19世紀末の南米。ブラジルのマナウスのオペラ・ハウスで、有名なオペラ歌手エンリコ・カルーソが公演をした。
彼の公演を聞こうと、ペルーのイクイトスからボートをこいでやって来たフィツカラルド(クラウス・キンスキー)とモリー(クラウディア・カルディナーレ)。
やっとのことで会場にもぐり込んだフィツカラルドは、モリーとともに目を輝かせてカルーソのテノールに聞きいった。
フィツカラルドはアイルランド出身で、本名はブライアン・スウィーニー・フィツジェラルド。
しかし、インディオたちには発音が難しくて、フィツカラルドが通り名になっていた。
イクイトスの粗末な水上小屋に住みながら、この未開の地に文明の光をあてることを夢みていた。
今は氷屋をやっているが、昔、アンデスに鉄道を敷設しようとして中途で破産するといった経歴の持主で、白人社会では彼のことを奇人とみなしていた。
唯一の理解者は娼家の女将である愛人モリーで、彼女の他にインディオの子供たちも彼を慕っている。
カルーソを聞いて感動したフィツカラルドは、イクイトスにオペラ・ハウスを建てようと決意した。
しかし、この破天荒な夢を実現するには、莫大な金が必要だ。
ゴム・ブームで儲けた成金たちに頼むが、相手にされない。
そこで、彼が選んだのは、前人未踏のジャングルを切り拓いてゴム園を作り、金を稼ぐという方法であった。
土地の購入資金と川をのぼる中古船を買う金はモリーが出してくれた。彼はパウル船長(パウル・ヒットシェル)、料理人ウェレケケ(ウェレケケ・エンリケ・ボホルケス)、機関士チョロ(ミゲル・アンヘル・フェンテス)らを雇う。
チョロは船を売ってくれたゴム成金ドン・アキリノ(ホセ・レーゴイ)のよこした目付役だ。
愛人の名前を取って“モリー号”と命名された船は修理を終えて出航した。
彼のゴム園用地は急流で途中に激しい瀬のあるウカヤリ川上流にあった。
だから、船で直接行くことはできず、今まで用地が売れていなかったのもそのためだ。
彼は船をパテリア川に進めるよう船長に命じる。
途中、中断されたままの鉄道の駅に寄り、レールをはずして船に積み込む。
船が進むにつれて乗り組み員が動揺し始める。
無理はない。
ここらは首刈り族の土地だからだ。
フィツカラルドは操舵室の屋根の上に蓄音機をおき、レコードをかける。
密林の静寂を破って、カルーソのテノールが流れる。
やがて、インディオたちが姿を現わした。
彼らは、川に巨大な樹木をなぎ倒して行く手と退路をたつと、続々と船に乗り込んで来た。
奇妙なことに、彼らはフィツカラルド一行に手を出さなかった。
フィツカラルドは彼らに計画を打ち合けた。
計画とはパテリアとウカヤリが最も接近したところで、船を川からあげて山越えしてウカヤリ川におろそうというものだ。
酋長(D・P・エスピノサ)は協力しようという。
目的地につき、レールをおろす。
ジャングルを切り拓き、小高い所をダイナマイトで爆破して、滑車でモリー号を引っぱりあげる。
死人も出て、インディオの間に不穏な空気が流れたこともあった。
七ヵ月後、ついに船はウカヤリ川に浮んだ。
祝杯に酔い知れたフィツカラルドたちが寝ているすきに、インディオたちはモリー号を激流に放った。
彼らは激流の荒ぶる魂を静める儀式を行うために協力したのだ。
こうしてモリー号は木の葉の如くに流されながら、なんとかイクイトスにもどった。
フィツカラルドの計画は水泡に帰したが、彼はモリー号をドン・アキリノに売り、その金でオペラ一座をやとい、一度だけの船上オペラを上演した。
インディオ、白人、モリーたちの驚く顔をみながら、フィツカラルドは自己陶酔と狂気と誇りのないまぜになった表情をしている。

コメント:
作品のキャラクターと俳優のイメージがピッタリあっていてこれがいい。
19世紀のペルー。
隣の国・ブラジルのマナウスでみたオペラに感動したフィツカラルドが「陸の孤島」と言われる地元にオペラハウスを作ろうと奮起。建設資金を調達するためゴム採取で一儲けすることを画策する。
しかし、アマゾン奥のゴム林は大型船が遡上不能の急流が存在しており、船がつけられない。
そこで、反対側の川から山を越えて船を引っ張り上げて、急流の上流に降ろそうと試みる。
この大型船の山越えシーンが何ともすごい。実際の物でおそらく撮影しているはずなので、その迫力は半端ではない。
協力してくれた現地人の思惑(船を急流に捧げて、荒ぶる川を鎮めようとしていたことが後になってわかる)と、フィツカラルドの目的が全く違っていたため、最後はフィツカルドの船が急流に叩き込まれ収穫もないまま船が大破することとなる。

夢破れたかもしれないが、全部を失ったわけではないほっこりするようなラストがうれしい。
船上で奏でるオペラ公演をみて、満足するフィツカラルドが晴れやかで、素晴らしい。

この壮大な夢はフィクションなのだが、ブラジルの長期ロケ、先住民の撮影参加でドキュメンタリー映画に化ける。
先住民が大挙して宗教的な情念で、船を山に上げる。
不毛とも思われる試み、不慮の死亡事故。
それでもフィツカラルドとは縁のない神と悪霊の間で力を尽くす。
それが映画の中に至上の画を提供した。
これほどの様々な喚起力を持つ画はない。
山登りのシークエンスだけでも名画の域に達する。
本作を制作したヴェルナー・ヘルツォークは、ドイツを代表する映画監督・脚本家・オペラ映画監督。
代表作は、『アギーレ/神の怒り』、『カスパー・ハウザーの謎』、『ノスフェラトゥ』、『ヴォイツェク』、『フィツカラルド』。
この映画は、今ならYouTubeで全編無料視聴可能(英語)。
この映画は、TSUTAYAでレンタルも購入も可能:
やはりジャングルの奥で王国を築いた1979年の「地獄の黙示録」のカーツ大佐や、コンラッドの
「闇の奥」でのクルツの象牙王の影響がある。フィツカラルドの方が陽気で、ビフォア・クルツの趣が
ある。もう一つ、フィツカラルドを動かすイキトスでのゴム事業の活況がある。アマゾンの上流で都市で、
ジャングルに囲まれ陸路から到達できない都市とされている(Wiki)。アマゾンの水路か航空便となる。
ここがゴムの木の産地で19世紀末から20世紀初めまでゴム産業が隆盛し、世界中から人を集めた。
つまりゴールド・ラッシュだ。そこで鉄道事業に失敗したフィツカラルドが、オペラハウス誘致の夢を見る。
そこにはバブル景気のイキトスの熱が伝染している。普通の男の普通の夢でないことは、世界史に
いきなり躍り出て、マレーシアの台頭で、あっという間にその地位を奪われたイキトスの歴史の光と影
になっている。人間を描き、アマゾンを活写し、歴史を語る、映画そのものの構えが大きい。
