「摩天楼を夢みて」
(原題:Glengarry Glen Ross)
1993年9月4日公開。
ニューヨークの不動産業界を舞台に、不動産セールスマンたちの姿を描く人間ドラマ。
興行収入:$10,725,228。
脚本:デビッド・マーメット
監督:ジェームズ・フォリー
出演者:
アル・パチーノ 、 ジャック・レモン 、 アレック・ボールドウィン 、 エド・ハリス 、 アラン・アーキン 、 ケビン・スペイシー 、 ジョナサン・プライス 、 ジュード・チコレッラ
あらすじ:
シェリー・レーヴィン(ジャック・レモン)はかつては成績優秀な不動産セールスマンだった。
しかし今は娘の入院やツキがないやらで、成績不振。
リッキー・ローマ(アル・パチーノ)は今やミッチ&マレー社でトップの敏腕セールスマン。
押しの強さと巧みな話術でつぎつぎと契約をモノにしていた。
彼らの稼ぎは成績次第で、成績優秀者には優良願客情報が与えられるが、他の者は最初からクズのような資料しか与えられない。
その日の戦略会議はいつもと違っていた。
成績トップのローマを除いた同僚のセールスマン、モス(エド・ハリス)と、アーロナウ(アラン・アーキン)、そして支店長ウィリアムソン(ケヴィン・スペイシー)を前にして、本社からやって来た幹部ブレイク(アレック・ボールドウィン)が立っていた。
彼は成績不振の3人を罵倒し、月間成績トップの者と2位の者以外は解雇すると言った。
追いつめられたレーヴィンは支店長に優良顧客名簿を見せてくれればリベートを払うともちかけるが一蹴される。
モスとアーロナウの今日のセールスも無駄足に終わった。
2人は会社に復讐しようと決意し、高級リゾート地グレンガリー高原の顧客名簿を盗み、ライバル社に流そうと考えた。
同じ頃ローマはバーでジェームズ・リンク(ジョナサン・プライス)という男に人生論を語っていた。
うまく商談に持ち込み、巧みに契約に取りつけた彼だったが、翌朝出社すると、オフィスの前にパトカーが止まっており、警官が盗難があったと告げる。
グレンガリーの名簿が盗まれたのだ。
4人のセールスマンたちは一人一人警察の取り調べを受ける。
そんな時、ローマが契約したリンクがキャンセルしたいと言ってくる。
レーヴィンは幸運にも契約を取ることができてゴキゲンだったが、金庫の中のリンクの小切手のことをうっかりしゃべってしまう。
このことから犯人はレーヴィンであることが分かり、モスが共犯者であることも明らかになるのだった。
コメント:
ピューリッツァー賞受賞のデヴィッド・マメットの戯曲が原作。
元々が舞台劇であって、登場人物たちはマシンガンのように喋りまくっている。
彼らの設定が不動産のセールスマンだけあって、セリフの圧倒的な量にも違和感はない。
むしろ、その多めのセリフこそが登場人物たちの世界観を見事に表しているのだ。
セールスマンの仕事の過酷さが伝わるシークエンスが前半にある。
本社からやってきたブレイク(アレック・ボールドウィン)が売り上げ成績3位以下の者はクビにするという通達をセールスマンに伝える。
その用件を冷静に伝えるのではなく、セールスマンたちのプライドを砕くような罵倒ともとれるセリフを駆使した演技には脱帽。
セールスマンたちが追い詰められた状況にいるのが、嫌になるほど伝わってきました。
どうしても売り上げが欲しい。
自分の会社には不満はあるが、家族もいるのでクビになるわけにはいかない。
売るためには優良顧客の情報が必要。
そのネタは会社が握っている。
そこで支社長のウィリアムソン(ケビン・スペイシー)に良いネタをくれるように、セールスマンたちは頼むのだが…。
良いネタは成績の良い者にしか与えられないとウィリアムソンは突っぱねた。
競馬やF1と同じように強い者が、良い馬や車を与えられるのだ。
過酷な競争の世界だ。
ジャック・レモン、アル・パチーノ、エド・ハリス、アラン・ラーキン、ケヴィン・スペイシー、ジョナサン・プライスなど豪華キャストが同じ画面に映っているだけで大満足の1本。
もとが舞台劇のため、画面としてはそこまで動きがないが、役者さんたちのセリフ量の多さでその場その場でマウントを取り合うパワーゲームを堪能できた。
4人いるセールスマンの中で一番の悲哀を感じさせたのが、レーヴィン(ジャック・レモン)。
演じたジャック・レモンの長いセリフの中での強弱のつけかたは見事。
ジャック・レモンは当時57歳。
この俳優は、1973年公開の『セイブ・ザ・タイガー』でアカデミー主演男優賞を受賞し、世界三大映画祭のすべての男優賞を受賞した俳優でもある。
代表作は、『ミスタア・ロバーツ』(1955年)、『お熱いのがお好き』(1959年)、『アパートの鍵貸します』(1960年)、『あなただけ今晩は』(1963年)、『セイブ・ザ・タイガー』(1973年)。
ウィリアムソンとの顧客ネタでの交渉も、最大限自分に有利にしようとする演技は必死さが滲み出ている。
しかし弱い立場にいる以上は、ウィリアムソンに屈するしかない絶望感ある表情も落胆がよく伝わる。
敏腕セールスマンのローマを演じたアル・パチーノの演技が見事。
自信に溢れたセールストークがあったからこそ、逆にレーヴィンを演じたジャック・レモンの悲哀溢れた演技を引き立てた。
物語後半は事務所が何者かに荒らされて、警察を呼び犯人探しが始まる。
ここでの言葉の応酬と騙し合いは、レーヴィンが悪であることを示唆している。
しかし、この人物は憎めない男であるとほとんどの方が思う。
レーヴィンが事務所を荒らしたかが問題ではなく、生き延びるための男の哀愁こそが本作の見所で、ラストは心に沁みる。
これまでのアル・パチーノの作品とは打って変わって、やり手のセールスマンの生き様を描く作品であり、彼の新たな役者の横顔が見れる作品になっている。
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