「土」
1939年4月13日公開。
第16回キネマ旬報ベスト・テン第1位。
原作:長塚節「土」
脚本:八木隆一郎、北村勉
監督:内田吐夢
キャスト:
- 勘次:小杉勇
- おつぎ:風見章子
- 与吉:どんぐり坊や
- 卯平:山本嘉一
- 平造:見明凡太朗
- 兼博労:山本礼三郎
- 源さん:鈴木三右衛門
- たみさん:藤村昌子
- 地主の内儀さん:村田知栄子
- 雇婆かつ:坂東三紅紫
- 雇女おくめ:高真理
- 野良番頭彦造:沢狂介
- 女房よしえ:三井智恵
- その娘アヤ:桜美代子
- 作男熊吉:米倉勇
- 作男作太郎:寺井郁男
- 作男芳一:竹石喬一
- 駐在巡査:長尾敏之助
- 渡し船頭:金子春吉
- 周旋人喜八:潮万太郎
- 老婆お筆:戸田春子
- 老婆おあき:紅沢葉子
- 村人徳市:赤星瞭
- たみさんの伜:飛田喜佐夫
あらすじ:
明治時代。父親が作った多額の借金のため、勘次は娘のおつぎと息子の与吉とともに貧しい生活を送っていた。
父親の卯平と息子とは、借金が原因で折り合いが悪く、一緒に暮らしていた卯平は、ひとり納屋で暮らすことに。
おつぎは亡くなった母親の代わりに農作業を手伝い、勘次にも卯平にも優しく接していた。
ところがある日、卯平と与吉が囲炉裏に火をつけようとして、家が炎に包まれてしまう
コメント:
原作は、長塚節の同名長編小説。
作者の郷里である茨城県鬼怒川沿いの農村を舞台に、貧農一家の生活を農村の自然や風俗・行事などと共に、写生文体で克明に描いた作品。
長塚の唯一の長編小説で、農民文学の代表的作品。
内田監督の戦前期の代表作で、長い製作日数をかけ徹底したリアリズムで描いた。
地味な内容にもかかわらず3週間続映のヒット作となり、文部省推薦も受けた。
評価も高く、第1回文部大臣賞、第16回キネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれた。
農村に生きる人々を徹底したリアリズムで描き、内田作品の中でも最高傑作と称される。
しかし戦災により内容が欠落しており、現在見ることができるのはドイツで見つかった93分版と、ロシアで発見された115分版のみとされている。
この映画は、昔の農民を描いただけの地味な作品では全くない。
演出、撮影ともに超絶だと専門家が評価している。
ストーリーも、『怒りの葡萄』ばりの展開である。
映像もすでに西欧っぽい。
撮影をつとめた碧川道夫の映像が秀逸である。
1928年に公開されたフランスのサイレント映画である『裁かるるジャンヌ』( La Passion de Jeanne d'Arc、ジャンヌ・ダルクの受難)などを撮影してアカデミー撮影賞に何度もノミネートされたルドルフ・マテなどの匂いがするとの評価だ。
ドイツ語の字幕も出るしで、やたらモダンさを感じる作品になっている。
この頃、西欧の作品から必死で映画の最新技術を取り入れようとしてしていたことがはっきり伺える、邦画界の貴重な作品なのだ。
この映画は、今ならYouTubeで全編無料視聴可能。
画像は粗いし、雑音もあるが、全体の流れははっきり見える。
日本の映画の歴史に興味のある方は必見だ。