「かくも長き不在」
(原題:Une aussi longue absence)
1961年5月17日フランス公開。
1964年8月14日日本公開。
戦争で生き別れた男女の悲しみを描く秀作。
1961年 第14回 カンヌ国際映画祭 パルム・ドール受賞。
1964年キネマ旬報外国映画第1位。
脚本:マルグリット・デュラス、ジェラール・ジャルロ
監督:アンリ・コルピ
主題歌:「三つの小さな音符」(作詞:アンリ・コルピ、作曲:ジョルジュ・ドルリュー、歌:コラ・ヴォケール)
出演者:
アリダ・ヴァリ 、 ジョルジュ・ウィルソン 、 ジャック・アルダン 、 シャルル・ブラヴェット |
あらすじ:
テレーズ(アリダ・ヴァリ)は、セーヌの河岸に近い、“古い教会のカフェ”の女主人。
貧しい人々の憩の場である。
しっかりものと評判高かったが、女盛りを独り身で過ごしたのだ。
運転手のピエール(ジャック・アルダン)の親切にほだされるのも無理からぬことだった。
彼女が、朝と夕方、店の前を通る浮浪者(ジョルジュ・ウィルソン)の姿に目をとめたのは、そんなある日だった。
十六年前、ゲシュタポに捕えられたまま、消息を絶った夫・アルベールに似ているのだ。
彼女は不安の混じった期待でその男の通るのを待つようになった。
ある暮れ方、手伝の娘に男を導き入れさせ、物陰で男の言葉に耳を傾けた。
男は記憶を喪失したのだという。
彼女は男の後をどこまでも尾けて行った。
セーヌの河岸のささやかな小屋。
その夜、彼女はそこから離れなかった。
翌朝、男と初めて言葉を交わした。彼女はもしや……という気持が、もう動かせない確信に変わっていった。
何日か後、アルベールの叔母と甥を故郷から呼び、記憶を呼び戻すような環境を作ってその結果に期待したが、彼の表情に変化は認められなかった。
叔母は否定的だったが、彼女は信じて疑わなくなった。
ある夜、男を招いて二人だけの晩さんをした。
ダンスをした。
それは幸福な記憶に誘う。
彼女の眼にはいつしか涙が光っていた。
夫の記憶を取り戻す術はないのか。
背を向けて立ち去ろうとする男に、思わず叫んだ。
「アルベール!」
聞こえぬげに歩み去る男に、それまでの一部始終を伺っていた近所の人たちも、口々に呼びかけた。
瞬間、男は立ち止まった。
記憶が甦ったのか?一瞬、彼は脱兎の如く逃げ出した。
その行く手にトラックが立ちふさがった。
あっという間の出来事であった。
目撃者のひとり、ピエールのなぐさめの言葉に、テレーズは一人言のように呟いた。
「寒くなったら戻ってくるかもしれない。冬を待つんだわ」
コメント:
マルグリット・デュラス脚本、アンリ・コルピ監督によるメロドラマの傑作。
1960年代初頭のパリを舞台に、美しきカフェの女主人と行方不明となった夫そっくりの記憶喪失男との姿を通し、戦争の悲劇を描き出す。
白黒の美しい映像に惹かれる作品だ。
編集者としてキャリアを積んだアンリ・コルピ監督の初長編にあたり、見事にパルムドールを射止めた。
公開された頃は、ヌーヴェルバーグ。
アバンギャルドなインパクトのある映像も時々挟まれている。
ストーリー展開は単純で、登場人物の二人の行動から、心の動きや背景などをじっくり描き出していくスタイル。
それも緊張感を絶やさず、映像に惹きつけられる。
カフェで食事を提供するテレーズと男の、二人の時間の描写がしみじみと描き上げられ圧巻。
ヒロインのテレーズが、男をダンスに誘い、踊りながら彼が自分の夫であることを確信する表情が印象的だ。
そして、男が呼び止められるシーンは、現在のパリの町が、あたかも大戦中に逆戻りする衝撃的な瞬間だ。
決して男が元夫であったのか?という結論は明かされない。
ただただ、戦争の傷痕は果てしなく続いていくという印象を残す。
その果てしない時間は、記憶を失った男にも、待つ女にも続いていくのだ。
戦争の悲惨さがグッと迫ってくる最高の作品になっている。
ヒロインを演じたアニタ・ヴァリの40歳頃の演技。
年齢的にも役柄と一致したような雰囲気で、心情を静かに表に出していく演技が美しく、素晴らしい。
この女優はクロアチア出身(当時はイタリア領)で、100本以上の映画に出演した。
多くの映画に出演しているが、本作は彼女の代表作である。
代表作は、『パラダイン夫人の恋 』(1947年)、『第三の男』(1949年)、『夏の嵐』(1954年)、『かくも長き不在』(1961年)、『ルナ』(1977年)。
監督のアンリ・コルピが描いた素晴らしい作品である。
この人は、監督しては本作以外にあまり多くの作品を残してはいないが、フランスのヌーヴェルヴァーグを支えた編集技師としての存在が大きかったようだ。
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