「おらおらでひとりいぐも」
2020年11月6日公開。
突然夫に先立たれひとり退屈な日々を過ごす75歳の女性を描く。
興行収入:1億2506万円。
原作:若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」
監督・脚本:沖田修一
主題歌:ハナレグミ『賑やかな日々』
キャスト:
- 現代の桃子:田中裕子
- 昭和の桃子:蒼井優
- 周造:東出昌大
- 寂しさ1:濱田岳
- 寂しさ2:青木崇高
- 寂しさ3:宮藤官九郎
- 桃子の娘:田畑智子
- 警官:黒田大輔
- 医師:山中崇
- 車メーカーの営業:岡山天音
- 桃子の同僚:三浦透子
- 桃子の心の声「どうせ」:六角精児
- 桃子のばっちゃ:大方斐紗子
- 図書館の司書:鷲尾真知子
あらすじ:
桃子(田中裕子)は1964年に故郷を飛び出し、身ひとつで上京。
それから55年。
同じ方言を話す周造と出会い、結婚して主婦となり、2人の子供を育て、やっと夫婦水入らずの平穏な日々が送れると思った矢先に突然夫に先立たれ、独りになる。
図書館で本を借り、病院へ行き、46億年の歴史ノートを作る孤独な日々を送るうちに、桃子は万事に問いを立ててその意味を探求するようになる。
すると、桃子の前に彼女と同じ服装の3人組が突然現れる。
「おらだばおめだ」と東北弁を話す彼らは、桃子さんの心の声を具現化した『寂しさ』たちだった。
桃子の心の声である『寂しさ』たちがジャズセッションに乗せて故郷の言葉で内から外に湧き上がってくるようになっていった。桃子の毎日は現在と過去を行き来し、いつのまにか『寂しさ』たちとの賑やかなものに変わっていく。
コメント:
原作は、若竹千佐子の同名の小説。2017年11月17日に河出書房新社から刊行された。
第54回文藝賞、第158回芥川龍之介賞を受賞。
2018年2月時点で累計発行部数は50万部を突破。
独居老人となった桃子さん(田中裕子)の心象風景を映像化。
そもそも彼女は独居しているから、会話をする相手が居ない。
部屋の中を黙々と動き回るだけでは物語を紡げない。
でも、考えたり思ったりすることはある。そこで彼女の分身として寂しさ1,2,3(濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎)が主人公のそばに登場して何かと彼女を構う事で独居老人の感情を映像にしていくという展開になっている。
桃子さんの内心を映像化するもう一つの手法として、これも古典的な手法なのだが、若い時の桃子さん(蒼井優)や亡夫(東出昌大)を登場させたり、娘(田畑智子)や孫娘を登場させる。
若い頃を演じる蒼井優が良い。
確かにイメージ的に近いところがあって、これは良いキャスティングである。
因習から逃れて故郷を出た主人公が子供たちが独立し、夫にも先立たれ、やっとひとりでやっていく生活に辿り着いた。
ひとりになって、寂しさと向き合いながらも、それにも増して自由を横溢した日常をマイペースで楽しんでいる。
自立を目指すために故郷から離れて根っこを棄てたと本人は言っているが、内心の核になる部分に方言が居座っているのも深層心理を描いて意味深である。
巧みな構成でまとめ上げている。
最後に、離れて暮らす娘の家から幼い孫娘がひとりで主人公を訪ねてくる。
この孫娘が、祖母への愛着とか人の心の優しさをあぶり出して、ほのぼのとした後味の良さを醸し出すことに成功している。
安らかでほんわかした佳作である。
こういう作品は、田中裕子にとっても初めてだ。
高齢化社会が進む中でこういう安心できる映画が出てきたことは嬉しい。
本作のタイトルである『おらおらでひとりいぐも』は、宮沢賢治の詩『永訣の朝』からとられた言葉だという。
原文では、ここの部分だけ「Ora Orade Shitori egumo」とローマ字になっているという。
これは、 “わたしはわたしでひとりでいく”という意味なのだ。
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